不吉な訪問者
満開の桜で庭が淡い紅色に染まっている。
お腹は少し膨らんできた。
不思議な感覚を覚える。
私のお腹に、私の中にもうひとつ命がいる。
膨らんできたといっても帯を締めていると変化がわからない。
体調も日によって違うが本日は元気。
明るく照っている太陽を見上げて微笑む。
青い空は私の悩みも全て吸いとってくれるみたいに感じる。
まるで蒼太みたい。
そんなことを考えていると蒼太に会いたくなった。
部屋に向かおうと視線を廊下に戻すと、誰かがいた。
真っ直ぐこちらを見て薄く微笑みを浮かべたその表情をみて思い出す。
「…どうしてここに、…和仁さん」
睨むように見返すと和仁はニヤリと笑った。
「久しぶりに会ったのにそんな顔すんな、陽愛」
名前を呼ばれて虫酸が走る。
霧崎和仁、私の従兄弟。
有力な霧崎家の長男の和仁は幼い頃からズル賢い嫌な人だった。
私を嫁にしたいと言っていたらしいが、柴咲家が霧崎家より有力な春宮家に取り入るために却下していたらしい。
「それはそうとお前葬儀に来なかっただろ、どういうつもりだ」
この間行われた私の家族の葬儀。
「私の家族は春宮の皆だけだわ」
横をすり抜けて蒼太の部屋に行こうとすると、腕を掴まれる。
「お前が柴咲家をどう思おうと関係ないが、今からでも俺の妻として迎えてやっていい。それほどにお前は価値がある」
掴まれた腕が痛む。
「触らないで」
存分に睨み付けて腕を振り払った。
「2度と私の前に現れないで」
歩き出すと後ろから笑い声が聞こえる。
「また来るよ、陽愛」
そのまま蒼太の部屋にも行けず自室に戻る。
窓を開ければ庭が見える。
ひらりと桜がひとひら、風にのってとんできた。
雪乃さんも好きだった庭の桜。
不思議な力があるように感じてそっと、願う。
どうか私に力をください。
守られるだけは嫌なの。
大切な家族を守りたい。
窓から見える桜が滲んで、今にも消えてしまいそうに見えた。




