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小さい頃

桜が花を咲かせ始めた。

私のお腹にはまだ変化がない。

相変わらず体がだるく食欲も日によってない日が多いが、それにもなれてきた。

この子が蒼太に似ればいい。

蒼太みたいに綺麗な瞳、品のある薄い唇。

私の好きな人に似てくれたらいいな。

妊娠がわかってから蒼太は夜、早くに部屋を訪れるようになった。

「蒼太は…どんな子どもだったの?」

私が知る蒼太はもう少年になっていた。

幼い蒼太はどんなだっただろう。

「俺が小さい頃か、…よく怪我して怒られてたことしか覚えてないな」

苦笑いをしながら蒼太は遠い目をする。

きっと、可愛い子どもだったのだろう。

「よく母に叱られていた」

私の手を繋ぎながらぽつぽつ、蒼太は話し始めた。


「母上!見てください雪だ!」

朝起きてすぐ身なりも整えずに庭に駆け出す。

「蒼太、風邪ひくわよせめて着替えて!」

母は縁側から身を乗り出して叫んでいた。

体が弱い母は雪の中に出てくるわけにはいかなかった。

たしかその日も母は体調が良くなかったのだ。

手に山盛りの雪を乗せて母の元へ向かう。

「真っ白だ!母上みたい」

困ったように笑った母は俺をそっと腕に抱いた。

「蒼太が元気で良かったわ」

母に抱かれながら降り続ける雪を二人で眺める。

母はそっと俺の肩や頭に残った雪を払って笑った。

「戻りましょうか」

その笑顔が幼いなりに儚いものだと感じた。


「雪乃さんは本当に雪みたいな人だったのね」

ポンポンと蒼太の頭に手を置いて、ぎゅっと抱き締める。

私達の子どもも元気だったらいい。

元気で幸せな人生を送れるように、私が守ってみせる。

雪乃さんみたいな母親になりたい。

蒼太は仕事の疲れが溜まっていたのだろう。

私の腕の中でいつのまにか眠っていた。

まるで子どもみたいな寝顔。

揺れる蝋燭の灯りを吹き消した。

月明かりが蒼太を優しく照らしていた。


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