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桃の花

桃の蕾が綻び始めた頃、義父が帰ってきた。

久しぶりのその人は相変わらず強面に似合わぬ微笑を浮かべて立っていた。

「お帰りなさい、義父様」

蒼太は仕事で居なかった為私と汐里が出迎える。

「…陽愛、大変だったな」

少し哀しそうな声で義父は言い、私の頭にその大きな掌をのせた。

「私が勝手にしたことです。義父様と蒼太にはご迷惑を…」

私の言葉を遮るように義父は足を進める。

「陽愛、ありがとう」

予想外に感謝の言葉を述べられて固まる。 

大きな背中が城に入っていく姿を、ただ見つめていた。


「陽愛、大丈夫か?」

最近そう言われることが増えた。

「大丈夫よ」

食欲がないこともありふらつくことが増えた。

蒼太は度々悩みでもあるのかと聞いてくる。

心の病を心配してのことだろう。

「ごめんね」

そんなときはいつも笑って謝るしかできない。

「陽愛、食欲ないみたいだしせめて栄養あるもの食べないとね」

汐里がいつものように食膳を持ってきた。

そのときだった。

「…っ!」

ぐっときた吐き気に慌てて厠に駆け込む。

汐里は怪訝な顔をして背中をさすってくれた。

「陽愛…もしかして」

汐里は私をまっすぐ見つめて言った。

「懐妊?」

まさか、でも。

日々落ちる食欲、過敏になった嗅覚。

思い当たる節はある。

汐里はすぐに医師を呼び、私は診察を受けた。

私の脈を診ていた医師がそっと頷いて私を見つめた。

「おめでとうございます」

あぁ、命が私に宿ったのね。

汐里が嬉しそうに私を抱き締めた。

肩を濡らす汐里の涙で夢じゃないことを悟った。

庭園で桃の花が新しい命を祝福するかのように咲いていた。

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