曇天の雪
「汐里、陽愛に何があったんだ」
戻ってから部屋に籠りきりで顔を見せない陽愛。
蒼太が珍しく泣きそうな顔をしている。
「…何かを聞いたの?」
どうして、そんなにも泣きそうな顔をしているの?
陽愛はきっと、隠したいはず。
でも、何かを聞いたのなら隠してはおけない。
「血塗れで帰ってきたと、報告があった」
…見られてしまっていたか。
「…陽愛は自ら柴咲家を罰してきたの」
一瞬訳のわからないというような顔をして蒼太は固まった。
「それは…つまり、自分の家族を殺めたということか…?」
何も言えず、ただ蒼太の青ざめた顔を見ている。
「今すぐ陽愛と話をする」
横をすり抜けようとした蒼太の腕を咄嗟に掴む。
「だめよ」
今はダメ。
「あいつは、俺に変わってそんなことをした!そんな必要はなかったのにだ!」
叫ぶようなその声の悲痛な響きに、私も泣きたくなる。
「陽愛が望んでしたことよ」
蒼太の腕を掴んだまま、独り言のように呟く。
「陽愛が自分で決めたこと、私達が攻めてはいけないと思うわ」
バッと手を振り払って歩き出した蒼太に、「冷静になれ」と叫ぶ。
違う。違うでしょう。
冷静を欠いているのは私。
「お願い…陽愛が、今一番傷付いているのに…蒼太まで責めたりしないで…」
蒼太の腕が肩に掛かる。
「俺が悪かった…泣くな」
そう言われてやっと自分が泣いていることに気付く。
泣くのは、悲しむのは私じゃない。
「陽愛を守って」
私ではない、あなたが。
私じゃ駄目だから。
「そんなの、当たり前だろ」
そう言って蒼太は自室に戻っていった。
私の心とは裏腹に、曇天の空には美しい雪が舞っていた。




