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雪を溶かす月

「陽愛…」

汐里が気遣わしげに声を掛けるが、今は何も言えない。

「一人にして」

今は誰とも話したくない。

部屋に一人篭っていたってなにも変わらないことはわかってる。

わかっているのに。

誰かに非難されるのが怖かった。

蔑む視線を向けられるのが怖かった。

人に手をかけた感触は消えることなく私を苦しめる。

罪の無い陽葵だけでも助ければ良かったのに、自分の中の誰かに言われた気がした。

それでも将来、春宮の敵になるかもしれない存在を助けるわけにはいかなかった。

違う。

そんなのは建前。

本当は、柴咲の血筋を絶ちたかったのかもしれない。


部屋が真っ暗になってやっと、夜になったと気付く。

月も出ていない暗い夜。

私の心を映したかのように雲が月を隠す。

このままではいけないと、なんとか身なりを整える。

自分に散った罪の証は洗い流した。

洗い流しても尚心に重くのし掛かるそれを忘れようと首を振る。

静かに扉の開くおとがして部屋に明かりが灯った。

顔を上げるとそこには愛しい人。

「陽愛…、全部汐里から聞いた」

蒼太の表情から気持ちがわからず、泣きそうになる。

私はもう、あなたに愛されていた私ではない。

穢れた私は、あなたに愛される資格はない。

決行と共に覚悟を決めていた。

静かに次の言葉を待つ。

「俺の代わりに…傷付いてくれてありがとう、背負わせてごめん」

蒼太の言葉が予想外で固まってしまう。

いつもと変わらない優しい笑顔が、その腕が。

穢れた私を優しく包む。

溢れる涙が蒼太の肩を濡らしてしまう。

ゆっくり、重なりかけた唇をそらしてしまう。

不思議そうに顔を覗きこんだ蒼太に困ったように笑う。

「私はもう、前の私じゃないよ。許されない罪を犯した」

その腕から逃れようとするが、その腕はなおも私を抱き締める。

「俺の代わりに被った罪だ。それに…陽愛は陽愛だから」

優しく唇が重なって、そのまま倒れこむ。

「どこにもいくな」

まるで私がどこかに行ってしまうのを繋ぎ止めるかのようにきつく抱き締められる。

いつの間にか消えていた灯り。

雲が風に流されて月明かりが射す。

月の光に白く浮かぶ蒼太の肌。

初めて一つになって、いっそこのまま消えてしまいたいと願った。

痛みは甘さに変わって、雪のように溶けていった。



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