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鮮やかな華

目の前に広がるその光景を、酷く落ち着いて見ている。

両親は自分達と娘の不仲を周囲に知られないようにと人払いしていたらしい。

静かに庭に目をやる。

ただ白い世界に小さく咲いたその花は、毒々しい程に鮮やかだった。

その部屋を出て踏みしめるように歩く。

真っ直ぐ歩くことが難しく感じる。

「お姉ちゃん」

呼ばれてゆっくり振り返る。

そこにいたのはわたしの妹。

その顔が静かに凍っていく。

振り返った私の顔に飛んだ梅の花、着物に散る朱。

色をなくしたその顔を、私は以前にも見たことがある。


「ふざけるんじゃない!」

そう言いながら私を殴る、父親という人の仮面を被った悪魔。

妹が羨ましかった。

私も愛されたかった。

幼かった私は愛されたいと親に願い、打ち砕かれた。

唇を切り、顔を腫らした私を妹は色の無い瞳で一瞥した。

何も言わずに、両親の元へ歩いて行く。

悪魔の子は悪魔、両親に愛されている妹は私を一度だってかばったことはなかった。


「ねぇ、楽しかった?」

悪魔の温室で育ったその娘に問う。

「自分だけは可愛がられて、楽しかった?」

理解できないというように固まったままのその顔に問う。

ハッと瞳に焦りが浮かんで何かを言おうとしたその娘を。

私に似たまだ10歳の陽葵ひまりを。

撫でるように腕を伸ばし、手を引いた頃には朱が散っていた。

倒れた陽葵のその傍らにそっとその懐刀を置く。

元々はこの家の物。

お返しするわ、今度こそ本当に、ここには来ないから。


門を出たら、汐里が焦ったようにとんできた。

「体を冷やすわよ」

私の姿を見てその顔を哀しそうに歪ませたが、特になにも言わずに私の肩に上着をのせる。

自分に散った梅の花を凝視してから、そっと輿に乗る。

恨むなら私を恨みなさい、そして私を悪魔に育てた自分達も。

全てはここから始まっていたのよ。

自分で消し去ったそれらの命を、私は一生背負っていきて行く。

罪は消えることなく私を縛るだろう。

瞳を閉じて改めて思う。

この世は、不公平だと。


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