梅の花
「久しいですね、父上、母上」
両親の部屋に通され、久しぶりに二人の顔を見る。
その席に妹はいないようだった。
「文を私の旦那様に送った真意はわかっています」
あくまでも冷静に、ただ真実を述べていく。
私に相手にされず、蒼太に文を送ったのは。
私を愛している彼なら私の身を案じて協定を断つ事を避けようとするだろう。
私は気にしないけれど、優しいあの人たちは気にしてしまう。
だから、その気持ちを利用しようとしたのだ。
協定を結び続けるなら要求を飲めと、そう言うつもりだったのだ。
「落ち着きなさい。久しぶりに会ったのよ、よく顔を見せて」
早々に結論を出そうとする私に母は必死で話を伸ばそうとする。
「見ますか?悪魔の親から産まれてきた悪魔の子を」
笑顔で彼らを見る。
「私は、駒だった。今さら何を言いますか、母上」
顔色が青いその人を真っ直ぐ見据えて、言い放つ。
「陽葵の為ならなんでもするんですね」
未だに、まだ少し傷付く自分がいる。
両親は二人とも、二番目の子だった。
昔からよくある話、跡取り息子や長女はちやほやされることが多くて下の子は寂しい思いをすることがあった。
私の両親は、自分達と同じ二番目の子が好きなのだ。
長男長女は憎まれる存在として育った二人に、長女である私は一度だって可愛がられたことがなかった。
「駒の私は切り捨てますか?」
父親の瞳を見る私の目には軽蔑の色が浮かんでいるのだろう。
それでもそんなことはない、って返してくれることを期待する自分を呪いたくなる。
「柴咲家に生まれた以上お前は柴咲家の駒だ。今後はしっかり自分の役割を考えろ」
父親が発したその言葉が私の中の何かを壊した。
そっと近付いて、その顔をよく見る。
「ありがとう、最後までそのままでいてくれて」
近付いて離れる時、鮮やかな朱が飛び散った。
隣で悲鳴を上げかけた母も、次の瞬間には畳の上だった。
畳の上に広がる朱に、嫌に頭が冷えていく。
私の手には懐刀。
結婚して家を出る時に、この二人から渡されたもの。
柴咲家の邪魔になるものを排除するようにと、渡されたその小さな刀で。
自分達の命が散らされるなんて思わなかっただろうに。
窓から覗く庭には白い雪の中、鮮やかな梅の花が咲いていた。




