悪魔の家
一人部屋で、その時を待つ。
その膝に、お守りのようにあの懐刀を置いて。
瞳を閉じてじっと静かに待っていた。
「陽愛、本当に行くの?」
汐里はどうにか引き止めようとしている。
でも、決めたの。
「昔からそうだったでしょう?
決めたことは必ず成し遂げるわ」
お願い、誰も止めないでほしい。
決意が揺らいでしまったら、きっと私は何もできなくなってしまう。
「どこまでも着いていくわ。あなたが決めたことなのなら」
哀しそうに笑った汐里から目をそらし、心の中で詫びる。
私はこれから人ではなくなる。
ねぇ、こんな私を蒼太は変わらず受け入れられる?
たとえ悪魔と呼ばれて嫌煙されたっていい。
あの人が心を痛めるのはもうたくさんなの。
「行こうか」
汐里の静かな声室内に波紋のように広がった気がした。
外に出ると吐く息が白い。
凍ったように冷たい指先が何かにすがるように着物の裾を掴む。
時間の経過が感じられず、汐里に声をかけられたら既にそこに着いていた。
私が悪魔の家と思いながら育ち、もう二度と来ないだろうと思っていたその場所に。
足を踏み入れたら最後、私も人ではなくなるのだろう。
それでもただ前を見据えてその門をくぐる。
もうあの時の私ではないのだから。
そう思ったら、自然と笑みさえ浮かんできた。
出迎えた人々を冷たく見つめながら、私はその地に踏み入れた。




