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僅かな綻び

「陽愛、最近一緒にいられなくてごめん」

久しぶりに二人で過ごす夜に、蒼太は哀しそうに笑って言った。

「私は平気だよ。皆もいるし、汐里もいるし」

二人の時間が嬉しくて笑顔が溢れる。

唐突に蒼太が私を抱き締めて、耳元で囁いた。

「嘘ついた。寂しかったのは、俺の方だ」

悔しそうなその声に胸が締め付けられる。

「わたしも、寂しかったよ」

この腕が、この声が、温もりが、全てが恋しくて強がっていないと瞑れてしまいそうだった。

「でもね、蒼太が頑張ってるって考えたら私も頑張れるから」

だから大丈夫、と彼の頭を優しく撫でる。

「陽愛、どこにも行かないでくれよ」

急に呟かれた台詞に、意味がわからず首をかしげる。

「俺以外のやつに、触られたりすんなよ」

ぎゅううと力強く抱き締められて苦しくなる。

「苦しいってば…だいぶありえないよ、それ」

ぽんぽんと背中を叩いてその顔を覗きこむ。

「私も、蒼太にしか触れたくないから」

そっと重なった唇は、焼かれたように熱かった。


「陽愛、ちょっとごめん」

昼間に窓の外を眺めながらそろそろ雪が降るだろうかと考えていた時、珍しく焦ったような様子の汐里が部屋に入ってきた。

「どーしたの、そんなに…」

その顔をみて、良くない事態が起こったことを悟った。

それも、きっと私の実家の話だろうと腹を括る。

「これを…」

差し出されたのは柴咲家が蒼太に送った文。

さっと目を通して、私は自分が酷く冷静であることに驚く。

「これはもう、蒼太は知っているの?」

汐里は静かに首を横に振る。

柴咲家からの文ということでまず私に持ってきたのだろう。

「いずれはばれてしまうだろうけれど、まだ何も言わないで」

その文をぐしゃっと握り潰してから、汐里を見据える。

「このことは、しばらく私と汐里の秘密よ」

文を握りこんだまま、部屋を飛び出す。

園庭の桜の木の前に立ち尽くして、しばらく動けなかった。

葉が全て落ちた木に触れて、思考を止めようとする頭を必死で動かす。

まさか、こうくるとは思わなかった。

本当に私は駒でしかなかった。

使えない駒は切り捨てるのが基本、そんなのわかってる。


―柴咲は春宮との協定を断つこととする。

 その首を狙おうとこちらの勝手である。


それは、蒼太への、春宮家への宣戦布告だった。

協定を結ぶために駒を送ったのに何もしないのなら切り捨てて敵側に着くということだろう。

全ては私に原因がある。

このままではいけない。


たとえ私が私でなくなったとしても、春宮家を、蒼太を…

柴咲家に奪わせたりしない。

私は、必ず蒼太を守る。

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