春宮家へ。
輿に揺られるうちに眠っていたらしく、
気付いたらもう春宮の城に着いていた。
眠気眼をこすって輿を降りると、美しい女の人が立っていた。
「お待ちしておりました。陽愛様」
黒髪をさらりと揺らしてその人は頭を下げる。
「早く中へ、城主が陽愛様をお待ちしております」
さっさと先を歩くその人に着いていく。
綺麗な城。ここがこれから私が暮らす家。
「陽愛…っ」
後ろから私を呼ぶ声。
振り返ると、背の高い顔立ちの整った男の人。
「なんでしょう?」
見覚えのあるような、ないような。
「あのお方が蒼太様ですよ。」
先を歩いていた彼女が立ち止まり、耳打ちしてくれる。
「蒼太様、蒼太郎様がお呼びです。」
はっとしたように私から目をそらし、彼は歩いていってしまった。
「なんなの」
城の最上階にあたる部屋に通されると、強面の男性が座っている。
「蒼太郎様、陽愛様が到着されました。」
「陽愛、美しく成長したなぁ!会いたかったぞ!」
強面の男性、この城の城主、春宮蒼太郎。
思っていたのと違う反応に面食らって黙っていると、
今日から義父になるこの人は勝手に喋ってくれていた。
「本当ならもっと早くに嫁にもらうつもりだったが
なんせこいつがまだ早いとか抜かしおってな!」
こいつ、と呼ばれた蒼太はむっつり横を向いている。
「ま、気楽にやっていこうじゃないか。 もうお前さんは娘だからな!」
「ありがとうございます、義父上様」
こんなに、歓迎されるとは思っていなかった。
「陽愛のお付きは汐里だ。仲良くしてやってくれ。」
迎えに来てくれていた美少女が、私のお付き、汐里さん。
「なんなりとお申し付けくださいね。」
笑った顔が、女の私から見てもドキッとするくらい妖艶だった。
「さっそく部屋に案内してやれ。陽愛も疲れているだろうし、休め。」
「あ、ありがとうございます」
城主のありがたい申し出に従い、汐里の後についていく。
「部屋はこちらになります。足りないものは言ってくだされば
御用意致しますので。」
汐里さんは軽く頭を下げると部屋から出ていった。
私一人が使うには広すぎる部屋。
化粧台もあるし、元いた私の家とは比べ物にならないくらい。
優遇されている、と感じながら畳に寝転ぶ。
せいぜいうまく立ち回って、離縁などされないように。
2度と、あの家に、あの人達に会いたくない。
そんなことを考えているうちに、眠ってしまった。
その日、私は困ったことに汐里さんがどんなに起こしても起きなかったらしい。
初日から大失態である。