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記憶の欠片

何度も何度も思い出そうとするのに、なにも思い出せない。

春宮に来てから何度も感じた既視感。

思い出さなければならないと焦れば焦るほど、記憶の鍵は遠退いて行く。

何も思い出せないまま数日がたってしまった。

「陽愛様、なにか悩みごとですか?」

汐里さんが心配そうに私を覗きこむ。

「なんでもないの」

思い出そうとすると頭が痛くなる。

軽く溢した溜め息に汐里さんが眉をひそめる。

「陽愛様、少し歩きませんか」

汐里さんに連れられて庭園を歩く。

揺れる葉桜を横目にもう夏も半ばだと感じた。

「陽愛様、私は陽愛様を生涯守りたいと考えております」

先を歩いていた汐里さんが振り返って、なぜか哀しそうに笑った。

「誰がなんと言おうと、陽愛様の味方でございます」

その細くて冷たい手が優しく私の手をとる。

「私だけは、何がなんでも陽愛様の想いに従ってみせます」

真剣なその瞳は、言葉以上に何かを語っている。

「だから、一人で悩まないでください」

泣きそうに歪む瞳から目をそらし、空を見上げる。

「私は、そこまで言ってもらえるような人間じゃないわ」

みんなから守られるような、そんなお姫さまみたいな人間じゃない。

駒なんて言うなと蒼太が以前言っていた。

ここでは私は一人の人間として大切にされている。

でも事実、実家では駒でしかなかった。

いきなり駒から人間に格上げされても急に変わることなんて不可能。

「人間の根っこの部分なんて変わらないのよ」

この言葉を自分で吐いて気付く。

この言葉をくれたのは、誰だっただろうか。

幼い頃に聞いた、私の…


「陽愛ちゃん、人間はね、根っこの部分は変わらないのよ」

優しい手を私の頭にぽんと置いてその人は笑う。

「だからどんなに辛いことがあって自分を見失ったとしても、陽愛ちゃんは陽愛ちゃんなのよ」

見上げたその人の笑顔は、蒼太に、似ていた。


私は、ここを、ここに住む人々を知っていた。

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