夢
夢を、みた。
場所は、今も暮らす春宮の城で。
まだ幼い私は同じく幼い男の子に手を引かれている。
「ねぇ、どこにいくの?」
男の子の駆け足が早くて足を止めてもらおうと声をはる。
「もうちょっとだよ!とってもいいところなんだ」
キラキラ光る笑顔で私を振り向いて男の子は少しスピードをおとした。
「ここだよ」
男の子が立ち止まって私を少し抱き寄せた。
「うわぁ!」
連れてこられたのは、蒼太郎の部屋。
窓から見下ろす景色には、満開の桜。
風に揺られてひらり、桜が舞う。
「陽愛、俺、大きくなったら強くなって絶対お前を貰いにいく。
だからそれまで待っててくれ」
桜を見たまま、男の子は言った。
私は、男の子をまじまじとみて笑った。
「待ってる。いつまでだって、待ってるから」
男の子は本当に嬉しそうに笑った。
そこで、目が覚める。
隣を見ると、まだ眠っている蒼太。
あの男の子は、笑顔が蒼太に似ていた。
ここに暮らしだしてから、たまに感じることがある。
私は、ここを、この景色を知っている。
私が来たときも汐里さんが言っていた。
私を嫁にと言っていたのは蒼太の母、雪乃さんであると。
私は何か大事なことを忘れている…?
とても大切な何かを、思い出さなければならないのに。
心が、鍵をかけているんだ。
蒼太の寝顔を見つめても記憶は甦らない。
思いだそう。
私の、私が私を棄てるために棄てた記憶を。




