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一人の夜

朝起きるともう、蒼太は部屋を出ていた。

早く起きて私も準備しないと、と起き出す。

「汐里さん、蒼太は?」

部屋の外に声を掛けると汐里さんがサッと現れる。

内心忍者みたいだなぁなんて思いながら汐里さんの切れ長の瞳を見つめる。

「蒼太様は今出発の準備をしております」

汐里さんがわたしの着物を整えながら静かに答える。

もうすぐ、行ってしまう。

これからしばらくの間会えない。

手に取ったあの簪を暫く眺めて髪をまとめる。

「ちょっと行ってくる」

小走りで廊下に出ると、蒼太が誰かと喋っているのが見えた。

誰だろう、家臣にあんなひといたかしら。

「あのお方は蒼太様の従姉妹にあたる椎名毬華しいなまりか様です」

そっと汐里さんが横から告げる。

胸が、ざわついた。

仲良さそうに喋りながら、蒼太が笑っている。

「多分お迎えに来られたんです。これから向かわれるのは椎名家ですから」

何も言えずに部屋に戻る。

「陽愛様、お見送りに行かれますか?」

控えめに聞かれた質問に無言で頷く。

暫く会えないのだから、挨拶くらいしに行こう。

「陽愛!」

部屋を出たところで蒼太が私に気付いたようだ。

「紹介する。俺の従姉妹の椎名毬華。毬華、俺の嫁の陽愛だ」

途端に目に見えて顔を歪ませた椎名毬華を見えていないものとして、蒼太の前に立つ。

「門まで一緒に行く」

ポン、と頭に優しく手を置いて蒼太は嬉しそうに笑った。

「陽愛、本当は陽愛も連れていきたいが…出来るだけ早く帰ってくる。それまで待っていてくれ」

優しい笑顔も、この手も、声も全てわたしのもの。

誰にも渡したくない、…椎名毬華にも。

「待ってる。だから、早く帰ってきて」

泣きそうになる自分を抑えて笑う。

蒼太はゆっくり私の手をとって、口付けた。

瞬時に顔が紅潮するのがわかる。

「心配すんな」

最後に私の髪を撫でて蒼太は門を出ていった。

暫く立ちすくんで見送っていた。


久しぶりに一人で寝る夜。

隣に蒼太がいない、それだけで胸にぽっかり穴が空いたように不安になる。

でも。

初めてこの手に触れた唇。

髪を撫でた、繋いでいたあの手。

心配すんなと言った蒼太を信じて。

あぁ、私、蒼太が好きだ。

一人で過ごす夜は長くて、でも自分の気持ちを自覚するためには必要だったのかもしれない。

眠りについたら蒼太の温もりを感じられる、そんな気がした。

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