すべてのはじまり
どうして、こうなったのだろうか。
わたしはいつから間違えたのか、そんなこともわからないなんて。
もうあの人に合わせる顔がないわ。
ひらり、視界を遮ったのは桜の花びら。
あぁ、あの日も桜が舞っていた。
時は、2年も前に遡る……
「陽愛、蒼太君を覚えているかい?」
16歳の誕生日の晩、父親が唐突に言った。
「誰それ」
正直、覚えていないわけじゃなかった。
「蒼太君の元に嫁いでほしい」
この戦国の世では政略結婚なんて別段おかしいことではない。
こうなることは既に予想していたし。
でも―…
「陽葵のためだと思ってくれ」
ほら、結局誰だって陽葵が一番なんじゃない。
「いつ、式をあげるの」
半ば諦めながら聞く。
「お前が承諾したら明日にでもと先方は仰ってる」
結局、もう決まってるんじゃないの。
返事を返さないまま、開いた障子から夜空を見上げていた。
春宮蒼太、時の権力者である春宮蒼太郎の一人息子。
春宮家の時期当主で幼い頃に何度か顔を会わせたことがある。
まぁ、顔は悪くなかったはずだし、性格も。
何年も会ってないのにわかるはずがないじゃないのよ。
妹の陽葵のことしか考えてない両親にそんなことを言ったところで
なにも変わらないのは目に見えているから、
―もうなんでもいいわ。
意識的に何も考えないようにして、その日を迎えてしまった。
「お姉ちゃん、もう会えないの?」
6つ下の妹、陽葵が私の袖を引いた。
「春宮のおうちはそんなに遠くないから、いつでも会えるよ」
ふんわりウェーブのかかった陽葵の美しい黒髪を撫でながら、
もう二度とこの家に帰ってこないと心に決めていた。
春宮の城とこの家では距離はそう遠くなく、時間にして2時間程。
それでも、もうこの家の誰にも会いたくなかった。
「陽葵、またね。」
家の前に待機している輿に乗り、もう、外は見なかった。