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7話 諦め、なにそれ美味しいの?







――――――――――――――




「うわぁ。スゴい」


初めて見るのか洛陽の広さに驚く郢士。


「広いですよ、旦那」


クイクイっと袖を引っ張る。


「流石は都、洛陽。栄えてますね」


大通りには店が立ち並び、人も溢れている。


「はぐれないようにして下さいね」


僕は左手を伸ばす。


「ふん。アタイだってそんなに子供じゃないよ」


と右手を出す郢士。


素直なのか、じゃないのか。


「ふふふ」


「なに笑ってんだよ、旦那」


手を握り、笑う。







「こうして見ると僕らはどのように見られるのでしょうね?」


「へ?……何、言ってんだよ」


「まぁ、無難に親子でしょうね」


「…………まぁ、そうなんじゃない」


「で、なんで蹴るんですか?」


「うっさい」


「お父さんは悲しいよ」


「お父さん、言うな、バカ」


ふぅん。こういうやり取りも中々新鮮だな。


ずっと一人旅だったからね。


「そろそろお昼にしますか」


僕は手近な店を探す。


「………」


「朝夜、聞いてますか?」


反応を示さない郢士を見ると………


「………」


朝夜は旅商人の露店の品に目がくぎ付けになっていた。


鮮やかな装飾品。指輪に首飾り、腕輪、髪飾りなどの女性物が多い。


品揃えも中々のようだ。


「朝夜ぁ~、聞いてますか~?」


「………」


おぉ。いっちょまえに無視ですか?無視なのですね。


「朝夜ちゃ~ん、ごはんでちゅよぉ」


「………」


むむ。


「朝夜ちゃん、おなかペコペコですかぁ?」


「………」


「あ・さ・やんッ!あ・そ・び・ま・しょッ!」


「………」


えっ?羞恥プレイ?放置プレイ?


ゾクゾクなんてしないんだからッ!?


「………」


「すみません、朝夜さん。もう勘弁して下さい」


もうそろそろ反応を下さい。


「へぅ……」


袖を引いて、気を引く。


………別に上手くない。


ただ、そこまでして得られたのは郢士の可愛らしいため息だけだった。


「ふん。何をそんなに熱心に見ているのでしょうね」


僕は郢士の視線を追いかけて、それを見る。


「…………」


「へぅ……」


上が僕、下が郢士です。


決して逆では無い。ここ重要、テストに出ますよ。


そこには小さなかんざしがあった。


「なんとも。普段は勝ち気で男勝りなくせに、妙なところで女の子ですね」


「うっさい。大きなお世話だ」


ゲシッと蹴る郢士。


反応を示した郢士ですが、蹴るのは勘弁を。地味に痛いです。


「というかいつから聞いてたのですか?」


「耳の横でごちゃごちゃ言われたら、嫌でも気づくよ」


頬を膨らます郢士。


とりあえずつつくことにしました。


「ガウッ!」


うわ。今、噛みつこうとしましたよ、この娘。


「それでこれが気に入ったのですか?」


僕は郢士の見ていた釵を手に取る。


「ふん。中々によい仕事をしてますね」


質素ながらも決め細かに細工がされた装飾。


職人が一つ一つ丁寧に心を込めて作った感じがした。


「店主、これはいくらですか?」


店主が示したのは、今の手持ちでも事足りる程度の額だった。


「ではこれを一つもらいます」


お金を渡し、釵を受けとる。


「はい。どうぞ」


「……いいの?」


「どうぞ」


一瞬、躊躇いながらもそれを受け取り、髪に刺す。


「ど、どうかな?」


少し照れながら、僕に見せる。


「似合ってますよ」


「えへへ……」


子供らしいハニカんだ笑顔


喜んでもらえたようだ。


「ううん、どれにしたものかしら?」


すると隣から声が聞こえた。


横を見ると緑色した髪の眼鏡の少女が商品と睨みあっていた。


「あ、こっちの首飾りも月が好きそう………でもあっちの指輪、月が付けたら可愛いわね………あぁ、もう決まらないわ……」


ああでもない、こうでもないと商品相手に格闘中の少女。


どうやら誰かへのプレゼントのようだ。


それにしてもまるで百面相を見てるようで面白い。


特にあの強気そうな目が…………。


コホンッ。変態じゃありません、紳士です。


「この髪飾りなんてどうですか、お嬢さん?」


僕は一つの髪飾りを差し出す。


「――え?」


突然横から話しかけた僕に目が点になる少女。


「ご友人への贈り物ですか?」


そんな彼女に柔和な笑みで接する。


「先程から悩んでいたみたいなので僭越ながらご助力をしようかと思いまして。どうですか、この髪飾りなどは?」


「………」


僕の持つ髪飾りを凝視する少女。


少女思案中……


「確かに、月に似合いそうな髪飾り………これにするわ。これをもらうわ」


お金を店主に渡し、満足気に髪飾りの入った袋を抱く。


「ありがと。助かったわ、えぇと……」


「役小角と申します。旅の商人をしています」


「そう。ボクは賈駆。字は文和」


「こちらは連れの………」


「郢士です」


ぺこ、と会釈をする郢士。


「それじゃ、ボクはこれで……」


「えぇ。また縁があれば」


賈駆は小走りで去っていく。


余程、早く渡したいのだろう。


見ていて微笑ましい気持ちになる。


「旦那はああいったのが好み?」


「うん?そうだね……嫌いではない、かな」


特にボクっ娘なところがストライクッ!!


「……変態」


謂われなき蹴りを頂きました。


「勿論、朝夜も好みですよ?」


「――///」


もう三発頂きました。


「そこのお兄さん」


ん?先程の店の店主が僕を手招きしている。


「お兄さん、中々の目利きじゃな」


「すみません、勝手なことをして」


「いやいや、いいんじゃよ。それよりお主に掘り出し物があるのじゃが………」


懐から布を出す店主。


「お主の目なら、この良さが分かるはずじゃ」


僕は布の中身を確認する。


「――これはッ!!」


「どうじゃ?」


「買った!!」


「ふふ。やはり良い目をしておる」







宿舎。


「♪♪♪♪」


「旦那、何だかご機嫌だね」


「えぇ。よい買い物をしましたからね♪」


あの店主、中々のやり手だった。


「まぁ、それは後で。それより朝夜もその釵を気に入ったようで……」


あれからずっと付けている釵を指す。


「え!?まぁ、気に入ってはいる、よ?」


素直に喜べばいいのに。全く、可愛いやつめ♪


「そんな朝夜にもう一つ贈り物があるんですよ」


「え?」


と僕は例の物を取り出す。


「あ、開けていい?」


ウキウキと中身を確認する郢士。


「…………」


その中身は半円状の棒の斜め上に三角形の布を左右に一枚ずつ取り付けられており、布には獣の毛皮があしらえてある。


所謂、ネコミミカチューシャだ。


「………宵の旦那?」


「うん」


今、僕は満開の笑顔だ。


「今ならこの尻尾も付いてくる」


着脱式の尻尾を取り出す。


「………」


「さぁ、付けて見せてください」


あぁ、でも蹴られるんだろうなぁ。


もしかしたら投げられるかも。その時は完全にキャッチしなくては。


「…し……ろ…」


「……へ?」


「う、後ろ、向いてろッ!」


「は、はい」


クルリと回れ右をする。


あれ?反応が違うような?


「も、もう……い、いいよ」


何だかモジモジとした音と恥じらいの雰囲気が長いこと続き、やっとのこと許可を得て、僕は振り向くと――――。


「……ど、どうだよ」


ネコミミカチューシャを付けたら郢士が恥ずかしそうに手を胸の前で組んでいる。


「…………」


「だ、旦那?」


僕は無言で近づき、郢士の両肩に手を置く。


「え?あ、あの旦那?少し、い、痛い……」


「――朝夜」


真摯な声で郢士に囁く。


「あ……旦那」


恍惚したような表情で目を瞑る郢士。


「―――朝夜、尻尾も付けて下さい」


「は?」


鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をする郢士。


「はい、これ。じゃあ僕は後ろ向いてるから。よろしく」


付け尻尾を渡し、回れ右ッ。


フフフ。南蛮では不覚をとったが、今回は死角なしッ!!


さぁ、今度こそ、心いくまで等身大猫耳少女を堪能し尽くすぞ。


「………」


あれ、何の音もしない?いやいや、恥じらいですね、はい、分かります。しかし、この待つ時間、悪くない。


誰がベジタリアン殺人鬼だッ!!


最高の誉め言葉だ。


「――ふ」



「ふざけんなぁぁぁ!!」


「ぐふッ」


後ろから飛び蹴りをくらう。


「なんでそうなるのよ、馬鹿旦那。鈍感、ニブチン、朴念仁、ヘタレ、×××」


何故か罵倒されてます、僕。


後、女の子が伏せる言葉を使っちゃダメだよ。


「あ、朝夜………」


「なんだよッ!」


完全に気が立っている。


「語尾には“にゃ”を……」


「うっさい、馬鹿ぁぁぁ!!」


……何を間違えたのだろうか?


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