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6話 覚悟と期待







――――――――――――――




「あ。邑が見えて来ましたよ、旦那」


南蛮という名の極楽から僕らは近くの邑に向かって歩いていた。


「はぁ。最後にもう一度、見たかった……」


「まだ言ってるよ」


もう、あんな完璧な猫耳少女をお目にかかることなんて。


文若殿も猫耳だったが、あれはフードだったから我慢できた。


あぁ。今度、また行こう、南蛮パラダイスに。


「はぁ。旦那が変人だったなんて知らなかった………」








「ふん。よい町だな」


「そうですね。旦那、ここでも店を構えるの?」


町をブラブラしながらこれからについて話し合う二人。


「うん?いや、ここも別にいいだろう」


「へ?別にいい、ってどういう意味ですか?」


「結構栄えてるし、店を建てる必要はないだろ、という意味だ」


「普通、栄えてる町に建てるんじゃないの?」


「ん?そうなのか?よく分からんが、栄えてる町に建てても大して儲からんよ」


「……え?」


「栄えてる町にはすでにその地に根付いた商家がある。それと競い合った所で負けるか、勝ったとしても出費が痛く重なるものだ。それよりも誰も根付いていない町に建てた方が儲かる。まぁ、あまり店を大きくせず、その日暮らせればいいのならこういった所は最適だけどね」


そう辺りを見渡す僕。


「ここに寄った目的は………とありましたね」


と近くの店に入って行く。


郢士もそれについて入る。


そこは――――武器商人の店だった。


「へいらっしゃい」


中の店員の威勢のいい掛け声が聞こえる。


「ふん。少し見させてもらいますよ」


「へい。御ゆっくりと」


店の中を見て回る僕。


「旦那。武器を探しに来たの?だとしたら、もっと良いとこにすればいいのに……」


郢士が店内を少し見回し、小声で言う。


そう。この店、お世辞にもよい店とは言えない。


置いてある武具はほとんどが安物。しかも手入れもろくにされていないよう傷み放題。


「いや、ここでいいのですよ」


品定めを続ける。


「うぅ。後悔しても知らないから」


郢士も諦め、武具を適当に見流す。そこで―――


「あ。これ、可愛いかも」


そこには一対の双剣があった。


派手な装飾はなく、子供の玩具のような作りだが、きちんとした得物だ。


ただ、鍛治屋が何を思って造ったか知らないが、大きさが一般的な物より一回りも小さい。


それこそ年端もいかぬ子供が使うのを目的としたかのように………。


「それが気に入りましたか?」


「だ、旦那!?」


「欲しいのですか?」


「え、あ。…………」


(あれ?何だか、旦那、怒ってる?)


「え、いや。別に……」


「欲しいなら買ってあげますよ」


「ホントに!?……あ」


「ふふ。別に構いませんよ」


笑う僕。


(なんだ、アタイの勘違いか……)


「すみません。これと、それからこれを下さい」


手に持っていた剣も一緒に購入する。


「へい。毎度」







「えへへ」


郢士は買ってもらった双剣を下げて、ご機嫌に笑う。


「そんなに嬉しいものですか?」


そんな郢士を見て、僕は言う。


「へ?………べ、別に嬉しくは………ないこともないけど」


「後半、声が小さかったですが、しっかり聞こえました」


「な、なな」


「まぁ喜んでもらえたのならば何よりですが」


僕は自分の買った剣を見る。


「旦那も買ったんだよね。もしかして掘り出し物?」


「ん?違いますよ」


そう言って、鞘から少し抜いてみる。


案の定、錆びついていた。


「うわぁ。不良品じゃん。返品しに行こ」


「いや、これでいいんですよ」


僕は剣を鞘に戻し、鞘と柄の部分を紐で固定した。


「それじゃ抜けないよ、旦那」


「抜かないから別に構わないさ」


「はぁ?使わないなら何で買ったのさ」


「使いはする。ただ抜かないだけです」


「また訳の分からないことを……」


ため息を吐く郢士。


「ため息を吐くと幸せが逃げていきますよ?」


「じゃあ吐かせないでよ、旦那」








「それで次はどこに行くのさ?」


「適当に歩いていれば………」


「だからそれはダメッ」


僕らは町に数日留まり、そしてまた旅をする。


「冗談は置いといて、都にでも行きますか」


「へ、洛陽に?何でさ」


「……なんとなく。まぁ目的ある旅でもないし、気の向くままに、ですかね」


「あっそ。まぁ宵の旦那が行くならアタイは付いて行くさ」






都への道中


「ところで旦那、なんで武器なんか買ったのさ?」


「あぁ。これは……盗賊避け、だね」


「盗賊避け?」


「そう。武器を持った相手に対してそうそうに襲わな―――」


「―――待ちな、そこの二人」


「金目の物を出しな」


短剣を携えた、五人組の盗賊が現れた。


「……旦那」


「ん?」


「盗賊避け?」


「そう」


「意味ねぇじゃねかッ!」


また蹴るよ、この娘は。


足癖が悪い。


「なにをグタグタぬかしてやがる」


刃物をちらつかせて脅すリーダー格の男。


「金目の物………あったけ、朝夜?」


「知りません」


「そっかぁ。う~ん、何かあったけ……」


上衣を探すが何もないし、あれ?僕、お金どうしたんだっけか。


「その腰に付いてるの飾りかよ」


僕の腰の剣を見て、盗賊の一人が鼻で笑う。


「とんだ腰抜け野郎だな。ぎゃはは」


それを聞いて、盗賊たちが次々に笑う。


「あぁ。これは二束三文で買った安も―――」


「旦那のことを悪く言うんじゃねッ!」


「あぁ?」


郢士がいきなり怒号した。


「旦那に謝れッ!」


双剣を抜く郢士。


「はっ!なんだ、そりゃ?玩具か?」


一回りも小さい双剣を見て、笑う盗賊。


「うっ、うっさい。死ねッ」


「おっと。危ねぇ、危ねぇ」


それをひょいと避け―――。


「ガキがでしゃばるん、じゃね!!」


「――カハッ」


そして腹を思いっきり蹴りあげる。


地面に踞る(うずくまる)郢士。


「ったく。威勢のいいガキだ。……ん?テメェ、女か?くはは、そりゃいい。奴隷商にでも売り飛ばすか」


郢士を見下し、下劣に笑う盗賊たち。


「………だ、だ、んな」


助けを求めるかのように僕を見る朝夜。


「朝夜。それが得物を抜くということです」


僕は平淡に言う。


「得物を抜くということは相手へ敵意を向けること。敵意を向けるということは相手から敵意が返ってくるということです。分かりましたね」


僕は剣を腰から鞘ごと抜く。


「へっ。兄ちゃんは話が早いな。……ん?なんだそりゃ、紐でくくられてるじゃねか。本当に飾りかよ」


それを降参の意と思ったリーダー格の男は剣のそれを見て、さらに笑う。


「まぁ、飾り、ではありますね―――」


「――ぐふっ!」


僕は鞘ごとリーダー格の隣にいた盗賊の腹を思いっきり横殴りにする。


「そこら辺の木の棒みたく殴りはできますから」


「なっ!?テメェ、何しやが―――んが」


そのままリーダー格の男の口に剣を突っ込み、押し倒す。


「あぁ。あと、磨り潰すとかできますね」


馬乗りの形で僕はリーダー格に説明する。


「――体験しますか?」


口の端がつり上がり、三日月のような笑みの形をつくる。


―――何も愉しくないけれど



―――何も可笑しくないけれど



―――何も面白くないけれど



ただ、笑みの形をつくる。


「て、テメェ!頭に何しやがる!?」


「――止めた方がいいですよ」


周りの盗賊を牽制する。


「今の状態で僕が死ねば、僕の全体重はこの剣に伝わり、お頭の口のなかに風穴ができますよ?」


「「「―――!!!」」」


「さて、と。……どうしますか?」


頭に目を向ける。


「僕の命と貴方の命。一人と一人。等価交換ではありますね」


フフフ、と笑ってみるテスト。


「――ヒィ!?」


……失敗。


目だけが笑わない。


「……あが、が」


あ。ごめん、ちょっと力入っちゃった。


「……つ、つらかるぞ」


口に入れられたまま頭が言う。


決断が早くて助かりますね。素直が1番ですね。


頭から剣を抜き取る。


「か、頭。何故ですか?!」


「ゲホッ……いいからつらかるぞ」


「あぁ。一つ忠告を……」


つらかる盗賊を引き留める。


「……何だよ」


「朝夜を奴隷商に売るのはあまり得策とは言えないですよ」


「……あぁ?」


「こういった気の強い子供は奴隷商はあまり好まないのですよ。調教に時間が掛かりますし、子供は壊れやすい、処理の手間も掛かってしまう。そういった趣味な方とは取引できますが、今の世は需要がありませんからね。奴隷商もそこを考えてますから。だから、こういった気の強い子供はあまり好まれないんですよ」


「なんで、テメェがそんなこと分かんだ……」


「何故って、――――僕、商人ですから」










「………旦那」


盗賊が引き上げていってから一言も喋らなかった郢士が、都の近くになってようやく口を開いた。


「ごめんなさい、アタイのせいで……」


「アタイのせい、て。何一つ損失は無いですよ?」


「でも迷惑かけたし……」


「迷惑?旅をしてれば盗賊には襲われます。連れが居れば、そこを突かれることもあります。それを踏まえた上で僕は朝夜を同行させているんです。迷惑をかけられることが前提なんですよ」


「何だよ、それ………。それじゃアタイは足手まといなのが前提かよ」


「当たり前です」


「ひでぇよ、旦那。アタイには何も期待してないってのかよ………」


「―――期待はしてますよ?」


「え?」


「期待はしてます。ただ、まだ無理なだけ、です。朝夜は経験も知識も不足してます。だからこうして色々教えてあげてるじゃないですか」


ポムッと頭に手を置く僕。


「よく経験を積み、よく知識を学びなさい。子供は素直が1番ですよ?」


「……///」


俯く郢士に頭を撫でてやる僕。


僕は空を仰ぎ見る


郢士もつられて仰ぎ見る。


そこには蒼天が広がっていた。


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