5話 南蛮と書いてハーレムと呼ぶ者
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「宵の旦那ぁ、ここはどこですか?」
道中の話し合いで僕のことを“宵の旦那”と呼ぶことで決着した。
そして僕は郢士のことを“あさやん”と―――――は呼ばない。
「朝夜、それは何度目の質問ですか?はぁ、ちゃんと聞いてなさいよ」
全く、毎回毎回同じことを説明するのも面倒なのだ。
「ここは――――見知らぬ土地です」
途中までは道だったのだけれど、いつの間にやら森に入り、それからずっと景色が変わらない。
「見知らぬ土地って………。迷子ってことですか?」
「それに近い」
「いや、迷子で間違いないですよ」
敬語に関しては僕が妥協して、許可しました。
「ところで旦那はどちらに向かってたんですか?もしかしたらアタイ、分かるかも知れませんよ。これでも方向感覚には自信あるんですよ」
へぇ。それは初耳だな。
「……邑だよ」
「どこの?」
「……どこかの」
「―――はぁ?」
「歩いていれば、どこかの邑に着くだろ?」
「…………」
世間は狭いのだ。
「もしかして、陳留からずっと行き先もなく、歩いていたんですか?」
「そうだが?」
「…………」
陳留では開拓出来なかった。いや“しなくてよかった”からね。他の邑でしようとすることにしたし。
「……旦那」
「ん」
「このど阿呆ぉぉぉ!!!」
「こら、朝夜、蹴るんじゃない。痛いじゃないか」
「なに考えてんだよ。行き先も決めずに町を出るってどこの武芸者だ、アンタ!?」
「違う。僕は商人だ」
「知ってるよッ」
ガシガシ、蹴ってくる郢士。
「普通、大まかでもでもいく場所は決めておくものだ」
「たがら、邑に……」
「それは大まかとは言わない。行き当たりばったりって言うのッ」
「だから蹴るのを止めなさい」
「うぅ~。どうするんだよ、目的地もなく、迷子。食料だって……」
「それは現地調達で、補えば……」
「うぇ。また、変な木の実やキノコなの。それにしてもここ、暑い。日陰なのに、蒸し蒸しして暑い」
「あぁ。確かに暑いですね」
なんだか周りの木々もよく見る木々とは違う感じだ。
それに土もなんだか乾いた感じでもなく、むしろ湿っている。
………あれ。もしかしてここって――――。
「にゃあ。そこの二人組!」
小さな子に声をかけられ…………。
「お前ら何者にゃ。ここはみぃがおさめる南蛮にゃ」
「――な、南蛮!?そんな所まで行き着いていたんですね、旦那」
ネコミミ少女の言葉に驚く郢士。
「…ね…………し……」
「――旦那?」
「ね、ね、……………み……」
「……あの。宵の旦那、大丈夫ですか?」
「……ね、ね、こ………みみみみ……」
「だ、旦那が壊れた……」
「なんにゃ?変なやつだじょ」
――――――――――
「―――猫耳だぁぁぁ!!!」
森を突き抜け、蒼天まで声が響き渡る。
「ほ、本物のネコミミ。しかも少女。南蛮にはこのような愛らしい姿をした存在が――」
僕は目にも止まらぬ早さで少女の背後に回り込む。
「………え?」
「な、なんにゃ?」
「あぁ。モフモフしている、耳まで毛が。尻尾までモフモフ。この肌触りも格別。しかもぬくぬくとしていて……ふふ、フフフ」
「にゃ、にゃにゃ?!なんにゃ、なんにゃ!こら、触るな、撫でるにゃ!」
「あぁ、いい。等身大の猫、いや猫耳少女。これぞ、匠の至高の品」
「にゃぁぁぁ!!」
「だいおうしゃま!」
「だいおう」
「だいおぉしゃまー」
僕が猫耳を愛でていると、三人……否、三匹の猫耳が草むらから現れた。
「だいおうしゃまを放すのにゃ!」
「放すにゃ!」
「はなすにょー」
―――うふふ。…………プラス、三匹。
「「「にゃッ!?」」」
僕はすぐさま、三匹を確保。
計四匹の猫耳少女が、我が手中にッ!!
「フフフ。南蛮とはこの世の極楽か……」
「にゃ、……にゃにをするのにゃ?」
「ふふ。――イイコト、ですよ……」
これより、有料放送になります。
………一部を抜粋のみでお楽しみ下さい。
「にゃ、にゃ。だ、ダメだじょ」
「そんにゃぁぁぁ」
「も、もうダメなのにゃ」
「そ、そこは違うのにゃ」
「つ、付け根はダメにょ~」
「「「「――ら、らめぇぇぇ」」」」
「それで、孟獲殿。僕らはただの商人です。道に迷い、この地を訪れたのです。出来れば近くの邑まで案内してもらいたいのですが………?」
「うぅ~。怖いにゃ、だいおうしゃま~」
「ミケ、あれ、嫌いだにゃ」
「……うぅ~」
「なんにゃのにゃ、あの男は」
「あの。僕の声、聞こえますか?」
僕はそこらの石に座り、孟獲に話しかけるが…………孟獲たちは僕から離れた木の陰に隠れて、こちらを伺っている。
「うむ。何故、あのように怯えてしまったのか?」
「旦那……」
首を傾げる僕に対して、郢士は1人ため息を吐いた。
「アタイがいってきますよ」
「……ん?……お願いします」
タッタッタと小走りで孟獲たちに近づいていき、数回言葉を交わすとこちらに戻ってきた。
「案内してくれるってさ」
「そうですか、それは何より」
「ただ条件があって――――」
「――それで僕は何故、この状態なのですか?」
僕は手を拘束され、目隠しされていた。
「美以ちゃんたちが怖がるからです」
あの交渉の時に真名を交換した郢士。
「……何故?」
「………。自分の胸に聞けばいいじゃないですか?」
………分からない。
五人分の足音だけが僕の唯一の情報源。
いや、郢士が手を引っ張っていてくれてるけど。
――――だが、甘いッ!!
「目を塞いだ程度でこの僕を止められると思ったら大間違いですね。僕には心の目が………」
ビクンとした音が4つ。
ふふふ。位置は把握した。後は―――。
「バカなこと言ってんなッ!」
ゲシッと蹴られた。
「全く、冗談だよ。最近、朝夜は暴力的だ。お父さんは悲しいよ」
「誰がお父さんだッ!」
ほら、また蹴る。
「バイバイなのにゃ」
「バイバイにゃ」
「バイバイにゃー」
「バイにゃ」
南蛮産の猫耳少女たちが去っていく。
「ばいばぁい、美以ちゃんたち」
ブンブンと手を振り合う郢士と南蛮産(略)
「友だちができましたね、朝夜」
「うん」
「お別れは寂しくないですか?」
「まぁ、寂しいけど……でも」
「でも?」
「アタイには旦那がいるから……」
「そうですか………」
二人は南蛮産(略)の去っていった方をしばらく見送る。
「ところで朝夜」
「何です?」
「いつまで僕は目隠しと手枷をされているんですか?」
「………お仕置き」
「はい?何か言いましたか?」
「ふ、ふん」