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閑話 猫耳と犬耳と………。






―――――――――――――――





「代理、こちらの帳簿は………」


「それはあっちの帳簿と合わせて……」


「代理、こっちの納品なんですけど……」


「それは昨日、話を通してあるから、そっちに回して……」


今、アタイは店の中心で指揮を出していた。


新しく出した店も軌道に乗り、今は慌ただしい程だ。


アタイはそこで店主代理として、従業員を指揮している。


「ようし、ちょうぼ、あがった」


「ありがと、沙華しゃかちゃん」


目の見えない少女―――沙華はその小さな手に帳簿を抱えて持ってきた。


目が見えないのに物にもあたらず、物を普通に持ってこれてスゴい娘だ。


以前、そう言ったら………。


「なれてるから」


と返された。


彼女は紗祈の一人だったが戦乱が終わり、紗祈は徐々にいなくなりつつあった。


皆、新しい目標を見つけたのだろう。


店にも元紗祈の人たちが何人か働いている。


沙華という名は紗祈を離れる際に旦那が付けたものだ。


何故と聞いたら………。


「気分、かな?」


テキトウ過ぎだ。でも沙華ちゃんは気に入っているみたいだから良しとしよう。


そして肝心の旦那は…………。







「旦那ぁ、項蘇の所から追加の発注が来てるけど……」


「はい?あそこにはつい先日、納品したばかりじゃないですか!?駄目です、一つの所にばかり納品しては隅々まで行き渡らないじゃないですか。項蘇には一ヶ月は待ってもらって下さい」


店の奥で帳簿の整理をしていた。


今、旦那は義手を付けていない。


理由は………。


「平和な世なら片手でも十分です」


巷では隻腕の商人と呼ばれている。


もしかしてその話題性が目的なのか?


「いや、納品物が違った、って言ってんだけど……」


「納品物が違う……?まさかッ!?また曼珠まんじゅですかッ!?」


『ふふふ。気づいた時にはもう手遅れ』


するとそこには板を持った少女が立っていた。


「あれほど言ってるだろ。この店は“猫耳堂”だと。何故、そこが犬耳を納品しなければいけないのだ」


『ふっ。それも“今は”と言うこと。いずれは“犬耳堂”に変わる』


またか。この二人はいつもこうやって言い争っている。


アタイには未だに犬だか猫だか違いが分からないのだけど。


『手筈は着々と整いつつある。この店にも犬耳派が増えていることを幺戯は知らない』


「……なん、だとッ」


『既に沙華も買収済み』


「なんだとッ!?ウチの人気試着者モデルを既にだとッ!?」


『元紗祈を甘くみては困る。そして南蛮王、孟獲の協力により肉球手袋も製作中』


「くそっ!彼女は猫耳派ではないのか!?」


『それは交渉次第でどうにでもなるもの』


なんて言い争っている二人。


「どうでもいいから、仕事してよ、旦那、曼珠ちゃん」


なんてため息を吐く機会が最近増えた。


と言うか曼珠ちゃんってこんな性格だっけ?


「だから猫耳とは………」


『否、犬耳こそが………』


「……はぁ~」


マトモな上司が欲しい。そう切に願う郢士であった。











「あれ?旦那が表に来るなんて珍しいね」


僕が店に出ると郢士がそう声をかけてきた。


「いや、僕はこれでもこの店の店主なのですけど?」


「そう思ってるのは旦那だけかもよ?」


手厳しいことを言う郢士。


まぁ確かに僕はあまり店に出ませんからね。


それにしても郢士も商人が板に付いてきましたね。


「今日は来客があるので出迎えがてら店を見ておこうと思ったのですよ」


「あれ?そんな予定あったっけ?」


郢士がペラペラと書簡を捲る。


「えぇ。まぁ個人的なものですし、昨日、文が届きましたから、朝夜が知らないのも無理はないですよ」


「そうなんだ。それで相手は―――」


「あれ?小角様、生きてらしたんですか?」


「あっしらはてっきり……」


店の者も僕に気付き、話しかけてきた。


「いや、仮にも僕は貴方たちの雇い主なのですけど?」


「あはは。すいやせん」


「あ、そうだ。代理、この取引ですけど……」


「どれ?」


店の者が朝夜になにやら聞いていた。


「あれ?なんで僕には聞かないのですか?」


「いや、小角様、店のこと分かんないじゃないですか」


「え、だから僕も一応商人で……」


「またまたご冗談を」


え?もしかして本当に僕、店主として見られてない?


たまに奥から出てくる人、みたいな認識ですか?


「ほら、旦那。言った通りでしょ?」


郢士が僕を横目で見ながら、言う。


「そういえば代理と小角様の婚礼はいつなんですか?」


『――はぁ!?』


店の一人がいきなり爆弾を投下した。


「え?いや、どこからそんな話が……」


「いや、噂では小角様は代理が囲ってる男だって……」


「お、おい。それは内緒だってッ」


数人の男たちがコソコソと話していた。


あぁ、店主とも思われず、果てにはヒモ疑惑までも………。


ていうかコイツら店主が誰だと思っているんだ?


『幺戯は郢士の囲い男じゃない』


「あ、曼珠さん」


おぉ!流石は曼珠ッ!?なんだかんだ言っても昔から僕を支えてきてくれた娘だ。心の底では――――。


『―――それは私の下男』


「なんでやねんッ!?」


くそっ!なんだこの店ッ。誰の店だよ。……って僕か!?


店員が誰一人認識してないけどッ!?


「ようぎ、ようぎ」


と僕の手を引っ張る沙華。


「あぁ、沙華。君だけが僕のみか―――」


「わたしも、ようぎを囲い男にしたい」


――――最後の砦も瓦解。


orzな僕。


「小角さん、居ますか………ってなんですか、この状況?」


そこへ暖簾を潜って来たのは北郷だった。


そう僕の来客は北郷くんだった。


「あ、北郷さん。いらっしゃいませ」


「いらっしゃいませ」


『いらっしゃいませ』


郢士たちが出迎える。


「やぁ、こんにちは、郢士ちゃん。それに沙華ちゃん、曼珠ちゃんも」


爽やかに挨拶をする北郷。


「僕、もうヤダ、帰る……」


「え、っと………どうしたんですか?」


―――僕消沈中。


「えぇと、―――例のモノは?」


―――キュピーン。


↑僕復活。


「勿論、用意出来てますよ」


ふふふ。久々に徹夜でしたよ。


しかしそれによりかなりのものに仕上がりましたよ。


「さぁ、我が渾身の一品、ご覧あれ!?」


そして僕は布を掛けられたそれを取り出す。


「御開帳ーーーッ」


僕は布を取り外す。


そこには流れる様な曲線斐、落ちる様な直線美。


長く、しなやかなそれは…………。


うん?長く?しなやかな?


―――――ウサ耳があった。


「なんじゃ、こりゃぁぁあああ!!!」


何故だ、僕の至高の逸品はどこに?


「まさか、また曼珠かッ!?」


『(フルフル)……違う』


あれ?じゃあ、誰が………。


「―――ふふふ」


そこには………。


「……沙、華?」


「ゆだん、たいてき」


妖艶な笑みを浮かべた沙華がいた。


「沙華、何を?」


「ようぎも、まんじゅも、ゆだん。いまより私はウサ耳派。“兎耳堂”をつくる」


『なん、だと』


僕と曼珠が驚愕する。


ここに新たに、猫、犬、兎の三国大戦が始まるッ!?


「………真面目に仕事しろ」


朝夜のため息が聞こえた。




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