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34話 紗祈と亜兎








――――――――――――――




「亜兎と紗祈は上手くやっていますかね………」


僕は空を仰ぎ見ながら、そう呟く。






「鬼幽兵、だと……?」


「まぁ、ぶっちゃけ幺戯の私兵だな」


夏侯淵が首を傾けると亜兎がそれに答える。


「まぁ難しいことは抜きにして今は、ただ戦いを楽しもう。なぁ夏侯惇将軍?」


大剣を片手で掲げて、剣先を夏侯惇へと向ける亜兎。


「何故、小角は我らに仇を為すのか?あやつに得がありとも思えんが……」


夏侯淵の言葉に亜兎は頭を掻く。


「さぁな。俺は頭使うのは門外漢ってことで頼むわ。それは紗祈や幺戯の仕事さ。てなわけで少々俺に付き合ってもらうぜ。アンタらをあっちに行かせるわけにはいかないんでね」


「……?そればどういう―――」


―――ガキンッ!


「知りたきゃ俺を倒しなよ、夏侯惇」


そして再び夏侯惇と亜兎の一騎討ちが始まった。









「指揮官だと……。このような子供がか?」


『歳は関係ない』


「鬼幽隊ですか~。確か祭さんが小角さんから自分の私兵隊だと聞いたと言っていましたね~」


「やはりこの戦に小角が絡んでいたのか」

紗祈を尋問し、情報を聞き出そうとする甘寧。


「それで小角はどこにいる」


『それを聞いてどうするの?』


「知れたことを。当然、首を取りに行くに決まっているだろ」


「し、思春さん、そんな物騒な……」


実直な甘寧の言葉に周泰がオロオロとする。


『なら教えない』


「己の命が消えてもか?」


紗祈の首に剣先が皮一枚のところで止められる。


『それは――――願ったりなこと』


―――サクッ。


そんな幻聴が聞こえるぐらい、なんの躊躇いもなく、紗祈は首を前に押し出した。


「―――なッ!?」


パタンと軽い音を立てて、紗祈は倒れる。


一目見て即死だと分かる。


「くっ。気分の悪い。このような子供を………」


苦虫を潰したかのような顔をする甘寧。


他の武将も同じような表情をしていた。


「小角は何を考えてこのような子供を戦場へ出したのだ……」





「―――それはちがう」





バッと後ろを向くと目が虚ろな、紗祈と名乗った少女にどこか似た少女が立っていた。


「わたしたちは、じぶんのいしで、ここにいる」


まだ舌の覚束ない幼さの残る喋り方だ。


「何者だッ!?」


「わたしのなまえは“紗祈”」


「何……?紗祈とはこの少女の……」


「それも紗祈。そしてわたしも紗祈。ううん、みんな紗祈」


光を宿さない瞳で少女は喋る。


先ほどの少女は口を聞かず、そしてこの少女は焦点が合わない。


奇妙な空気がこの場を満たす。


「紗祈とはわたしたちをあらわす記号。わたしたちは一人で紗祈。そして全てで紗祈。わたしは紗祈で彼女も紗祈」


「どういうことだ、これは……?」


紗祈―――それは記号。


虚ろな者たちを率いる者を示す記号。


そしてそれは虚ろな者たち全てを示す記号。


虚ろな者たちは戦乱の世で孤児や家族を失った者たち。


生きる希望を、明日への希望を、未来への希望を失った者たち。


その者たちを小角が人心掌握術で集め、纏めた集団が『紗祈』


虚ろな者は生きるための大切な何かが欠けてしまった者たち。


その者たちは残った微かなモノを他人に求め、そして他の者へ与え合うことで一人の人として形成している。


全てが紗祈という一人であり、一人が紗祈という一部である。


それは共依存の関係。


「そんな話があるのか……」


「でも分からないことではありませんね~」


驚愕する甘寧に陸遜が悲しそうな顔をする。


「だから、わたしたちはわたしたちを救ってくれた、ようぎにしたがう」


「でもそれは本当に救ってくれたのでしょうか?」


「利用された、とは思わないのですか?」


呂蒙と周泰が紗祈に言う。


「しらない。りようされようとも、救われたとおもうのはほんとう。ただそれだけでいい」


スッと紗祈は先ほどの少女が持っていた軍配を取り出す。


「わたしたちを止めたいなら。わたしたちすべてをつかまえること」


そして呉と紗祈たちの第二戦が始まる。









「さて、そろそろ僕も…………」







「小角はまだ動かぬか……」


「はい。敵左翼に陣を構え、中央に騎乗のまま動きはありません」


厳顔が伝令兵から報告を聞く。


「うむ。敵は大方が五胡。故に総大将が居らぬ。しかしそれらをまとめあげておるのは十中八九、小角じゃ。その奴が後局に陣を構えてどっしりしておるなら分かるが、何故、前局?しかも左翼。何を考えておるのじゃ、奴は……」


「それは捕まえて聞いてみましょう、桔梗」


思案している厳顔に横から声を掛けたのは黄忠だった。


「うむ。それもそうじゃな。………焔耶たち、上手くやっとればいいのじゃが」





「誰か私を倒せるものはいないのかッ!?」


お得意の挑発で奮起する魏延。


「ここにいるぞー」


「おい、何故お前が答えるんだ、たんぽぽ」


それに片手を挙げて答えるは馬岱。


お互い背中を預け合い、蜀の最前線で戦い続けている。


「ふん。手応えの無い奴らだ」


五胡の兵を薙ぎ倒す魏延。


「でもこっちには小角さんがいるんだよ?大丈夫なの、焔耶?」


「な、なな、何を言っているんだ、たんぽぽッ!?相手が誰だろうと私は……」


そしてそこに馬に跨がった男が現れる。


ボロボロの外套を頭から被り、纏う雰囲気は朧気で、儚い。


そんな雰囲気を纏う男を二人は知っていた。


「「小角さんッ!?」」


男は無言で二人を見下ろす。


「………」


スッと手を横にかざす。


すると五胡が道を開けた。


パカパカと馬をゆっくりと歩ませる。


「小角さん、郢士ちゃんはご主人様たちが保護してるよ。だからもう戦わなくてもいいんだよ」


「…し…?……」


深く被られた外套のせいか、声が籠っていてハッキリとは聞き取れなかった。


「……いや、関係ない」


そういって抜き身の得物を取り出す。


それは無骨な双剣だった。


それは交戦の意思表示だった。


「小角さんッ、なんでッ!?」


「たんぽぽ、無駄だ。お前も武人なら分かるだろ………アイツは本気だ」


そう言って魏延は得物を構える。


「焔耶こそ何言ってるんだよ。相手は小角さ………」


「たんぽぽッ!?……お前こそ何を迷ってるんだッ!戦場で会えば知り合いだろうと敵は敵だ」


「……焔耶」


「来ないなら……行くぞ」


――ガキンッ!


魏延の得物と双剣がぶつかり合う。


「くっ。重い……」


鍔迫り合いの状態。


「―――ッ!?」


しかしそこから男が急に後ろへ引き、そして回し蹴りを繰り出す。


剣技と蹴り。その二つを駆使して男は戦う。


「小角さん、止めてッ。もう戦う理由は……」


「まだ言っているのか、たんぽぽ。無駄だと言っているだろ。それに―――」


魏延は男をきつく見据える。


「――そいつは小角じゃない」


「――え?」


「………なんだ、バレてたのか」


外套を脱ぎ、顔を見せる男―――いや、女だった。


「貴様、何者だ」


「アタシ?アンタらにそれを教えなきゃいけないわけ?」


女はギラつく得物を示し、不敵に笑う。


それは戦闘狂の笑みだった。


「あ、でもお兄ぃから名乗れって言われてんだっけか。はぁ、ダルいな本当」


ダルそうにしながらその場でクルリと回る。


それに意味は無い。あえて意味を付けるなら気分を一転させること、か。


「アタイは兎々。役小角直属鬼幽隊所属、そして小角様の影武者」


「影武者!?なら、小角は今、どこに……。やはり中央か!?」


「小角様なら――――アンタらの大将の所さ」











「戦況は五分、といったところかしらね」


曹操は後局にて戦場全体を見渡していた。


「はい。五胡の手勢は烏合の衆ですが、それでも数が厄介です。それに………」


「小角、ね」


「はい。小角の私兵隊があちこちに現れ、戦況を乱しているようです」


「本当、厄介な男ね」


荀イクの報告を聞きながらも戦場から目を離さない曹操。


「朱里ちゃん、なんとかならないかな?」


「すみません。こうも視界の開けた場所だと打てる策も限られてしまいます」


「冥琳はどう?」


「私も孔明と同じ意見だ」


その後ろで劉備と孫策、諸葛亮と周瑜が打開策を練っていた。


「だけど策を打たずとも我が精兵たちならきっと五胡を討ち果たしてくれるわ」


そう周瑜が言った時………。


「ご、ご報告しますッ!」


「どうしたッ」


兵が血相を変えて飛び込んできた。


「我が陣営の後方より敵の奇襲ですッ!」


「何ッ!?相手はどれくらいだッ」


「こんな平地に伏兵なんて……。どこに隠れていたのよ」


「はわわ。ど、どうしましょう」


「落ち着け、孔明。して、敵の数は?」


「は、はい。それが………“1人”です」


「―――なに!?」










「雑兵相手は面倒ですね、全く」


僕は鞘に入ったままの剣で相手の剣を受け、そして相手を殴り、卒倒させる。


「まぁ、亜兎たちが引き付けてくれたお陰で大分数が少ないのが助かりますね」


また1人、また1人と兵を卒倒させていく僕。


1対多数。


一見、多数の方が有利かと思うが、それは少し違う。


1人の方が時に有利となり得るのだ。


多数の場合周りに仲間が居すぎて思うように動けない時がある。一方、1人はなんの気兼ねなく剣を振れる。


1人の方は覚悟さえ決めれば、多数に引けを取ることもないのだ。


「さて、ここは正々堂々、後ろから不意を打って見せますか………」


………どこの策士だよ。


ん?何か聞こえましたか?気のせいですよ。


「本当に1人なのだ」


「ぬ。小角殿、何故ここに!?」


あ、時間が掛かりすぎた。


僕が雑兵を相手をしている間に敵の本陣に控えていたのだろう。関羽と張飛が現れた。


「おや、雲長殿に翼徳殿。貴女たちが本陣にいるなんて少し意外ですね。先鋒を他の方にお譲りしたのですか?」


「ふん。朱里がな、相手に小角殿がいるのを知って、何かあってはいけないと我らを残したのだ」


「朱里の言った通りになったのだ」


そう言って二人が得物を構える。


「流石は孔明殿、か………」


僕も倣って(ならって)構える。


「この状況でも抜かぬのか?」


鞘に入ったままの得物を見て言う関羽。


「どの状況だろうと抜きませんよ、別に」


「……我らをナメているのか?」


殺気の濃度か増す関羽。


「怪我しても知らないのだ」


それに続く張飛。


「まぁ、今回に限り逃げずに立ち向かうとしますか」


僕は二人を見据えて。


「役幺戯、いざ、尋常に推して参る」


三人の得物が交錯する。


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