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33話 開戦







――――――――――――――





「どうやら相手も準備が整ったみたいですね」


僕は馬の上から三国が布陣した方を見る。


あぁ、動かないで、馬さん。酔う、酔うから。


「やっとか。待ち飽きたぜ、全く」


隣で後がコキコキと首を鳴らす。


「待たせて悪かったよ。思いっきり暴れていいよ、亜兎」


「言われなくてもそうさせてもらうぜ。…………幺戯、気ぃつけろよ」


そう言って亜兎は持ち場戻る。


「………全く心配性だな、亜兎は。……紗祈」


『何?』


横に現れる紗祈。


「君たちも持ち場に戻りなさい。いつまでも僕の所に居ては、元放殿に怪しまれますよ?」


『でも幺戯、郢士は……』


「……」


『何故、郢士を助け――』


「紗祈。朝夜だってもう自分のことは自分で出来ますよ」


『なら、なんでアレの言いなりに?』


「仕事ですから……。さぁお喋りはこれくらいで。配置に戻りなさい」


紗祈はまだ何か言いたそうだったが、何も言わず、出てきたように霧のように消えていた。


「はぁ。朝夜も亜兎も紗祈も心配しすぎですよ」


僕は空を仰ぎ見る。


しかし生憎の天気で空は曇っていた。








「左慈、どうやら動くようですよ」


「ようやくか。あの異物、何を考えているんだ」


五胡の陣の後衛に左慈と于吉が居た。


「だがようやく俺たちの念願が叶う。あの異物が北郷一刀を殺すか、それとも北郷の周りの武将が異物を殺すか。まぁ両方この場で相討ちになれば言うこと無しだがな」


「あぁそうそう。あの子供ですが……」


「あん?あの人質がどうした?」


「はい。どうやら―――逃げたようですよ」








「どうやら間に合ったみたいね。いや、あちらが待っていたのかしら……」


戦の準備も整い、決戦を明日に控え、各王と軍師が部屋に集まっていた。


「それで雪蓮、周泰は帰ってきたのでしょ?どうだったの?」


「おそらく小角は居るわ」


「おそらく?直接、姿を見ていないと言うことかしら」


「えぇ。でも………」


と孫策の言葉の途中で………。


「あっ。だ、ダメですよ。まだ動いちゃ」


「ここに居るんでしょ。アタイのことは良いから早く会わせて」


扉の向こうで何やら声がしていた。


「どうやら目を覚ましたみたいね」


孫策はそう言うと自ら扉に向かい、外で騒いでいた張本人を連れてくる。


「貴女は………郢士?」


「郢士ちゃん!?」


そこには肌に小さな傷が沢山ある郢士がいた。


「曹操様、劉備様、それに孫策様。旦那を、宵月を助けてッ!?」


そう彼女は懇願した。








「なるほど。要は貴女を人質にして小角を操っているものがいると言うことね」


郢士の話を聞き、曹操が要約する。


つまりは左慈たちに捕まった郢士をエサに小角は強引に依頼を受けさせられたのだと言う。


偵察に行っていた周泰が偶然、郢士を見つけ、ここまで連れてきたのだ。


「はい。旦那はアタイのためにアイツらの仕事を受けたんだ」


「それなら直接、小角さんに会いに行けばこの戦いも防げますよね」


劉備は名案とばかりに手を打つ。


「いや、それは無理なんです、劉備様」


「え?だって郢士ちゃんは今ここに解放されたわけだし、もう戦う理由は………」


「旦那は一度受けた依頼は何があろうとやり遂げます。それが意にそぐわない依頼でも……。旦那にとって依頼だけでも戦う理由になるんです」


だから、旦那を助けてほしい、と言うことだった。


「全く、本当に律儀な男ね。いいわ、郢士、貴女の願い聞き受けましょう。それに端からアレは捕らえるつもりだったし、ね」


「あ、ありがとうございます!」










二軍が対峙する中、僕は空を見上げていた。


最近、青空を見てないなぁ。


僕がそんなこと思っている間に五胡と三国の最終決戦は火蓋を切っていた。


三国の配置は左翼から呉、魏、蜀となり、後方に各王と近衛兵が居た。


対する五胡は陣形などなしに各部族を一塊とし適当に配置したものだった。


それは一見にして烏合の衆だが、しかし部族間の交流のほとんどない五胡が下手に連携をしようとすれば隙が出来る。


烏合の衆故にその陣形こそが最適であるのだった。


そして左翼の呉には紗祈を、中央の魏には亜兎を当て、小角は右翼の蜀には当たっていた。










「くっ。蛮族風情が我らの国に踏み入りよって………」


夏侯惇がその大剣を以て(もって)五胡の軍勢を薙払う。


「だがそう易々と我らの国をくれてやるつもりはないッ」


夏侯淵の弓が敵を貫く。


夏侯姉妹により次々と五胡の兵を減らしていく。


「――おうおう。やってんな、嬢ちゃんたち」


「貴様はッ!?」


そこに亜兎が身の丈程のある大剣を担いで現れる。








「我が国を踏み荒らす獣どもに呉の精兵の力見せてやれッ!」


甘寧の号令に呉の兵は応え、奮起する。


「右翼は斉射~。左翼はそれに合わせて突撃して下さ~い」


陸遜の指示に両翼はキビキビ動く。


「二人一組で相手し下さい」


細かな指示は呂蒙が受け持つ。


五胡の勢いは徐々に削られる……ように見えた。


『――囲め』


五胡の兵の中から数人、虚ろな者たちが現れる。


「なっ!奴らの動きが変わった、だと!?」


『これ以上好きにはさせない』


その中に紗祈が軍配を振るっていた。







「貴様、あの時の男だな?」


「おっ。覚えてたのか?こりゃ、光栄だな」


「貴様、何者だ?」


「あぁ、そういやあん時は名乗ってなかったな。俺は亜兎。五胡の一族を束ねる長やってんだ、ヨロシク」


肩に大剣を乗せたまま、亜兎は軽く手をあげる。


「まぁ挨拶もそこそこに…………。おっ始めるか。なぁ、夏侯惇将軍?」


ニヤリと笑う亜兎。


そこには戦闘狂の一族の長が居た。










「コイツら、確か赤壁の時の………」


「はい。おそらく一緒かと」


「厄介ですね」


虚ろな者たちは死を恐れず、痛みを怖がらず、まさに幽鬼の兵に相応しかった。


更に驚くべきことにそれを指揮しているのは小さな少女だということだ。


「しかし、それは逆にあの娘をなんとかすれば、他は烏合の衆となるってことですね~」


「穏、策はあるのか?」


「はい~」


そう言って陸遜は兵に何かを指示し始める。









「はぁぁぁ!」


「おりゃぁぁ!」


ガキンッと大剣同士がぶつかる。


「はぁはぁ。なかなかやるな、貴様……」


「はっ。流石は魏武の大剣だぜ。燃えてくるぜ」


「姉者と互角にやり合うとはあの者中々の武の持ち主か……」


両者の激しいぶつかり合いを前に夏侯淵を始め、魏の兵もそれに見いっていた。


ガキンと一際大きな音が鳴り、両者は間合いを取り直す。


「ふ。我が武にここまでついてこれた者は久しぶりだ。我が名は夏侯惇、字は元譲!曹魏の大剣なりッ!」


「はっ。俺も初めてだよ。内陸にはまだまだ強ぇやつがいるみてえだな。俺の名は――――」











『………?』


紗祈は首を捻る。


呉の様子が少しおかしい。何かを狙っている?


しかしそれに構うことはしない。


自分たちには役割がある。


何があろうとその役割を果たすことだけが紗祈の役目だから。


たがら紗祈は軍配を振り、他の者への指示を飛ばす。


だから後ろから忍び寄る周泰には気がつくことがなかった。


―――ッ!?


気づいた時には後ろ手に捕縛されていた。


「敵将、周幼平が捕縛しました!」


そう周泰が声をあげると虚ろな者たちは一斉に統率を失う。


「作戦成功ですね、穏さん」


「はい~。明命ちゃんのお陰ですよ~」


呂蒙と陸遜が手を合わせて喜ぶ。


「これでこちらは片が付きそうだな」


「敵の指揮官を連れてきました」


そこへ紗祈を連れて周泰が帰ってきた。


「貴様、名は?」


「………」


「聞かれたことに答えぬかッ!」


抜き身の刃が紗祈の首に当てられる。


「………(ぱくぱく)」


「し、思春さん、落ち着いて下さい。どうやらこの娘は言葉が喋れないようですよ」


「う、うむ。そうなのか?しかしそれでは話が………」


「あの、この娘の持ち物にこれが……」


周泰が紗祈がいつも使っている板を取り出す。


「筆談ですかね~。試しに持たせてみますか?」


「そうだな。いつまでもこれでは埒があかない。貴様も手は自由にするが、変な気を起こすなよ?」


「……(こくっ)」


陸遜の案に甘寧は紗祈に釘を刺し、手を自由にし、板を渡す。


『初めまして。紗祈と言います』


「おぉ~。本当にそれで会話するんですね~」


陸遜がなにやら感心してる。


「それでは紗祈、貴様は何者だ?」


『私たちは――――』










「俺の名は亜兎。役小角直轄鬼幽隊の部隊長にして、幺戯の友だ」


『私たちの名は紗祈。役小角直轄鬼幽隊の指揮官にして、幺戯の手足』


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