表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/41

26話 穏やかな日常









――――――――――――――





午後の昼下がり。


僕は城壁の上で空を眺めていた。


穏やかですね。


太陽の光が優しく、温かい。


「あら、小角ちゃん」


僕が光合成を頑張っていると黄忠が城壁を上ってくるのが見えた。


「何をしているのかしら?」


「日向ぼっこですよ、漢升殿」


「あらあら、日向ぼっことは随分と可愛らしのね」


うふふ、と笑う黄忠。


落ちついた女性のイメージがピッタリだな。


「それじゃあ、今、暇なのよね?」


そう微笑んだ黄忠。


「まぁ、暇ですね………」


ん?なんだか、選択肢を間違えた気がする………。


「丁度良かったわ。それならちょっとお茶に付き合ってちょうだい」


と掲げるそれはどう見てもお酒ですよ、黄忠さん。








「遅いぞ、紫苑。一体、なにをしとったんじゃ?」


黄忠に連れられていくとそこには先客がいた。


「ごめんなさい、桔梗。ちょっともう一人誘っていたのよ」


「ん?その小僧は?」


「あぁ、桔梗は初対面よね。彼は役小角。今はウチの客将してもらっているのよ」


「ほぉう、お主が、か。朱里や愛紗から聞いておるわい。随分と有能なようじゃな?」


「そうですか?………役小角です。字は幺戯と言います」


「うむ。儂は厳顔じゃ」


そうしてなんだか流れで二人のお茶会――酒盛りに付き合う羽目となった。







「……それでね小角ちゃん………」


「………で儂は言ってやったのじゃ。……聞いておるのか小角……」


「はぁ……」


なんという絡み酒。かれこれ一時間ほど付き合ってますけど。もう出来上がってからの惨状と言ったら………。


「聞いてるの、小角ちゃん!?」


「は、はいッ」


特に黄忠。最初のイメージが崩壊していく。


「と言うか、小角。お主も飲まぬか」


あれ?いつの間にか挟み撃ちにされてますよ?


これが噂の孔明の罠か………。


「あ。そう言えば一つ気になった事が……」


「うん?なんじゃ、儂らの乳房の大きさか?」


それも是非に聞きたいところですが………。


「あの漢升殿。僕のこと“小角ちゃん”と呼ぶのは些か恥ずかしいのですが……」


「あら、良いじゃない。可愛いわよ?」


「そうじゃ。小童ひよっこがなにを言っておるんじゃ」


「あ、いえ。年齢で言うならお二人と大して変わりませんし………」




『――――えっ!?』




酔いはどこえやら、黄忠と厳顔は僕の顔をまじまじと見つめる。


「え?それ本当なの?」


「えぇ、まぁ……」


僕の意識的にはそれほどだけど、記憶的にはこの世界に生まれてかなりの年月が経っている。


「……嘘っ、それなのにこの肌のツヤは何?」


僕の頬っぺたをペチペチ触る黄忠。


「なんぞ特別なことをしとるのではないのか、小角!?」


そして物凄い形相で迫り来る厳顔。


「え?特には何も………」


「嘘ね。それでこのハリツヤは出ないわ。もしかして商人のツテとか、かしら……?」


あ、一気に正気に………。


「それなら言うまで責めてみるまでじゃ……」


―――戻ってないッ!?


手をワキワキとさせながら近寄る厳顔。


くそっ。逃げなくては………。


――ガシッ。


「逃がさないわよ」


しまった。後ろを取られたか。


後ろから黄忠に羽交い締めにされる僕。


あぁ、人体の神秘が………ってそんな場合ではない。


―――――ドドドドド。


……ん?


「何じゃ、この音は?」


何やら大量の音が聞こえる。


言うならば騎馬隊の足音みたいだけど。それにしては何やら軽い音だな。


「――く、来るなぁぁぁ!!!」


それらは何やら叫ぶ少女と一緒にやってきた。


「………焔耶?あやつはなにをしとるんじゃ」


厳顔が呆れたように呟く。


「あっ。桔梗様、お助け下さい」


少女は厳顔の顔を見つけるや否や、こちらに向かって爆走してくる。


そして後ろには―――――。


「……犬?」


そう大量の犬が少女を追っかけ回していた。


「焔耶ちゃん、犬苦手なの、桔梗?」


「あぁ、そうじゃ」


「なら助けてあげなくていいの?」


「はぁ~。……小角、お主が行ってこい」


「え?……なんで僕が?」


いいから行ってこい、と僕は厳顔に背中を押されて、少女と犬の進路に押し出された。


「なんだかな?……まぁいいか」


僕は腰に提げてある中古の剣を抜く。勿論、鞘付き。


「ん?なにをするつもりだ?」


それを少し振って、おもいっきり振りかぶって………。


「取ってこ~い」


―――投げた。


「わう?………わふわふ!」


犬たちはそれに気づき、少女から僕の剣へと標的を変えて、追いかけていく。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「大丈夫ですか?」


僕は少女に話しかける。


「はぁはぁ。すまない、助かった。私は魏延。字は文長だ」


「……役小角です」


「お~い、二人ともこっちへ来ぬか」


厳顔がこちらに声をかける。


「あ、ちょっとお待ちを、文長殿」


「ん、なにか?」


―――ふぁさっ。


僕は上着を脱いで、魏延に頭から被せる。


「な、なにをするのだ!?」


「あ、そのままで少しお待ちください、文長殿」


すると………。


―――ドドドドド。


再び犬到来。


「ひぃっ!」


まぁ僕が投げた剣をくわえているんですが。


「よしよし。いい子ですね」


僕はくわえてきた犬の頭を撫でて褒めてやる。


そんな僕の後ろでビクビクと震えている魏延。


しかし、犬たちは辺りをキョロキョロと見渡すと帰っていった。


「あ、あれ?追って、こない?」


魏延は拍子抜けとばかりに犬たちの後ろ姿を見つめていた。


「でも、どうして?」


「犬という生き物は匂いに敏感なのです。文長殿はどうやら犬の好きな匂いがするのではないですかね?」


「いや、私に聞かれても分からないのだが………」


「それもそうですね。ですから僕の上着をかけて文長殿の匂いの上から僕の匂いを足すことで犬たちを誤魔化したわけです」


「………」


「……って、聞いてますか?」


なにやらぼぉーとした様子の魏延。


「よい体をしとるの、小角」


いつの間にかこちらに来ていた厳顔が上着を脱いだ僕を見て言う。


「そうね。鍛えぬかれた武人のそれとはまた違うわね」


隣で黄忠が言う。


まぁ武人じゃないですし………。


「かと言って商人のような体つきでもないわね」


「うむ。無駄を省いたかのような、まるで芸術品のような体じゃな」


二人してジロジロと僕の体をなで回す。


視姦されちゃいました。


「こら、焔耶。いつまで呆けているつもりじゃ」


コツリと魏延の頭を叩く厳顔。


「あ、す、すみません」









「……でね。姉さまったらお顔真っ赤にして……可笑しかった~」

けらけらと僕の隣で笑うのは馬岱。


「そうですね」


相づちを打つ僕。


何故、このような状態かと言いますと……。


丁度非番だった馬岱が偶々、僕を見つけて声をかけ、今に至るわけで。


「本当に姉さまったら奥手なんだもん」


そう言う彼女の顔は生き生きとしていた。


おそらく、馬岱の姉――馬超のことを心から好きなのだろう。


「ねぇ、小角さんはどう思う?」


「そうですね」


「……小角さん、聞いてる?」


「そうですね」


「ぶぅー。聞いてないでしょ」


「そうですね」


なんてやり取りをしている僕らに………。


「小角ッ!?私と勝負しろ!?」


と魏延が茂みから飛び出してきた。


「え、焔耶?……なにしてんの?」


「はぁ~。またですか……」


あれ以来、何故か魏延が僕に勝負を挑んでくる。


僕、何かしましたか?


「小角さん、何したの?」


「いや。覚えが無いのですが………」


「小角、今日は逃がさんぞ」


得物を構える。


「いや、文長殿。僕は武官ではないのでそういったことは……」


「嘘を吐くな。呂布から聞いたぞ。呂布の一撃をかわしたそうじゃないか」


うん?いつそんなことしましたか?


「えぇ!?スゴ~イじゃん、小角さん。たんぽぽ、尊敬しちゃう」


「いや、見に覚えが…………無いこともないような……?」


「ごちゃごちゃと何を言っている。さっさと私と勝負しろ。その腰に付いた得物は飾りかッ!?」


はい、飾りです。


「ふ~ん。そう言うことか……」


なにやら頷く馬岱。


「……焔耶」


「なんだ、たんぽぽ。私は今、小角と―――」


「隙ありッ!!」


「うわっ」


ガキンッと金属のぶつかり合う音がする。


「いきなり何をするんだッ、たんぽぽ」


「小角さん、困ってんじゃん」


「お、お前には関係無いだろ」


「まぁ関係無いけど………」


ニシシッと笑う馬岱。


「なんでそんなに小角さんにこだわるの、焔耶?」


「……なっ!?べ、別に私はこだわってなど………」


「なら、たんぽぽと勝負しても問題無いよね♪」


スチャッと槍を構える馬岱。


「な、何を言って………」


「隙ありッ!!」


「――て、わわッ!貴様、さっきから不意討ちばかり……」


「勝負中に余所見してる焔耶が悪いんじゃん。それとも………そんなに小角さんが気になるの?」


「ば、馬鹿なことを言うな。私が何故このような男を………いや、確かに先日は助けてられ………ゴニョゴニョ」


「隙ありッ!!」


「なっ!?」


三度目の奇襲。


「き・さ・まぁ~。良いだろ。小角より先にお前を負かしてやる」


そうして二人の勝負が正式に始まった。






ふぅ。二人の武力は均衡してるのかな。よく分からないけど。


パワーでは魏延がかなり優っているけど、馬岱のスピードがそれをものともしない。


総じて均衡。


ん?


というか二人ともこちらをチラチラと見てくるのは何故?


「くっ。こんなことをしている暇は……」


あ、一瞬、魏延に隙ができた。そこを………。


「てやぁぁぁ!」


馬岱の槍が魏延の得物を弾く。


「……勝負あり、だね」


魏延の首に槍が突きつけられる。


「くっ……」


「お疲れ様です」


僕は二人に近づき、水の入った竹菅とタオル代わりの布を渡す。


「ありがと、小角さん♪」


ピョンと跳ねて僕から受けとる馬岱。


「文長殿も」


「あ、す、すま…ない……」


受けとるもなにやら元気の無い魏延。


そんなに勝負に負けたことが悔しいのだろうか。


……あっ―――。


「文長殿、少し動かないで下さいね」


僕は魏延の顔を両手で上げさせ、固定する。


「――な、なななっ!?」


明らかに動揺している魏延。


顔が赤いのは勝負で火照ったからだろうか?


僕はそのまま顔を近づける。


「文長殿……」


「え、あ、あ……」


「―――ここ傷、できてますよ?」


「―――へ?」


頬の横に小さな傷があった。


「ちょっと失礼」


僕は傷薬を取りだし、傷へ塗る。


「痛っ」


「我慢して下さいね」


はい、終わりっと。


「べ、別にこのくらい唾つけとけば治るのに……」


「しかし、薬をつければ尚早く治りますよ」


「う。それはそうだけど……」


「痛っ、だってぇ。焔耶、子供だね。傷薬が痛いだなんて」


「た、たんぽぽッ!」


「うわぁ~♪焔耶が怒った、助けて小角さん」


と魏延をからかった馬岱が僕の後ろへ隠れる。


「卑怯だぞッ」


「べぇー、だ」


和やかですね。まるで平穏。乱世であることを忘れるようですね。


あ、馬岱の首にも傷がある。


こっちも塗っときますか……。


魏延と言い争っている馬岱の首に傷薬を塗る。


「――ひゃわっ!?……え、あ、え?なな、何?」


「傷薬ですよ、首筋に傷がありましたよ?」


「え、あ、ありがと……」


うん?悪いことをしましたかね。


なにやら二人とも黙ってしまいましたし。


まぁいいかな。


「旦那ぁ~」


そこに郢士がやって来た。


「やっと見つけた。あんまブラブラしてないで下さいよ」


「いや、僕、今日非番……」


「そんなことより今、良いですか?ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」


「まぁ構いませんけど……」


「じゃあ旦那の部屋に行こッ」


「は?ここでも別にいいんじゃ……」


「いいから」


と僕の手を引っ張っていく郢士。


「ちょっ。あ、お二人とも、それではまた縁が合ったらぁ~~~……」










「…………」


「…………」


二人は郢士に引きずられる僕を無言で見おくる。


「……はっ。また逃がしてしまった」


魏延が悔しそうに呟く。


「焔耶って、不器用だよね」


「な、何がだッ……」


「小角さんのこと気になるなら普通に話しかければいいのに。なんで勝負なわけ?」


「な、ななな!?何を言っている、私は別に……」


「不器用なくせに分かりやすいんだから……」


馬岱は自らの姉と目の前の少女をダブらせる。


「そ、そそ、それに私には桃香さまがいる。うん、そうだとも」


一人うんうんと頷く魏延。


「あっそ。焔耶がそう言うならたんぽぽはもう何も言わない。でもね………たんぽぽだって諦めないよ」


「ん?何か言ったか?よく聞こえなかったんだが……」


「さぁね。脳筋には分かんないよ♪」


「なッ!なにをぉぉぉ!?」


騒がしい追いかけっこが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ