25話 穏やかな警羅
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ふぅ~。思ったより掛かりましたね。
政務が長引き、昼を少し越えた辺りで僕は遅めの昼食へ向かっていた。
「何を食べましょうか?焼売は昨日食べましたし、青椒肉絲は……気分ではない。回鍋肉……うむむ」
悩みながら町へと向かう中。
「あっ!?小角のお兄ちゃんなのだ。お~い」
少し離れた所から張飛が手を振っていた。
「どうも、翼徳殿」
「どうしたのだ、こんなところで?」
「少し遅くなってしまいましたが、お昼にしようと思いまして……」
僕が返事をするとタッタッタと駆け寄ってきた張飛。
そして…………。
「鈴々、いきなり走っていくなんてひどいじゃないか」
もう一人ポニーテールの少女が少し息を切らしてやってきた。
「にゃはは。ごめんなのだ、翠」
張飛は手を頭の後ろに組んで笑う。
「全く……えぇと、アンタは?」
「初めまして、ですかね。役小角と言います」
「あぁ、アンタがか。愛紗たちから聞いてるよ。アタシは馬超、字は孟起ってんだ。よろしくな」
よろしくお願いします、と手を出す僕。
「………え?」
なにやら驚いた様子の馬超。
「握手ですよ?友好の証、ですかね……」
「いや、それは知ってるんだけど……」
はて?なにが気になっているのでしょう?
「なんだか、ご主人様みたいだ、と思ってさ」
照れたように笑う馬超。
「御遣い殿と………」
それは偶然ですね、とつけ加えてみることにした。
「それで翼徳殿たちはこちらで何を?」
「そうなのだ。鈴々たちはこれから警羅だったのだ」
「そうだよ。それなのに鈴々のやつが急にどっか行くもんだから」
「それはさっき謝ったのだ」
和やかな喧嘩だった。
「そうなのですか。それなら僕も町に行きますし、ご一緒させてもらえますか?」
そう提案してみる僕。
「本当なのか!?手伝ってくれるのか!?」
「え?いや、一緒に町に出るのであって、手伝いとはまた違っ………」
「じゃあ早速出発なのだ!」
「おい、アタシを置いてくなってば」
僕の手を引いて町に向かう張飛を馬超が追いかける。
まぁいいかな………。
決して張飛の柔らかい手に心奪われたとかじゃないですよ?
「もぐもぐ」
「もぐもぐ」
僕と張飛は片手に肉まんの袋を抱えて町を行く。
「愛紗が知ったら怒るだろうな……」
そんな後ろで馬超がため息混じりに呟く。
「どうしたのだ、翠?」
馬超の心配も知らない張飛が肉まんを頬張りながら振り返る。
「いや、何にも……」
「変な翠なのだ、もぐもぐ」
「もぐもぐ」
大変ですね、と目で語りかけると……。
「アンタもなんだけど………」
「……?」
よく分からない返しをされた。
「―――さぁさぁ我こそはと思う人はじゃんじゃん参加してね!!」
その時、何かの呼子の声が聞こえた。
「なんなのだ?」
「もぐもぐ」
声のする方へフラフラと歩いて行く張飛に付いていく僕。
「ちょっ、鈴々。警羅はどうしたんだよ!?」
それを追う馬超。
……お疲れ様です。
「さぁさぁまだまだ参加は可能だよ!!」
「どうやら大食い大会のようですね」
登りを確認してみる。
「………小角?」
とそこには呂布が席に座っていた。
「おや、奉先殿。もしかして参加なさるのですか?」
「………(コク)」
「恋殿が出れば優勝間違いなしなのですぞ!」
隣に控えていた陳宮が両手を挙げて存在を主張していた。
「むぅ。鈴々だって負けないのだ!?鈴々も参加するのだ」
それを聞くとズダダダと参加を申し込みにいく張飛。
「おい、鈴々。だから警羅を………って聞いてないし。小角さんも何か……」
「もぐもぐ(じー)」
「……参加したいのか?」
「……ゴクンッ……何を言ってるんですか、孟起殿。―――参加するに決まってるじゃないですか!?」
さぁ申し込みに行こう。
「………で。何故、孟起殿まで?」
「う、うるさいな。いいだろ、別に……」
僕と張飛、呂布にそして馬超。他一般参加者数名。
皆が席に着き、準備が整った。
「では、勝負始めッ!?」
司会の人が銅鑼を鳴らして、開始を宣言する。
『がつがつがつ』
各々が物凄い勢いで目の前の皿を完食していく。一方僕は………。
「もぐもぐ、……ぐもぐも」
まるで昼食を取りにきたかのようにスロースタートをきる。
「おぉと、早くも一人脱落か?」
司会の人の声が耳に入るが気にしない。
と言うか、初めから優勝なんて気にしてないし。昼食をタダで食べられそうだったから参加しただけたし。
―――久々に“お腹一杯”食べられる。
「がつがつがっ………もう駄目だ―――」
これで一般参加者は全員脱落。
残るは未だに顔色変えない呂布と………。
「り、鈴々。そろそろヤバイんじゃないか?早めに止めた方が身のためだぜ?……うっぷ」
「す、翠こそ……うっ。段々食べる間隔が落ちてきてるのだ」
限界ギリギリの馬超と張飛。
「……ぐもぐも」
あぁ、後、僕。
「これは優勝が見えてきたか!?呂布将軍の圧勝なのか!?」
「なによぉ!負けてなるものか、西涼魂見せてやるぜ!」
「鈴々だって負けないのだ!?」
司会の人の言葉に更に闘志を燃やす二人。
―――だが。
『―――うっ』
二人は料理を口に運んだまま動かなくなった。
『………も、もう………無理』
バタンッと後ろに倒れる二人。
「張飛将軍、馬超将軍、両者共に続行不可能だ!?残るは呂布将軍と、まさかの役小角将軍だ!?」
将軍じゃないのだけれど………。
「恋殿、大丈夫なのです。小角なんぞ、相手ではありませんぞ!?」
「………(モグモグ)」
「ぐもぐも」
そして勝負の時はきた。
――――バタンッ。
『うぉぉぉ!!』
歓声が響き渡る。
「………な、なんと。勝者は―――」
『――役小角!!!!』
司会の人の言葉で大会は締め括られた。
「ふぅ~よく食べましたね」
「うぅ。食べ過ぎたのだ」
「……同じく」
僕はお腹を擦りながら町を歩く。
その横にはフラフラと張飛と馬超がいた。
「うぬぬ。恋殿が負けるなど信じられません」
「………」
少し後ろに呂布、陳宮がいた。
「ふふふ。タダであそこまで食べさせてくれるなんてよい町ですね」
前にいた町なんて僕が参加しようものなら大会自体が無くなるってことが多々あったしな。
「さて。あと一軒ほど回りますか……」
『――えぇ~!?』
僕の言葉に一同が驚愕する。
あの感情表現の乏しい呂布までハッキリと分かる位だ。
あれ?僕、なにか可笑しなこと言いましたか?
ふふ、ふ~ん。久々にお腹一杯になれそうですね。




