24話 穏やかなお茶会
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「うん。いい天気だな~」
僕は窓の外を眺めてそう“大声”で呟く。
「こんないい陽気には外を散策するに限るよな~」
――カリカリカリ。
「散策するに限るよな~」
「うるさいですよ、小角殿ッ!?」
隣で執務をする関羽が我慢できずに声をあげた。
ふふふ。掛かりましたね。
「いやいや、雲長殿。よくお考え下さい。こんなよき陽気に外に出ないのはお天道さんに失礼ってものだと思いませんか?」
「鈴々みたいなことを言わないで下さい」
はぁ~とため息を吐く関羽。
「と言いますか、僕の仕事はもう終わったのですから自由にしていてもいいのでは?」
「なら他の仕事をすればいいじゃないですか。将が仕事をサボっていては下に示しがつきません」
お堅いですね、関羽さん。
「いやいや、よく考えて下さい、雲長殿。僕は仕事を終えて、ブラブラしている。そうすると端から見ればサボっているように見えますよね?それを見た人はどう思うか。あの人がサボっているから自分たちが頑張ろうとそう思うんですよ」
反面教師なのです。
「確かに………ってそんなわけあるはずないじゃないですかッ!?騙されませんよッ」
ちっ。
「まぁそれは冗談としても。僕は財政に関しては分かりますがこの書簡は地区整理やら流民対策などと僕は門外漢ですよ。ねぇ、御使い殿?」
と僕はもう一人の部屋に缶詰めにされている北郷に話を振る。
「えっ!?なんで俺に言うんですか?」
「なんでとは心外ですね。これは元々貴方の担当区ですよ。それを雲長殿、そして僕までに肩代わりさせて、なにのほほんとしてるんですか?台風の目ですか?台風の目気取りですか?」
「いや、そんなつもりは……」
縮こまる北郷。
「俺も悪いとは思ってるんだけど、やっぱりまだ読み書きも不得意で、人より遅いんだよな」
君も大概真面目だな。
「なら僕が教えてあげましょうか?」
僕は北郷の膝に片膝を乗せて、顎を指を置きクイッと上げさせる。
『――なっ!?』
「みっちりと、ね」
「貴様、ご主人様から離れろぉぉぉ!!」
得物を振りかぶる関羽。
ふふ。掛かった。
僕はスルリと北郷から緊急離脱する。
「うわっ!?あ、愛紗、ちょっと待ったッ!!」
「わ、わわ。……」
寸前のところで止められた得物。
「まぁ、そう遠慮なさらずに……」
僕は関羽の背中を押す。物理的に。
「な、何を……!?」
ただでさえ急停止でバランスの悪いところに僕が背中を押して完全にバランスを崩し、北郷に覆い被さるような形で倒れ込む関羽。
「それでは後は若いお二人にお任せしますね」
僕はソクサクと部屋を出ていく。
「ご、ご主人様、すみません。今退き……ひゃん。へ、変なところを触らないで……」
「いや、愛紗が上にいて動けないって」
「やん、そ、そんなとこを………」
なにやら桃色な空気に。
うむ。計らずともなにやら後押しをしたようだ。
さて、気ままに歩いて来ますか。
「………おや?あれは――」
中庭をブラブラとしていると休憩小屋に董卓と賈駆がいた。
「どうも、仲穎殿に文和殿。お二人でご休憩中ですか?」
「あ、どうも。こんにちは、小角さん」
「そうよ。アンタはサボり?」
挨拶を返してくれる董卓に賈駆。
あれ?賈駆のは挨拶でいいのか?………まぁいいか。
「サボりではありませんよ、文和殿。キチンと自分に割り振られた仕事はこなしてきましたから。後は日が落ちるまでブラブラしてるつもりですよ」
「終わった、ねぇ……」
あ、疑いの目を向けてますね。
「まぁいいわ。ボクには関係無いし」
どうやら妥協してくれたみたいだった。
「ところでお二人はお茶ですか?」
「あ、はい。小角さんも飲みますか?」
董卓が気を利かせて茶器を一つ追加してくれる。
「うぅ~。折角月と二人っきりだったのに~」
なにやら恨めしそうに見てくる賈駆。
ふふふ。大いに無視します。
「どうぞ」
「どうも。………ぷはっ。美味しいですよ、仲穎殿」
茶葉は普通のはずだが何故か美味しいのは董卓の汲み方かはたまた、心か。
なにはともあれ美味しい。
「見つけましたぞ、詠ッ!!」
と和やかにお茶会と洒落込んでいるとそこに陳宮と呂布がやってきた。
「詠、勝負なのです。今日こそはその鼻っ面折ってやるのです」
なにやら盤のような物を持ち、意気揚々とこちらへ歩いてくる陳宮。
「また?アンタいつもそう言って半べそで帰っていくわよね。忘れたの?」
何故か勝ち誇った笑みの賈駆。
盤はどうやら軍事将棋のようだ。
項蘇が好きで付き合わされたから覚えがある。
ふむ。軍師たる二人もこれで一局というわけですか。
「恋さん、お茶どうぞ」
「………ありがと」
その横では呂布と董卓が和やかムード全開だった。
「今回は負けませんぞ。修行に修行を重ねたのですからな」
「へぇ。じゃあやってあげようじゃない」
そう言って二人は机の上に盤を広げだした。
「………うぬぬぬ」
「ふふ~ん」
上が陳宮。下が賈駆。
まぁぶっちゃけ賈駆のは圧勝ですね。
「くぅ~。もう一回なのです、もう一回」
涙を端に浮かべながら、まさに泣きの一回。
「……楽しそうですね」
僕は二人のやり取りを見ながらポツリと溢す。
「そうですね。詠ちゃんもねねちゃんも楽しそうです」
独り言にすぎないそんな呟きに董卓が答える。
「特に詠ちゃんは最初は色々言ってましたけど、今では軍も少しは任されてイキイキとしてます」
まるで自分のことのように話す董卓。
「仲穎殿はどうなのですか?」
「――え?……私、ですか?」
「そう。貴女自身はどうですか?」
「私は………ご主人様の身の回りの世話をして……」
ぽつり、ぽつりと言う董卓。
「詠ちゃんや恋さん、ねねちゃんとこうしてお茶を一緒に飲んで、他の人も良くしてくれて……」
一呼吸、置いて。
「とても毎日が楽しいです」
「それはなによりですね」
笑顔の花の咲く董卓。
―――カポッ。
僕は董卓のカチューシャを外す。
「え?どうしたのですか?」
「はい。代わりにこれを……」
――カポッ。
勿論、猫耳を付ける。
うむ。やはり、いいな。猫耳メイド。
「きっと御使い殿も可愛いと言って下さいますよ」
「へぅ~。そ、そうでしょうか?」
あぁ恥ずかしがる姿も、なんとも。
「ちょっとアンタ、月をあまり苛めないでくれる?」
「いや、別に苛めてませんよ。それより終わったのですか?」
「当然よ。結果は………言うまでもないわね」
どうやら董卓と話している間に対局は終わって………?
「うぅ~」
「……ねね、大丈夫?」
陳宮が呂布に泣きついていた。
「まだ、終わってないじゃないですか?」
『――え!?』
僕は盤上を見ながら言う。
「アンタなに言ってんのよ。素人が見たって分かるじゃない」
賈駆が少し呆れたように言う。
「そうですか?だってここをこうして………」
「だからこうなって……」
僕が横から駒を動かして、それに賈駆が対応する。
「……こうで、こうして」
「……だから………えっ!?」
「これで両陣営、本陣陥落。痛み分けですね」
「―――な、何で……?」
盤上では両陣営の陥落がはっきりと示されていた。
「ちょっとアンタどうやったのよ。確かにボクが勝ってたのに……」
盤上を凝視して頭を捻る賈駆。
「……す、スゴいのです。小角、どうやったのですか?」
キラキラとこちらを見てくる陳宮。
「どうやったかと聞かれると困りますね。今、目の前でやったのですが……」
「ちょっと小角、そこに座りなさい」
すると賈駆が席を指しながら言う。
「一局、勝負よ」
駒を並べ直す賈駆。
「……何故?」
「いいから、早くしなさいッ!!」
「小角、ねねの仇を打つのですぞッ!」
席を譲ってくれる陳宮。
何故、こうなった?
あ、良いこと思いつきました。
着々と陣の構成をしていく中。
「文和殿、一つよろしいですか?」
「何?」
「ただ勝負するのでは面白くないと思いませんか?」
「え?……なにが言いたいのよ」
「いや、やはり勝負事には褒賞がなくては気の持ちようが変わるではありませんか……」
「褒賞?お金でも賭けるって言うの?」
「まさか。そうですね……では負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くとかはどうですか?」
フフフ、と笑ってみせる。
「まさかアンタ……」
体を庇うような仕草をする賈駆。
「いや、それは無いですよ」
僕はキッパリと答える。
「そんなハッキリと言われるとそれはそれで複雑な感じだわ」
「まぁ僕の方は文和殿がこれを今日一日、付けてもらえれば、それでいいのです」
と僕は懐から猫耳を取り出す。
「そ、そんな恥ずかしいもの付けれるわけないじゃないッ!?」
「仲穎殿とお揃いですよ?」
「そういう問題じゃないッ!?」
「詠ちゃんも付けたら可愛いと思うよ?」
「月~。そういう問題でも無いのよ~」
董卓の言葉に力なく項垂れる。
「負けるのが怖いのですか、文和殿?」
「――なっ!?……いいわ。その条件、受けてたつわ。この賈文和の実力を思いしるが良いわ」
フフフ。掛かりましたね。
勝負の結果はお察しください。
それと………。
「どうされたのですか、御使い殿?」
「いや、ちょっとさ……」
腫れた頬を擦る北郷。
「さっき詠に会ったんだけど……。何でか猫耳を付けてて、それについて聞いたら……急に」
「そうですか。………それでどうでした?文和殿の猫耳」
「―――最高でした!!」
親指を立てる北郷。
うん。良い笑顔ですね。
まさに痛み分け。
………意味不明ですね。




