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15話 三羽烏との捕物帖









―――――――――――――




「小角殿、今日はよろしくお願いしますッ」


「兄さん、よろしゅう」


「ヨロシクなの~」


只今、町にて警羅のお手伝い中。


僕、基本的に文官なのだけど……。


いや、商人ですから足腰は鍛えられてますけど。


「それにしても聞いたで、兄さん」


李典が口切りに魏の警備隊の三人が口々に言う。


「そうなの。あの春蘭さまを負かしたって聞いたの~」


「…………(キラキラ)」


楽進が羨望の視線を投げかけてくる。


「あぁ。噂は得てして尾ひれが付くもので……」



「ウチは霞の姐さんから聞いたで」


「沙和は流琉ちゃんからなの」


「私は秋蘭さまから」


はい、全員現場にいた人間ですね。


「………まぁ、この話はおしまいで。お仕事しましょう、お仕事」


「なんやの、もうちょっとええやんか」


「沙和、もっと小角さんの武勇伝聞きたいの」


「二人と何を言っているんだ。折角小角殿が手伝って下さるんだぞ」


「えぇ~。でも凪ちゃんも小角さんの武勇伝聞きたいくせに~」


「なっ!?そ、それは……その………」


モジモジとしながら答える楽進。


「やっぱ聞きたいんやないか。素直にならなあかんで、凪」


「と言うわけで。小角さん、武勇伝を………」


「お三方、早く来てください。僕まだ道とか分からないんですが?」

と遠くから僕が声を三人にかける。


『て早すぎます(なの)(やで)!?』






「………まぁ。そうそうに事件なんて起きないですよね」


警羅は順調に進む。


あぁ、空が蒼い。


「あぁ!あの店、今月の阿蘇阿蘇に載ってたの」


「あぁ!あれは絡繰の部品ッ!?なんでこんなとこに!?」


于禁、李典が警羅の途中で目移りしていた。


「こ、コラ。二人とも真面目に警羅しないか。すみません、小角殿……」


「………」


「あの、小角殿?」


「………文謙殿」


「は、はい。す、すみません。二人にはきつく言いつけておき――」


「あの店に寄るので後はお任せします」


「……へ?」


そう言って僕は装飾品の店に入って……。


「だ、駄目ですって!?」


……行けなかった。


「文謙殿、後生ですから放して下さい!?」


「何を言っているんですか、小角殿。今は警羅中なんですよ?」


僕の襟を掴んで僕を止める。


「いやいや。これも警羅の一環として………」


「それは嘘を吐いている目です」


バレた。楽進、恐ろしい娘ッ!?


「いつも二人で鍛えられてますから」


ちっ!仕方がない、奥の手だ。


「――文謙殿」


僕は楽進の肩に両手を置き、真っ直ぐ目を見つめる。


「こんなことキミにしか頼めないんだ」


「……え、あ、あの……小角、殿……?」


「……文謙殿」


僕は黙って顔を近づける。


「だ、駄目ですよ。こ、こんなところで………」


今だッ!?


僕はダッと反転し、店に走る。


楽進さん、うぶですね。ウチの朝夜とよい勝負です。


「……あ。……あぁ!!小角殿、待って―――」


楽進の叫びは無惨にこだまする。


「兄さん、中々やるやないか。凪を落とすなんて」


「本当なの」


楽進の後ろにいつの間にか大量の袋を抱えた二人が立っていた。


「――二人ともいつから見てた?」


「ん?いつからって、兄さんを凪が掴まえたところからやけど……」


「そうか………」


楽進は手に気を集める。


「な、凪ちゃん!?ちょっと待つの!?」


「―――忘れろぉぉぉ!?」


『それは八つ当たりやぁ(なのぉ)!?』









楽進たちは先に行ってもらって僕は店でショッピング中。


……おぉ!!………何とッ!?………これは最早、神ッ!?


「……うふふ。よい買い物をしました。まさかあの露店以外でこのような良品が手に入るとは流石は孟徳殿の治める町ですね」


僕はご満悦に紙袋を抱えて、警羅に戻る。


「さて、文謙殿たちと合流しなくてはいけないが………」


そう言えば僕、ここの土地勘ないんですよね。


合流できるのか?………まぁいいか。テキトウにぶらぶらしてればその内、会えるさ。会えなくても、一人で警羅している、と言うことにしてしまおう。


「と言うわけで警羅再か――――」


「きゃー!?」


悲鳴?……えぇと、聞かなかったことに…………はできませんね。一応、給金を頂いてる仕事ですからね。


とりあえず向かいますか。






そこには黄色い布を巻いた男が町の娘を人質にとり、手には得物も所持していた。


「うわぁ、ベタだな。今時、流行んないよ、この展開………」


もしかして僕が一人になったのが伏線?


「あ、兄さん。エエところに来てくれた」


周りの取り巻きにはどうやら警備隊もいたらしく李典が僕を見つけて、駆け寄ってきた。


「曼成殿、どういった状況で?」


「あんまいい状況やないな。ウチらもさっき駆けつけたとこなんやけど……」


李典の話を聞くに、相手はどうやら中々の手練れらしく、一般兵ではたち打つことができなかった。


しかし楽進たちが来て、状況が変わるかと思われた矢先、相手は咄嗟に近くにいた民間人を人質に取ったと言う。


武だけでなく、気転も利くみたいですね。


「ウチらだけじゃどうにもならん。兄さん、なんとかしたってや」


人質さえいなければ楽進たちで敵わない相手ではないらしい。


「はぁ………。あまり期待しないで下さいよ?」


僕は人ごみを掻き分けて騒ぎの中心へ赴く。


これが終われば、さっき買ったこれで………むふふ。


「あ、小角さんなの。凪ちゃん、小角さんが来てくれたの」


「小角殿!?すみません、助かりました。我々ではどうにも……」


「あ~。事情は曼成殿から聞きました。少しはご助力できればよいのですけど……」


僕を見つけた于禁が楽進に報せ、楽進は申し訳なさそうにする。


あ、だから羨望の眼差しはやめて。


「はぁ。では少しお仕事をしますかね………」


一度空を仰ぎ見てから男に対峙する。


「なんだ、テメェは!?」


武器で威嚇する男。


「あー、えっと。役小角と申します。一応、警備隊の者なのですが……」


「あぁ?オメェみたいに柔そうな奴が警備隊?」


「一応」


「で、何の用だ」


「えっと……。その娘さんを解放してください」


「はぁ?」


男は馬鹿でも見るような目で僕を見る。


「いやいや、兄さん。そりゃないわ……」


後ろで李典がつっこみを入れているが、気にしてはいけない方向で。


「一応、交渉を、ね」


誰に言うでもなく、あえて言うなら自分に言い聞かせるために、言う僕。


「うっせぇ。テメェらが退いて、俺が逃げ切れたら返してやるよ」


「では先にそちらが返してくれれば逃がしてあげます」


「その保証はどこにあるんだッ!?」


「貴方とて同じでしょうに……」


「うっ……」


どちらにしても鼬ごっこ。


あ、知っていますか?鼬ごっこって言う遊びがあるらしいですよ?


閑話休題。


「ですから、その娘さんを放して下さい。逃げるにしても他にいくらでも方法は………」


「うるせぇ!!近寄るんじゃねぇ!?」


男は出鱈目に武器を振り回し牽制する。


―――ズサッ。


何かが切れる音。


「小角殿ッ!?」


「……あ。………あ、あぁ」


僕は少し前屈みになるのを見て楽進が声を上げた。


「貴様ぁ!」


「凪、アカンで!?周りへの被害考えや」


楽進が手に気を溜め始めるのを李典が抑える。


「しかし、アイツ、小角殿を……」


沙「よく見るの、凪ちゃん」


于禁の言葉に楽進は改めて僕を見る。


僕からは血は一滴として流れてはいなかった。変わりとして――――――。


無惨に破られた袋と真っ二つになった猫耳が僕の足元に落ちていた。


「なんだ?その“変なの”は?」


―――ピクッ。


「―――今、変なのと言ったか?」


「あぁ?言ったが、何か文句でもあんのか、兄ちゃん」


「ここにも至高の品を解せぬ下等種が居たか」


「はぁ?なに言っ――――」


「調教してあげますよ」


男の目の前にいきなり現れる僕。


そこから直ぐ様相手の武器を落とし、腕を拘束する。


「ぐはっ」


その時間、まさに刹那。


『……………』


その場に居た人間全てがフリーズした。


「娘さん、もう帰っていいですよ?すみません、怖い思いをさせてしまいました」


『………うぉぉぉ!!』


僕の言葉で場は一気に溶け、辺りから歓声が聞こえた。


「小角殿、お怪我は?」


「さっすが兄さんやな」


「春蘭さまを破ったのは伊達じゃないの」


三人も僕に駆け寄り、口々に僕を誉めている。


まぁとりあえず………


「ちょっと失礼。少々この方と話がありますので……」


僕は男を引き連れて路地に入る。


ちょーとばかし、猫耳の素晴らしさについてご教授しましょうかね。


その後、その男は猫耳を布教するため大陸全土を奔走したと言う。










「それにしても見事な早業やったな」


「本当なの。沙和が瞬きをしている間にあっという間に終わってたの」


その後、城に帰る中さっきの捕り物について熱く語る二人。


「今日は本当に助かりました。私たちが不甲斐ないばかりに小角殿にご迷惑をかけてしまい………」


そんな中、楽進だけが先ほどから申し訳なさそうにしていた。


本当に真面目な娘だな、楽進。


「別に構いませんよ。これもお仕事ですし……」


「いえ、本来なら先に到着した我々が事を片付けなくとはならないのに………」


うぅん。思い詰め過ぎなのはよくないな。あ、そうだ………。


「文謙殿……」


「はっ。何でしょうかッ?」


「これを付けて下さい」


と僕は猫耳を渡す。


「……え?あ、あの。これを………?」


さぁ、ギャグパートですよ。


「はい。そして語尾には“にゃあ”と付けて下さい」


どんとこい。あ、でも気弾とかは遠慮したい、かも。


僕がつっこみに身構えていると………。


「……あ、あの。こ、これでよろしいのですか、あ、じゃなくて。よろしいの、で、ですかにゃ?……///」


猫耳を装着した楽進が恥ずかしげに俯きながら言う。


耳まで真っ赤なの夕日のせいじゃない。


「………」


楽進。どこまでも真面目な娘。そして……………。


「――ありがとぉぉぉ!!!」


僕、心からの叫び、だった。


「なんや、なんやの?……って凪、なんちゅう格好してんねん」


「わぁー。凪ちゃん、可愛いの」


僕の叫びに反応した二人が猫耳着用楽進を見て、キャッキャッする。


「なッ、ち、違うんだ、これは。小角殿が……」


手を振り、言い訳する楽進。


「なんやの、兄さんも隅に置けんな」


「でも凪ちゃんだけ可愛がるのは駄目なの。沙和たちにも気を遣ってほしいの」


李典は僕の脇をつつき、于禁は頬を膨らませる。


「……あ。お二人の分もありますよ?どうぞ」


三人はいつも一緒ですからね。仲間外れは可哀想ですよね。


「いや、兄さん分かってないで……」


「まぁ、今はそれでもいいの」


何やら不服な事を言いながらも猫耳を着用してくれた二人。


うむ。これにて一件落着。


僕は夕日に染まる空を見上げるのだった。


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