前者と後者
少年からしてみればそこは退屈だった。
七色に光り輝くスポットライト。
広大なステージで照らし出される毎日。
人前に出れば黄色い歓声が飛んだ。
歌って踊って話をする。
ただそれだけで地位も名誉も富も名声も手に入れられた。
「アイドルをやってみる気はないか?」
街を歩く少年に掛けられた声。
それから1年後。
人気No.1とまで呼ばれるようになった。
テレビにも引っ張りだこ。
齢16歳にして頂点に登り詰めた。
少年は世に恐れられている殺人集団の中で
もっとも忌み嫌われているところで生まれ育った。
存在を知るものが軽海という名前を聴けば恐れ嫌う。
異常な殺人衝動。痛みに快楽を覚える者。
血が大好きで自分を殺めた者。
殺しても殺しても殺したりない者。
そこにはいろんなやつらがいた。
強くても何かがおかしい者。
途中で狂ってしまった者。
家族のように親しくしていたが、別に血が繋がっているわけじゃなかった。
ただ戦闘が好きなやつらが集まっただけだった。
そこにひとりの子どもが生まれた。
父親は戦闘欲の強い全員を拳ひと振りで捩じ伏せる力を持ち、俺たちは家族だと言った熱い男。
母親は長い銀髪で綺麗な顔に茶目っ気のある性格。
しかしそれとは逆に敵に気づかれずに殺す暗殺能力を持っていた。
そんな親に似たのか銀色の髪に整った顔立ち。
細くしなやかな体に茶目っ気のある性格。
母親の暗殺を独自のものにし、その過程までの動きは一切無駄の無いものへと変わっていった。
センスで。才能で。少年は人を殺す才能に恵まれた。
溢れ出る戦闘欲。
少年は本能のもとに暴れまくった。
ひたすらただひたすらに。
精密にきっちりとひとりひとり。
毎日一人殺した――――。
幼き頃の日記にはこう書き綴られていた。
1日目..きょうはこうえんでひとりころした。きずかれないようにうしろからけいどうみゃくを。
2日目..きょうもひとりころした。くびをすこしひねったらしんだ。
きょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもきょうもころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころして――――――――ころした。
いつしか日記は赤黒く染まっていた。
「それが普通だった。人は生きるために息をするだろ?これは当たり前のことだ。俺たちは生きるために人を殺す。ただそれだけのことだ。」
あいつは話す。軽海愛人は。少し瞬巡してから
「殺し合いは楽しいからな。」
言った。軽海愛人は楽しそうに笑いながら。
ぼくの目の前にいる通り魔。
だがもう今となってはレベルが違う。
殺人鬼と呼んだ方が相応しいだろう。
それにしても殺人鬼がよくアイドルになれたものだ。
「アイドルっつーもんも始めは楽しかったさ。けどてっぺん獲ったら退屈だった。それに比べて殺し合いは楽しいねえ。」
物騒なことを言っている。
そういえばと軽海は言った。
「年上のおねーさんはよかったなあ。イベントでメイドカフェに行ったときはもう....天国だった。」
微笑しながら言う軽海にぼくは若干苦笑気味だったがぼくも同じようなものだと思った。
「メイドはいいな。しかも年上の人は。」
思わず言葉を返してしまった。
「なに!?お前も年上のおねーさんが好きなのか!?」
目を丸く見開き聞き返してくる軽海。
「ああ、うん。そうだけど....」
何気なくぼくが言葉を返すと流暢に喋ってきた。
「本当か!?俺の周りには幼女にしか興奮しない変態や、幼女の下着が好きな変態や、幼女の血が好きな変態とかばっかだったから。俺とお前みたいなやつは珍しくて。」
どれだけ偏ってんだよ。偏るにもほどがある。
つまり殺人集団ならぬロリコン集団だったのか。
はあ..とぼくはため息を吐く。
始めから道を踏み違えた人間と
後から道を踏み外した人間。
そんなぼくらはここにいる。
唐突に――――。
突然に――――。
軽海は言った。
「んじゃ、俺帰るから。」
「そうか....」
「そうかって..引き留めたりしないのかよ?」
「まあ..お前が帰りたがってるし。」
「お前も帰りたがってんだろ?」
「まあね。」
「んじゃ俺は行くけど..お前殺られるんじゃねえぞ?この世の中いつ誰に襲われるかわからないからな。」
お前が言うか。殺人鬼のくせして。
「お前に言われるとは思わなかった。」
「俺は心配してやってんだよ!!俺が殺れなかったやつを他の誰かに殺されるのは癪だからな。」
「悪運だけは強いから安心してよ。」
「そりゃどうも。」
「ばいばいセリヌンティウス」
「走れメロス」