銀髪の少年
アパートに帰ると志紀はすぐにぼくのベッドで寝てしまった。
もう辺りは暗くなっていたので憂さんたちへの報告はまた後日になりそうだ。
「綺麗な星空だなあ。」
呟くぼくはちょっと散歩に出ていた。
慣れていない家で初対面の人と過ごすのは疲れた。
やっと帰ってきて..さてと一眠りしよう!
というところに少女が先に眠ってしまったのでは仕方がない。
志紀のやつがぼくのベッドで寝てしまったから..どうしよう。
うーん..そうだな..今日は床だな。
腰痛くなりそうだな..まあいい..
そのくらいは我慢しよう。
とりあえず疲れを癒すため街路地を歩く。
すると――――。
後ろから気配がする。
通り魔か? 強盗か?
なぜぼくがそんなことを気にするかというと近頃通り魔が凄いらしいんだ。
ニュースで見たときは
[現在....15人連続殺人――――。]
ということだった。
驚くのはその数字だが大切なのはそこではない。
犯人の特徴や服装が全くわかっていないのだ。
15人も殺しているのに。
特徴が知らされていない=姿を見られていない。
ってことはつまり暗殺!
見られずに殺したということだ。
なのでぼくは背後に気を配っている。
「ぼくの思い過ごしだといいんだけどなあ。」
動物とか鳥だったらいいんだけど..
そんな気持ちとは裏腹に気配は消えない。
そしてぼくは自動販売機の前に着く。
なぜぼくがここに来たかというと単に喉が渇いたというのもあるが、
本当の目的は後ろにある気配の正体を確かめるためだ。
自動販売機のボタンを押すと、中から缶ジュースが出てくる。
出てきたジュースを前屈みになって取る。
そう!この前屈みになったときぼくは完全に無防備となる。
もし気配の正体が通り魔..だったのならそこでぼくを仕留めに来るだろう。
そう踏んだのだ。
そしてぼくは行動に移す。
ゆっくりと。いたって自然に.. 流れるように。
100円だまを入れボタンを押す。
そうすると..
ガタンッ――――。
缶ジュースが出てきてぼくはとろうとする。
ザッ――――。
踏み込む足音。
キンッ――――。
金属音とともに流れるのは血液ではなく..コーラ。
「!!?」
影は面を喰らったというように飛び退き、距離をとってから再び戦闘体制へ。
面を喰らったかどうかは暗がりで、しかもフードを被っているらしく顔は見えなかったがそう判断した。
その一瞬の隙を狙ってぼくは――――。
逃げた。
全力疾走。
影はぼくから遠ざかっていく。
一瞬呆気に取られていた影は瞬時に追い返してきた。
「まじかよ..まじかよ..本当に通り魔が来ちゃったよ。」
うん。
とにかく逃げよう。死ぬのはごめんだ。
追いかけてくる影を横目に見ながらぼくは走る。
高校生なので体力には多少の自信がある。
結局この自信は意味がなかったが。
「あっ――――。」
つまづいた。こんなときにかぎって。
つまづいて転んだぼくは影も転ばせた。
運がいいのか悪いのかわからない。
とにかく悪運は強そうだ。
影との距離は意外と近くなっていたようで。
ぼくと影は転んだ衝撃で頭を打ち付けあうこととなる。
ゴツッ――――。
「|いってぇな..おい(痛い)。」
ぼくらは同時に呟いた。
影の素顔が月明かりに晒される。
影の正体はぼくと同じくらいの銀髪の少年だった。肌はとても白かった。
銀髪の少年は....
「ああー..もうやめだやめ。顔も見られちまったし一撃で仕留めるどころか一発喰らっちまったし。」
それは良かった..心の底から。
殺されずにすんだ。
まあ殺される気は毛頭なかったけど。
「それにしても何で俺が自販機のとこで攻撃してくるってわかったんだ?」
いかにも不思議そうに訊く少年。
「ただの偶然だよ..偶然。ただぼくは姿を見られていない..見られたくない通り魔に対して絶好のチャンスを作っただけだよ。なあアイドル君?」