第四話:隠鬼、昔の思ひ出
「今日は何して遊ぼうか?」
「おにごっこ!」
「おままごとしよ!」
「かくれんぼがいいなぁ」
私が子供達に尋ねると自分がやりたいものを挙げる。
意見が結構別れたため、じゃんけんで決めることになる。
結果、かくれんぼになった。
「あまり遠くに隠れたら駄目だからな?」
「「「はぁ〜い!!」」」
元気な返事がこだまする。
最初は私が鬼になって、木に頭をつけ10数える。
「いーち、にぃー…」
わぁ〜と散って、だんだん声が遠くなっていくのがわかる。
さてどこに隠れるのだろうか…?
「じゅーう!…っと、さてどこかな?」
数え終わった私は子供達を探しに出かける。
懐かしいよな…よく私もこうやって子供達のように遊んだ。
飽きもせず、ずっと外を駆け回っていた。
私が子供だった頃は、こんなに同世代がいなかった。
同じ年といえば、スパーロくらいしかいない。
2人で何するにも一緒にやった。
あぁ…確かあんな事もあったなぁ…ふふっ。
確か、あれは7年前くらいに――。
『ウィンっ、あそぼーぜ!!』
『うんっ!!』
いつものように遊びに誘ってきたスパーロ。
いつものように誘いに乗った私。
今日もいざ行かん!と家を飛び出した。
『なにする?』
『うーん…かくれんぼがいい!!』
『じゃーおれがおにするから、ウィンがかくれて!』
『わかった!ちゃんと10かぞえてね?』
『おう!』
かくれんぼに決まって、スパーロが鬼になった。
なので、急いで隠れ場所を探す。
『いーち、にーい、さーん…』
だんだん数が10に近づいてきて焦る私。
キョロキョロあたりを見渡して探す。
『しーい、ごーお…』
半分数え終わろうとしていた時、いい場所を見つけた。
とても大きくて何百年をも生きているであろう大樹木に…。
下のほうに小さな…ちょうど、子供の私が入れそうな穴があった。
ここだ!と思い、私は入り込んだ。
穴は小さかったけど、入ると大きな空洞があった。
なんだか、隠れ家みたいで感動したのを覚えている。
これは、スパーロに報告しなくちゃと思い外に出ようとした。
『あっ…でも、いまはかくれんぼしているんだっけ…』
そのことを思い出し、ぐっとがまんする。
見つかったら負けだけど、早く見つけてくれないだろうか?とその時は思った。
…けれど、こういうときに限ってみつからないもので。
まってもまっても、スパーロはこなかった。
飽きてしまったのだろうか?
それで、探すのをやめてしまったのだろうか?
そう思ったが、それで出て見つかっても何となく悔しいのでやめた。
やっぱり見つけ出してほしかった。
だから、もう少しだけ待ってみることにした。
へんな意地で待っていると、その内待ちつかれて寝てしまった。
『あ…れ?もう、こんなじかんだぁ…』
寝ぼけながらも目をこすっていった。
穴から差し込んできた橙色に近い赤い光で夕方だと分かる。
『スゥ…あきらめちゃったのかも』
飽きっぽいから多分そう。
いつも遊んでいたから性格は良く知っている。
ずっと同じことをするのは嫌いなことも…。
そう…わかっていても、悲しかった。
自分はなんだか、忘れらているような気がして…。
泣きそうにはなったが、ぐっと堪えて外に出た。
すると…。
『――あっ!ウィン、いたっ!!』
『ス、スゥ…?』
夕焼けに照らされて現れたのはなんとスパーロだった…。
『どこ…かくれて…たんだよっバカァ!!』
息を切らせて、区切れくぎれに言うスパーロ。
今まで探してくれていたの?…と、思ったらとても嬉しかった。
さっきの悲しくてではなくて、嬉しくて涙がでそうだった。
『し、しんぱいしたんだぞっ!!…ぐすっ』
そして私は気づいた。
夕日の眩しさではっきりと見えなかったスパーロの姿が見えてきた。
泥だらけで、擦り切り傷があって……そして――。
『ないてるの…?』
『な、ないてなんか…ううっ…ないからな!!』
目が真っ赤だった。
零れそうだった涙をごしごし腕で拭った。
思いもよらなかった…。
こんなに一生懸命探してくれているだなんて…。
ずっと、諦めたと疑った自分が悪く思えた。
『ごめんね…』
『ずずっ…もういい。ウィンが…みつかったから』
鼻をすすりながら、スパーロは笑った。
本当に…心底嬉しそうな顔で。
だから、私も釣られて満面の笑みを浮かべて笑ったと思う。
そこで、ふとあの樹木の穴の中を思い出す。
スパーロに早く知らせたかった、あの秘密基地みたいな場所を…。
『ねぇ!スゥ。いいばしょをみつけたの!
なんだかね、ひみつきちみたいなところ!!』
『ほんとか?!』
『うんっ。こっちだよ』
涙なんか忘れて、私たちは穴へと向かった。
そして、二人で『すごいすごい!!』と騒いだ。
「う〜ん…ここか?…っていないか」
草むらを掻き分けて探すがいなかった。
うむむ。けっこう、鬼って難しいな…。
「あ、ウィン」
「えっ…スパーロ?」
スパーロの声がしたが、姿が見当たらない…。
「木の上だって」
「あぁ…そこに居たのか」
太めな枝に寝転がっていた。
どおりで、辺りを見渡しても居ないわけだ。
「よっ…」と上から降りてくる。
ばさっと、ひとはばたき翼をして衝撃を減らす。
「何してるんだ?」
「子供達とかくれんぼをな」
「また遊んでやってるのか…面倒見がいいなー相変わらず」
「スパーロは相変わらず、木の上で昼寝とは良いご身分だな?」
「いーだろ、気持ち良いんだから…」
ふわ〜とのん気にあくびを一つ。
いつものスパーロだ。
「いつもどおりに戻ったな…安心した。」
「はぁ?何が…??」
本人は、ぜんぜんわかってはいないご様子。
朝の皿洗い時の時はどうしたのだっと言いたいくらいだ。
はぁ〜…相変わらずだな、そのマイペースさは。
「なんでもない。
それより、暇なら手伝わないか?鬼役」
「あーかくれんぼしてるんだっけ」
「いいだろ?一人じゃ、全員見つけられる自信がない…」
「別にいいけど。
お前、隠れるの上手かったんだから見つけられると思うけどな」
「昔の話だろう。
それに隠れるのと見つけるのは結構違うぞ」
「そうか?隠れるのが上手けりゃ、どこに隠れているか分かりそうだけど…」
「確かに一理あるが…。
そういえば…スパーロは見つけるのは昔から下手だったな」
さっき思い出していた出来事を振り返る。
あの時、隠れた場所はそう遠くなく、近いくらいだった。
今思えば、子供の目線ならあれくらい見つけられただろうにな。
そう思ったらおかしくて…ちょっとふきだして笑ってしまった。
「なんだよ…そんなに笑う事か?」
「いやなに…昔の事を思い出してな。
…ほら、いつか隠れ鬼をやった時に私が見つからなくて泣いただろ?お前」
「あー…そんな事あったかなー」
「まったく、そんな事言って…覚えているのだろう?嘘が下手だな」
「うるさいな。ほっとけ」
ふんっと言ってスパーロはそっぽを向いた。
そーやってすぐ拗ねるんだから…。
「昔を掘り返すようで悪いが…
あの時、一生懸命探してくれた事すごく嬉しかったぞ」
独りで寂しくて、泣きそうになった私。
いつもならすぐ諦めてしまうスパーロが、あの時はずっと探し続けていた。
「…そうかっ?」
さっきとはうって変わってはにかんで笑った。
「しょーがない!
手伝ってやるよっ鬼役」
「あぁ、頼む」
そう言って私とスパーロは歩き出した。
子供達を探しに…2人で。