第二話:報告、思い返せば…
――帰って…。
私が集落に戻ると、宴会騒ぎになっていた。
いつものことだ。
移り住むたびに宴会の場が設けられる。
まったく、大人は何を気楽にやっているのか…。
「おぉ!!ウィンじゃないかぁ〜ずいぶん、ヒック…遅かったなぁーいったい何してたんだぁ?」
最初に声をかけてきたのは、何を隠そう自分の親父だ…。
かなり酔っている様子…。
「何って…ただ食料になりそうなもの探してただけで…」
「本当にそれだけかぁ??怪しいもんだなー」
私は内心ドキッした。
酔っていても
勘は鋭いのか…この親父は…。
「本当にそれだけだ…何も怪しいことなんてない」
「ほーそうか。まーいいやぁ…ひっくぅぁ……」
…やっぱ、ただの酔っ払いの戯言か…。
あせって損した。
本当に、食料の確認で何があったか
この酔っ払い当主に報告しても意味がない気がする…。
それは、明日にするか。
「ウィンッ!」
「あっ、スパーロ」
「何してるんだよ。遅いぞ!心配したじゃんかっ」
「悪いな…心配かけて。
結構いい穴場でな。少し、土産を採ってきたからスパーロにおすそ分けだ」
これで許せよと続けて言った。
「まったく…俺そこまで、子供じゃねぇんだ。
物で釣られるわけないだろ…でも、サンキュ」
そういっている割には嬉しいそうに笑った。
自分でも少し自覚しているらしく、少し照れくさそうでもあった。
「あぁ、そうだ。
スパーロの父上はどこにらっしゃる?」
「親父?
確か、俺んちにいると思うけど…」
「そうか。
スパーロの家はどこに建てたんだ?」
「まだ、見てなかったんだっけな
こっちだ!案内してやるよ」
「ありがと」
ついでに自分宅が立った場所も教わり、スパーロの父上…ジャクさんに会いに行った。
自分のだめ親父じゃ、話にならないからな…。
トントン
「親父、ウィンが話があるって言ってるぜ?」
「そうか。入っていいぞ」
ドアをたたき、許可を得ると快くジャクさんは入れてくれた。
開けると、机にいっぱいの資料が積み重なっていた。
細かい一族の事柄はすべてジャクさんがやってくださっている。
「ウィンちゃん、お疲れ。
子供達の相手は大変だったろう?」
「ふふっ、大丈夫ですよ?」
スパーロと同じ様なことを聞いてきたので、すこしおかしかった。
「そうかい。ありがとうな、ウィンちゃん。
しかも息子まで世話になってるからな」
「おいっ、それどういうことだよ!」
「お前は餓鬼だからな。子供とかわらんさ」
「なんだと、くそ親父!!」
「そー言う前にウィンちゃんの様に大人にならんかっ」
「いでっ!!」
机にあった本でスパーロの頭をなぐる。
悔しそうににらみつけるが、かなわない事がわかっているため喧嘩沙汰にはならない。
「そういえば、私に用があったみたいだが何かな?」
「はい。先ほどまで食料の確保場所を見てきたのですが
とてもいいところがあったので、報告しようと…」
「あぁ、そうか。
この事はウィリーには言ったのか?」
「いいえ。あの人は酔いつぶれているので、今言っても覚えていませんよ」
「それもそうだな。」
ウィリーとは私の親父のこと。
本当は、長である親父へ先に報告するのがスジだが
あの状態では、今言っても意味なんてありえはしない…。
だからとりあえず、親父の補佐であるジャクさんへ先に報告したのだ。
「報告、ありがとう。
本当にウィンちゃんはしっかりしている。
スパーロに爪のあかを煎じて飲ませたいものだ」
「だから、俺の話をいちいち持ち出すな!」
こう言い合いをしているが、それは喧嘩するほど仲が良いというやつで
いつもジャクさんはスパーロを持ち出しているが、それは親しい故で…。
見ているこちらが微笑ましくなってくる気がする。
「では、明日。
その場所へご案内しますよ」
「うむ。よろしく頼むよ」
「はい。
…後、もう一つご報告が」
「何かな?」
「この近くに古びた教会があります。
住んでいる様子はありませんが、人間が出入りしている様子がありました」
「ほう…では、その場所も明日に教えてもらおう」
「はい、わかりました。
報告は以上です」
「本当に助かった。ありがとうな。
今日はもう遅い。ゆっくり休むといいぞ」
「ありがとうございます。
お言葉に甘えて今日は休みます。
おやすみなさい、ジャクさん」
「あぁ、お休み…」
そう言ってスパーロと部屋を出た。
その後、近くではあったがスパーロに家まで送っていってもらった。
「近くなんだから送ってもらわなくてもよかったのに…」
「万が一があるからな。
それに送っていかないと親父が怖いしな」
「ははっ、本当にジャクさんに弱いんだな」
「しょうがないだろ。力だって頭だってかなわないのはもう分かってる。
…昔さんざんやりあったからな」
「まぁ、そう理解しているだけでも大人になったんじゃないか?」
「そーだなー!」
ちょっと不機嫌そうに答えるスパーロ。
やはり、子供扱いが嫌いのようだ。
それに比べ、私はずいぶん前から大人扱いされている。
こんな事を言ったらスパーロに怒られるだろうが、正直うらやましく思ってる。
大人扱いの私には、それなりの責任と自覚。
甘えなんて許されない。
これからの有翼族を引っ張っていくのは、今後私になっていくのだから…。
「ありがとうな。わざわざ送ってもらって」
「別に。たいした距離じゃねぇーし、気にするなよ」
「ふふっ」
スパーロは何かとぶっきらぼうだが、根は結構優しい奴だ。
親父に言われたからと言っているがたぶん、自分自身の意思だろう。
「何、笑ってんだよ」
「いや…優しいなと思ってな」
「ば、馬鹿いうなよ!思ってもないくせにっ」
「ははっ、ばれたか?」
「…本当に思ってねぇーのかよ」
「嘘だ…。思ってるぞ…ありがとう」
「お、おう」
「おやすみ、また明日」
「…おやすみ、ゆっくり寝ろよな!」
「…うん」
小さくうなずくとスパーロはどこかへ行った。
きっと宴会だろうな。
暗い部屋に明かりをともして、ハンモックに乗った。
ゆらゆら揺れた。
…今日は、色々あった気がする。
特にあのレガートという青年…。
『だ、大丈夫ですかっ天使様?』
最初会った時の言葉。
私の事を天使様だとか言っていた。
人間からすれば、白い翼をもつ私は天使に見えるのだろうな。
…だけど。
『驚くわけないじゃないですか。天使様とは前にお会いしたのに』
レガートは確かにこう言った。
今、思い返してもその記憶に覚えはなかった。
『ともかく、あなたと昔…10年前会ったんだ…確かに』
10年前か…前にも言ったが、現在私の年は12歳。
2歳の頃などに会ったとはそうたいてい思えない。
やはり、あやつの勘違いに決まっている。
「…レガートか」
でも…わからないけど、レガートと言う青年が気になってしょうがなかった。
もう一度会いたいとまで思ってしまった。
あの、少年のように無邪気に笑うあやつに。
何故だろう…?人間に接触するのは危ないことなのにな。
明日、もう一度あの場所へ行ってみるか。
危険調査のためなら、きっと…許されるだろう。
「誰に言い訳しているのだろうか?私は…」
誰もいない、部屋に私の独り言が響く。
…もう、寝よう。
今は頭が混乱しているだけだ。
だから、上手く考えられないのだろう。
そう思ったので寝ることにした。
明日になれば、きっとまた元通りの自分に戻れると思うから…。