気高く美しいお姫様 前編(sideアレン)
アレンは王家の影見習いだ。アレンの家は代々王家の影として活動し、支えてきたらしい。今までは訓練ばっかりしていたが、十歳になってとうとう仕事をさせてもらえることになった。とはいえ、父さんと一緒だが。
今回の命令は王からではなく、王太子であるセドリック殿下からの指示であった。曰く、婚約者候補を探せとのことだ。
…もっとかっこいい仕事だと思ったのに。
この初仕事が決まったとき、最初はワクワクしていたが内容を聞いた瞬間にそんな感情は消え去った。そんなの勝手に結婚しろってんだ。オウジサマともなればモテモテ人生まっしぐらだろうが!もっと俺はどっかのスパイ映画みたいにビルの窓に張り付いたり飛行機のドアにぶら下がったり殴りあい蹴りあいしたりして世界の平和のために動くとかそんな感じの仕事だと思ってたのに…。
ここまで聞いて気づいた人もいるだろう。そう、俺は転生者だ。前世では大学生まで生きて、急に通り魔に刺されて殺された。前世の俺には妹がおり、乙女ゲームにはまっていた。そのせいか俺も少しはやったことがある。そしてある日、この世界は『あなたの未来に祝福を』という乙女ゲームの世界であると気づいた。
このゲームは一周目は普通に主人公で聖女となったミライを動かし、王太子やその他色々な男子を誘惑していく。そして逆ハーエンド…つまり攻略対象全員を誘惑して虜にし、最後に誰か一人を選んで他の男子たちは主人公と選ばれた男子を支えていくというエンドを迎えると、悪役令嬢のロックが開く。すると、悪役令嬢セレーナを動かせるようになる。
これが鬼畜ゲーなのだ。セレーナの二歳のころからスタートするのだが、この公爵家が本当にゴミなのだ。詳細は省くが、少しでも選択を間違えると急に十歳に飛ぶ。その後はダイジェストになり、性格がねじ曲がり、親に与えられなかった愛情を婚約者になったセドリックに向け、十二歳に入学した学園で現れる聖女ミライにセドリックを取られ、聖女を殺そうとして処刑される。ひどい話だ。それを夜遅くまで攻略しようと頑張っていたが、結局無理だった。途中で休憩がてら真夜中のコンビニに行ったときに殺されたからだ。
いや、待てよ。今ならぎりぎり間に合うのか?婚約者候補を探すがてらにセレーナの家にも行く。その時に少し支えることができたなら、もしかするとセレーナを攻略できるかもしれない。
俺はまだこの世界はゲームの世界として軽く見ていた。セレーナを助けたいとか、かわいそうとか、そんなことは全然考えてすらいなかった。ただ、最後まで攻略できなかったゲームを攻略したい。ただそれだけだった。
現実はゲームのように画面の向こう側の世界ではないと、気づいていなかったのだ。
セレーナのイチアナ公爵家以外の家は一通り見終わった。あとはセレーナだけだ。他の人たちは…まあなんというか子供だった。そりゃあそうだ。今回見たのは二歳から五歳までのすべての貴族令嬢だが、蝶よ花よと甘やかされており、まだ十分に勉強もできていない。まあ、こういう教育やしつけは普通十歳からだから仕方ない。
でもそれだとオウジサマは納得しなかったらしい。このオウジサマ…セドリック王太子殿下は、三歳だとは思えないほどしっかりしている。何度か顔を合わせてはいるが、話し方も考え方も三歳のそれではない。俺もたいがいだが、それは転生者だというアドバンテージがあるからだ。一度、転生って信じますか?って聞いてみたが、めちゃめちゃ真面目に、死んでからどこに行くかは誰もわからない~うんたらかんたらと語り始めた。俺も至極真面目そうな顔をしてうなずいていたが、あれは完全に転生者ではないだろう。
そして父さんとともにイチアナ公爵家へと潜入した。部屋のすべてを探したが、どこにもセレーナはいない。ちょっと使用人と公爵との話を盗み聞きしたが、おとなしい、ということしかわからない。父さんは最初セレーナを極度の引きこもりだと調査書に書いていたが、俺には予測がついていた。ゲーム画面では確か塔のようなものにいたはずだ。とりあえず屋敷の庭を探したが、ビンゴだ。少し遠くに小さくて高い塔が立っていた。あれに違いない。
父さんとともに入ろうとしたが、庭に入った瞬間に、体が重くなる。魔法が使えない?俺の適性は風だ。でも浮くことができない。父さんを見ると、どうやら父さんも気づいたようだ。とりあえず塔から離れて、対策を立てる。今日は誕生日パーティらしい。まだセレーナは最善の選択肢を選び続けているようだ。誕生日パーティは、両親やメイド長に口答えや反抗をしないなど、選択肢で一度もミスをしていない証拠だ。
そして父さんと魔法阻害結界阻害の魔術具をつけ、再度潜入する。そして調査書に詳しく家具の配置等を記入して隠れた。




