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ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅰ章 薄暗い塔
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隣に誰かがいる、ということ

最近、何かが変わった、気がする。例えば、蹴られたときや殴られたときに全然痛くない、とか。最初は気のせいかと思っていたが、じっと観察しながら殴られたときに確信した。

これは…空気の塊?

薄眼で見てみると、メイド長が殴ったときに厳密には体に当たっていないように見える。まるで自分の体とメイド長のこぶしの間に空気の塊があるかのように。

蹴り飛ばされたときも同じように空気の塊によるガードが入り、飛ばされた先でも壁や床と体の間にもあるようだ。

いったい、何がおこっているんだろう?いや、私は知っている。これは…。

「風の魔法…?」

そうつぶやくとどこからか風が吹いた。窓は閉まっている、ということは。

「誰かいるの?」

また風が吹く。これは、肯定、という意味だろうか?

「少し質問をしてもいいでしょうか?肯定なら風を一回、否定なら二回、答えられないなら三回吹かせてくださいませ?」

一回…肯定、か。

「わたくしを暴力から助けてくださったのはあなた方なのですか?」

一回

「あなた方を雇っているのは…お父様?」

…二回

「…お母様?」

…二回

「そう…なら、この家のものではないのですか?」

一回

「じゃあ…王家、とか」

……三回、これは肯定、とみていいだろう。あてずっぽうだったが一回で当てられるとか、私はもしかするとすごい幸運の持ち主なのかもしれない。…いや、それは現実逃避か。

「わたくしの状況はあなた方の主に伝えているの?」

一回

「わたくしを今のところ害する気はあるのでしょうか?」

二回

「じゃあ味方だと思ってもいいの?」

一回

「それはあなた方の主の意思?」

一回

「そう…ここにはいつまでいるのかしら…長くいる予定はあるのですか?」

一回

「これからも、わたくしを助けてくださる、ということ?」

一回

「…わたくしと一緒にいてくれるの?」

一回

「そ、う…。それは…それは、ありがとう…ありが、とう…。」

思わず涙があふれてきてしまった。誰かがそばにいてくれる、たったそれだけのことが、どれだけのことか。前世では感謝もしていなかった。気づいていなかったのだ。そばに誰かいることが特別だと。

自分は、一人ではないのだと、それがわかるだけで十分なのだ。

「うれしい…」

そう言って思わずしゃがみこんだ私の隣を、優しくて暖かい風が通り抜けた。


ねえ、セレーナ。あなたの隣には誰かがいたときがあった?一人っきりで寂しいときだけではなかった?もし誰かがいた時があったら、その時、その時は、きっと私が今思っているよりはるかにうれしかったでしょうね…。

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