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ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅰ章 薄暗い塔
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婚約者探し(sideセドリック)

セドリックは王太子だ。かかわる人間は限られている。

騎士団長の息子のダミアン、魔法局長の息子のアントスとは将来の側近候補としてすでに顔を合わせた。あと会う必要があるのは、婚約者候補のみだ。


ばさりと机の上に紙を広げる。

「はぁ、めんどくさいな」

「ちょっと殿下~、自分の結婚相手ですよ?もっと真剣に考えてくださいよ~」

そういって現れたのは自分とは乳兄弟であり、従者であるエルディアだ。

「とはいってもな、俺としては誰もいいんだ。しいて言うのならこの国を支える覚悟を持った人間がいい。それが無理なら、何も考えていない善良な人間なら扱いやすいな。そのほうが無駄に考えなくてもよさそうだ」

「そうですね~、じゃあとりあえずセレーナ・イチアナ公爵令嬢とかはどうです?殿下と同い年ですが、おとなしい令嬢だそうですよ。公爵令嬢なので身分もちょうどいい。覚悟を持てるかもしれません」

「セレーナ、か。でもイチアナ公爵は曲者だ。善良とは程遠い」

「でもまだ三歳です。これから王城で王妃教育を受ければ期待通りに育つかも」


手元の調査書をながめる。

名はセレーナ・イチアナ。イチアナ公爵家の一人娘。性格はおとなしいらしいが、屋敷の者でもその姿を見る機会はほとんどない。どうやら自室に引きこもっているらしい。

「自室に引きこもっているせいかほとんど情報が入ってないな…」

「調べたものによると、両親からあまり好かれていないそうで、屋敷ではその話題さへもでないそうです。自室がある離れには近づくことさへ難しい、と。最近はメイド長が直々にほぼ毎日様子を見に行っているようですが」

他の令嬢の調査書をさらっと読んでみてもろくなものがいなさそうだ。少なくとも身分が釣り合う令嬢は三歳ということもあって子供だし、わがままなものが多い。

「はぁ、とりあえずセレーナ嬢にあえる三歳の誕生日パーティーにいってみて、だな。他にはろくなものがいないが、セレーナ嬢は未知数だ」

「もしかするとお眼鏡にかなうかも、ということですね?」

「ああ、もしだめなら、あきらめて五歳になったときに再度選びなおそう。とはいえ、期待通りであった場合でも即決するつもりはないが」

「まあ、それがいいでしょう」


食堂二つ分くらいの大きさのホールに入ると、正面真ん中の椅子に一人の女の子が座っていた。夜空をうつしたような漆黒の髪に、冬の夕焼けのような深紅の目。まるで仮面をかぶっているかのように、にこにこと一定に笑って、たまに料理を食べている。その所作は美しく、まるで長年教育を受けたようだ。三歳というにはあまりに異常におとなしく、大人びた少女であった。

「はじめまして」

そういった瞬間に、その仮面は劇的に崩れた。目が大きく開かれ、口はわなわなと震えている。ひとめぼれをした、というより、懐かしさと羨望?の目で俺を食い入るように見ていた。それでも全体的な表情は変わらない。社交に慣れ、表情を隠すことがうまい大人にしかできないことだ。

でも、何も話さない。

「なあ、なんで黙っているんだ?私が話しかけたのだぞ?」

しまったと思った。もともとおとなしい性格だと知っていたのだからもっと優しく話しかけるべきだったと。泣かれてしまったら面倒だと思ってどうフォローをするか考える。セレーナは横のメイドに何やら話した後、こちらに向かい合って口を開いた。

「無作法をお許しください…セドリック王太子殿下。わたくしはセレーナと申します」

敬語も少し難しい言葉も理解している。そしておとなしいが別にすぐに泣くわけではない。少しおどおどとしているがそれくらいはマイナスにならない。

「少し話せるか?」

目をさまよわせてメイドを見るが、すぐに向き直って目を合わせた。

「…大丈夫です」


別室に案内され、改めて向き直る。

「そなたはずいぶんとほかの子供より大人っぽい話し方をするな」

「恐縮です。セド…リック王太子殿下もほかの大人びていらっしゃいますね」

「私は王太子だからな!…ところで、だが、おそらくだが私たちは婚約することになるが、どう思う?」

俺はその目をのぞき込んだ。その目は少し驚いたように見えた。

「殿下!あまりそのようなことは…」

エルディアが驚いたように声を上げる。それはそうだ。あまり期待していなかったのに急に決めたのだから。

「いいではないか、私は婚約するなら覚悟を持った強い女性がいい。そなたはこの国を支え、守り、育てる、その覚悟があるか?」

その目をじっと見つめると、彼女は何か考え込んでいるようだった。

「わたくしは…」

そういった瞬間に急に体が固まった。自分ではないどこか遠くを見ているようだった。

「セレーナ嬢、セレーナ嬢!」

思わず声をかけると、はっとしたようにこちらを見た。少し泣きそうな、混乱しているような顔だ。

「大丈夫か?顔色が悪い」

「…っあ、大丈夫、です」

見るからに大丈夫ではない。

「とりあえず、今日はここまでにしよう。そなたは少し休め。後日、城によぶ。そのときに返答を聞こう」

「ありがとう、ございます」


城の自室に戻り、はあ、吐息をつく。

「殿下!どういうことですか!」

「彼女は期待以上の人だった」

「それはそうですが…。まだ正確な情報もつかめてない、裏ではどうだかなんて何の確証もないんですよ!」

「表だけでもつくろえれば十分だ…ところで、気づいたか?」

「?」

「口を開くのも食事をするのもすべてメイドの許可を取っていた。料理をとってもらう必要があるのでそれはいいが…話すことさへ許可がいるとは」

「まだ子供ですから失言を防ぐといくと考えれば普通では?」

「それはそうだが…」

あそこまで冷静に話ができるのにそこまでするか?


「なんだこれは…」

翌日俺たちは新たな調査書を読んで目を見開くことになる。そこにはセレーナの一日の行動が細かくかかれてあった。


調査書 王歴1331年 10/25

対象:セレーナ・イチアナ公爵令嬢

屋敷から少し離れた塔に住む。塔には魔法を阻害する結界が張られている。部屋の中には木製の机と椅子、布切れでできた布団、鏡がある。少し肌寒いが暖房器具等は見受けられない。


6:00 起床 布団の上に座って虚空を見つめている。特に何かしている様子はない。

6:30 着替え メイド2人(エレナ、アリア 別の調査書にて詳細)が部屋に入ってきて水が入った桶を渡す。令嬢はそれで顔を洗う。メイドが持ってきた服を渡されて自分で着替える。服は灰色のつぎはぎだらけのワンピースと思わしきもの。その後は起床時と同じく何もしない。

7:00 朝食 再度メイド2人が入ってきて食事を渡す。ジャガイモが入ったスープが直径10㎝、深さ5㎝ほどの容器に半分ほど…だがほとんど味がなさそうなほど色が薄い。幼児の食事用とは思えないほど硬い直径5㎝ほどの丸パンが一つ。その後は起床時と同じ。

12:00 昼食 再度メイドが渡す。朝食と同じ献立。その後は起床時と同じ

17:13 表記不可 メイド長が部屋に入ってくる。令嬢を蹴り飛ばす。

17:15 令嬢に暴言を投げながら踏みつける。 以下詳細 メイド長をゴミ、令嬢をセレーナ、と表記

ゴミ「おい、呪い子、昨日はおいしいものたんまりたべたらしいじゃない?なあに?私たちが丹精込めてお客様や旦那様と奥様に食べていただくために作った料理をばくばくと食って!はしたないったらない!どうせろくな教育も受けていないような野生児のくせに!私はあんたのためにあちこち走り回ってやったというのに感謝の一つもないの!?」

セレーナ「あり…が」

ゴミ「しゃべるんじゃない!」

ゴミが蹴り飛ばす。

ゴミ「お前みたいな闇属性の呪い子は話すだけでのろいをふりまくんだよ!バカなんだから何度言ってもりかいできないんだね!!この愚図!」

何度か足蹴りにしたのち、出ていく。令嬢はうずくまったまま。動かない。

18:00 夕食 メイド2人が現れて食事を持ってくる。手を貸してはいるが明らかに暴力を振るわれた状態なのに声をかけない 令嬢も何も言わない

19:00 就寝


追伸 あのゴミをゴミ箱に入れていいですか?


「なんだ、なんなんだ!」

「これは…ひどい…」

じゃあなんだ?セレーナは別におとなしいわけではなく、虐待をされていた、ということか。食事も満足に与えられず、メイドから暴言や暴力を浴びせられ、誰も助けようとしない。

「こんなことが、許されていいはずがない…。エルディア!今すぐに父上と母上に面会を申し込め!」

「御意」


俺は、すぐさま調査書を持って面会に行った。この一人の令嬢を助けるために。

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