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ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅰ章 薄暗い塔
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王妃としての覚悟

まるで本当に夢だったかのように、さらっと日常に戻った。午前はなにもすることがなく、午後はメイド長が来る。その繰り返し。このままでは何も進展しない。正確には、王家から正式に婚約の話がくるまでなにもできない。そして次にセドにあった時に、あの質問に答えられない。

『この国を支え、守り、育てる、その覚悟があるか』

前世の私はその覚悟があった、のだろうか。王妃として生き、国を支え、守り、育てたはずだ。でもその覚悟があったというより、セドの役に立とうとそう考えていた。直接国を慈しんでいたかと問われるとすぐにこたえることができない。それは、今世の私が即答できていないことに答えがあるとそう思ってしまう。


前世、セレーナにはおそらく覚悟がなかった。なぜなら国を守るには聖女の力があったほうが都合がいいからだ。聖女を殺そうとした、ということはセドリックに対する想いが国に対する想いに勝ってしまった、ということだ。

そしてそれは私にも言えたことだ。もし急に現れた女とセドが惹かれあってしまったら、私はその女を害そうとしてしまう。たとえその女が聖女であり、この国に役立つ存在であったとしても、だ。


そういえば、とふと思った。この体には元のセレーナの魂が存在しない。なら、どこに?

今のミライの体にも元のミライの魂が存在しない。なら、どこに?


…恐ろしい考えが浮かんでしまった。


もし、元のセレーナの魂が、今のミライの体に入っているとしたら?自分をその立場に置いて考えてみる。好きだった人を、急に現れた女が原因で奪われて、殺された。そしてその女にまた生まれ変わった。恨みから冤罪でもかけられて前世と同じようにもともとの自分の体を処刑することなんて簡単だ。


入れ替わってても、前世の私がそこにいるとしても、私が処刑される可能性は高いといっていいだろう。なぜなら、セドが好きなのはミライ(わたし)なのだ。セレーナ(わたくし)ではない。


じゃあ、どうする?婚約を断る?でも私はしょせんこの家の人形だ。生きてようが死んでようがいい存在。両親に命令されて婚約することになったら断ることはできない。誰にも愛されない存在、それがセレーナ。なんて、かわいそうなんだろう。


…ああ、変わったな。思わずふっと笑ってしまった。


前までは前世の私は、私は、自分が一番可哀想って思っていた。

田舎で不便な暮らしをしてきて、それでも楽しかったのに急に学園に連れてこられて、恋をしたらいじめられて。

でも、でも、それでも、みんな私を愛してくれた。

セドもダンもアスも田舎のおばあちゃんおじいちゃんも国のみんなも、前王…今の時代では現王にも現王妃にも可愛がられて…。


でも、セレーナを愛してくれる人はいない。

ずっと思っていたのだ。きっとセドに逢ったら助けてくれる、なんて、根拠もなく。でも信じられない。セドはセレーナを愛さなかった。3歳からあっていたにも関わらず、ミライを愛し、殺されそうになっただけでセレーナを処刑した。それはミライへの愛を示すとともに、セレーナへの愛を否定することも示した。


そうだ、変わらなければならない。私は、もう何も苦労をしなくても誰からも愛される存在ミライではないのだから。セレーナとして生きるのだから。


婚約は断れない。なら、覚悟を決めよう。セドを愛すことをやめよう。セドはミライのものだ。私は前世でセドに十分愛してもらい、そして愛した。なら、今世もそれはミライのためのものだ。


私は、この国を、愛す。たとえそれで処刑されても、受け入れよう。それがこの国のためになるのなら。



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