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ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅰ章 薄暗い塔
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夢のような誕生日

三歳の誕生日の日、急に塔の外に連れていかれ、屋敷へと入った。エレナとアリアは私のぼろ雑巾のような服を脱がせ、私をお風呂に入れた。前世で学生だった頃に使っていたものと似た小さいお風呂だが、今世では初のお風呂だ。

急な対応の変化に驚いたが、誕生日を祝ってくれるのかもしれないと少し期待に目が輝いた。ぱさぱさだった髪が少し潤い、豪華な服を着せられた。きちんと公爵家のグレードに合った服だ。

そして、生まれた時から初めて両親と対面した。

「あなたはおとなしい性格だとメイドから聞いているわ。そのまま何も話さず今日を過ごしなさい。なにか行動を起こすときは必ず後ろに控えたメイドに確認をとること。いいわね?詳しいことはすべてメイドから聞きなさい」

「絶対に何も話すな、何もするな。呪いがうつるからな」

はい、と答えることもしてはいけないのだろう。仕方ないので目を伏せてうなずくことで了承の意を示す。

すると彼らは満足そうに、だがこちらをほとんど見ないようにしながら出て行った。


「ここからはわたくしがお嬢様に説明をします」

そういってエレナが目の前に出てきた。エレナは闇属性に対する偏見がない。ただ、無関心であるだけだ。けれどもあからさまに嫌な顔はしない。それに加えて一応私のことを主として丁寧な口調で接してくれる。それだけで少し安心する。

「まず、お嬢様はセレーナ・イナチア公爵令嬢で、今日はお嬢様の誕生日パーティーに出席していただきます。何も話さず、ただ椅子に座ってにこにこしているだけで大丈夫です。むしろそれ以外をするなとの命令がございます。お腹がすいてもトイレに行きたくなっても私に小さい声で教えてください。随時対応を致します」

何も言わずにうなずこうとすると、エレナはにこりと笑った。

「わたくしはお嬢様の適性を何とも思っていないので、わたくしにだけは話しても大丈夫です。言葉でなければ何をしたいのかがわかりませんから」

「…わかりました」

私だからこそこんな説明でも理解はできる。でも、前世のセレーナはどうだったのだろう?彼女の三歳のころなんて私は知らない。三歳の子供にここまで難しい説明が理解できるだろうか?きちんと無事にこのパーティーを終えることができたのだろうか?


とても広いホールにキラキラとした大きなシャンデリアが光っている。その真ん中の椅子に座っているとたくさんの人たちが挨拶に来る。私の仕事はただそれににこにこと笑顔を返すだけだ。本来なつまらないのだろうが、一日中薄暗い塔でぼーっとするよりはましだ。むしろエレナが持ってきてくれる色鮮やかで美味しそうな食べ物を食べられるだけで夢のようだ。前世でしか食べたことのない料理を皿いっぱいに広げてもらう。おいしい。本当においしい。最近は食事の量が減っていただけ、さらにおいしく感じる。涙が思わず出そうになった時、


「はじめまして」

という凛とした声が響いた。

時が止まった、と思った。彼がそこにいた。この国の、今はまだ王太子のその人の名前は、

「セドリックという。この国の王太子だ。よろしく」

…セド、ああ、セド。愛しい彼を私が忘れるわけがない。まだ幼くかわいらしい顔立ちのその人、間違いなく前世の夫のセドリックだった。隣にいるあまり見覚えのないセドの従者が私に対して誕生日のお祝いを述べているが、私は上の空でそれを聞いていた。セドに逢えたら言いたいことがたくさんあった。転生したこと、セレーナとして生きるのはとてもつらいこと、殴られたこと、悲しいこと、苦しいこと、…あなたを今もまだ愛していること。きっとセドなら助けてくれる。そう思った。

「なあ、なんで黙っているんだ?私が話しかけたのだぞ?」

唐突にそういわれ、はじかれたように顔を上げた。そしてセド越しに両親の姿が見えて、途端に夢が現実に戻る。普通に考えてセドには記憶がない可能性が高い。記憶があっても今の私はセレーナだ。悪女なのだ。深呼吸をして心を落ち着かせ、エレナを見る。仕方なさそうにうなずく。許可が出た。

「無作法をお許しください…セドリック王太子殿下。わたくしはセレーナと申します」

「少し話せるか?」

「…大丈夫です」

こうして、セドリックとメイドや従者がいるとはいえ二人で話せることになった。


「そなたはずいぶんとほかの子供より大人っぽい話し方をするな」

「恐縮です。セド…リック王太子殿下もほかの大人びていらっしゃいますね」

「私は王太子だからな!…ところで、だが、おそらくだが私たちは婚約することになるが、どう思う?」

あまりに急だ。セドの隣の従者は驚いたようにセドのことを見た。

「殿下!あまりそのようなことは…」

「いいではないか、私は婚約するなら覚悟を持った強い女性がいい。そなたはこの国を支え、守り、育てる、その覚悟があるか?」

真剣な目だ。

「わたくしは…」

そこではたと考える。前世でセレーナはセドと婚約をしていた。そこに聖女ミライが現れ、セレーナがミライを殺そうとしたことで婚約が破棄される。

なら、今世は?ミライ(わたし)は現れるのだろうか?魂はここにある。けれどミライが現れる可能性は高い。そもそもセドはどうするのだろう?セレーナ(わたくし)がミライを殺そうとしなければ処刑はされないだろう。でも、婚約は?セドが好きになったのはミライ(わたし)だ。その時、セレーナ(わたくし)はどうなる?

「…レーナ嬢、セレーナ嬢!」

はっとして顔を上げる。

「大丈夫か?顔色が悪い」

「…っあ、大丈夫、です」

落ち着け、私。

「とりあえず、今日はここまでにしよう。そなたは少し休め。後日、城によぶ。そのときに返答を聞こう」

「ありがとう、ございます」


その後、きれいな服はとりあげられ、もとのボロボロな服に着替えさせられ、塔へ戻された。

こうして、私の誕生日は終わった。


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