悪夢のような生活の始まり
生まれてからあともう少しで三年という月日がたった。最初はあまり自分がセレーナであるという自覚はなかったが、三年も経てばさすがに自分をセレーナだと認識し始めた。メイドたちの前ではできるだけおとなしい普通の赤ちゃんを演じ続け、今もまだ前世を覚えていることや人生一周分の知識や精神があることには気づかれていない。
今までで分かったことは
・私には兄弟がいないこと
・両親は絶対に私に会いにこようとは思っていないこと
・この塔には魔法阻害の結界がはってあること
・この塔から出ることはできても、少し行くと柵があってそれ以上は出られない
などだ。
私もまたあと少しで三歳になるということでずいぶんと成長した。長く起きられるようになり、話せるようにもなった。今日もまた同じようにほとんどだれも来ない寂しくつまらなく終わるのだろうと思っていた。
「…?」
今は夕方くらいだろうか?急にバタンと音を立ててドアが開いた音がした。誰だろう?この時間帯は誰も来ないはずなのに。
少し間をおいて背の低い大柄な女性が部屋に入ってきた。まったく見覚えがない女性だ。メイド服を着ているのでおそらく公爵家のメイドなのだろうとあたりをつける。まるで検分するようにじっくりと私を見るが、何も話さない。
「誰、ですか?」
思わず聞いてみた。その瞬間、彼女は私を少し強くはたいた。
普通なら大丈夫なのかもしれないが、私はまだ二歳で、いくら放置されているといっても暴力を振るわれることはなかった。だからこそ、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
痛い。
ただそれだけを思った。
「おぞましい。まるで闇のような髪に、血のような目。奥様にも旦那様にも似ていない、悪魔の子。それに加えて闇属性。そんな呪い子なのになぜ口を開いたの?」
「い、たい」
「話すなといったのが聞こえなかったの!?」
さらに強く私をはたく。自然と涙がでてきた。
「ああ、すっきりした。呪い子ならいくらたたいても良心は痛まないし、この子はほとんど放置されているのだから誰も気にしない」
そういって彼女は、それこそ血のように赤い唇をゆがませて笑う。ここまで醜悪な人間は見たことがなかった。
「私はこの屋敷のメイド長よ、呪い子さん。これからよろしくね」
そして彼女は塔から出て行った。
頬を触ると痛みで熱を帯びていた。おそらく赤くなっているのだろう。
その後夕食を持ってきたエレナとアリアは、私の顔を一瞥し、眉を寄せたが何も言わずに出て行った。まだ私の頬は赤いはずだ。でも彼女たちは何も言わない、ということは黙認したのだろう。
それからは悪夢だった。
毎日のようにメイド長は夕方になるとやってくる。何か話すと殴られるが、何も話さなくても礼儀がなってないと殴り蹴ってきた。どうしろというのだ。
そして食事も今までにまして粗末なものになっていった。スープと硬いパンだけ、という日もあるほどだ。毎日体を拭いてもらっていたのに、一週間に一度だけにもなった。とにかくあらゆる生活水準が低下した。今はまだ暖かい季節だが、この後に寒い季節になったときには暖房もなくなるのでないかと思うほどだ。
そしてあともう少しで私の誕生日だというある日、また日常がずれることになる




