真実 前編(side エルディア)
今よりずっと小さいころから、父さんには聖女様のすばらしさを教えてもらっていた。ことあるごとに言うのだ。「聖女様がいらっしゃったときはよかった」と。「昔、父さんは聖女様の護衛をしてたんだ」って、誇らしそうに。でもその度に言っていた。聖女様がいらっしゃらなくてもこの国が続いているのは王のおかげだと。だからお前は王に感謝せよと。常に王に対して絶対の中心を誓う父さんはかっこよくて、僕のあこがれだった。そして僕もゆくゆくはセドリックの一番の側近になりたいと思っていた。
母さんからは父さんと初めて出会った時のことを話してくれた。母さんは昔みんなから嫌われていたそうだ。石も投げられたことがあるらしい。なんでって聞いたら、私は闇属性だからだと答えていた。そしてある日、いつものようにみんなから殴られて蹴られていた時に、父さんが通りかかったそうだ。そして助けてもらったんだって。闇属性だからって絶対にさげすんだりしない、大切にするって言われたそう。闇属性ってだけで石を投げられるなんて悲しいねって言ったら、「死ぬわけじゃないから。それにそのおかげで父さんに出会えた。前を向いていい、そして死にそうなときは逃げていいって教えてくれた」ってうれしそうに語っていた。
「あなたももし誰かにいじめられてもね、前を向きなさい。死ななきゃたいていは何とかなるもんよ。死んだ者は生き返ることはないから、死にそうなときは逃げなさい。…私は逃げることができなかったから」
「うんわかった」と言うと、母さんは「いいこね」と笑った。二人の仲が良くて僕もうれしくなった。
母さんが急に家に帰ってこなくなったのは、僕が5歳になったばかりのことだった。父さんは大丈夫だと言っていたが、僕は心配で仕方がなかった。あまり心配そうにしていない父さんを少し怪しく思って、こっそり父さんの後ろをついていった。父さんは休みの日によく視察で下町に行く。そのままついていこうとしたとき、急に変な香りに包まれて眠気に襲われた。
「ここ、は?」
「目が覚めたか。それじゃあ教えてもらおう。なんでヴェルイシ・ベドゥニアシュカを追っていた?」
「お前は誰だ!ここはどこだ!目的はなんだ!?」
「相手に名前を聞くときはまず自分からっての、知らねーの?」
「…僕の名前は、エルディアだ。お前は何者だ!」
「俺は革命軍協力派のサトローだ」
「革命軍!?貴様、すぐに衛兵を呼んで捕まえてやる!」
「まあまあ、そんなかっかすんなって。俺は別に今のところお前に危害を加える気はないが、いつその気が変わるかわかんないぜ?今のうちにさっさと質問に答えたほうが身のためだ…それで、何の目的があってヴェルイシの後をつけていたんだ?ヴェルイシとの関係も話せ」
「…僕の母さんが帰ってこないんだ。ヴェルイシは僕の父さんで、全然心配そうにしないから怪しいって思ったんだ。何か知らないか?」
「ヴェルイシの、子供?ああ、そういうことか。おまえは何も聞かされていないんだな。じゃあ教えてやるよ。お前の父さんのやろうとしていることと、お前の母さんの運命を」
「運命?」
「かつて、この国には聖女がいた」
「知ってる。とってもすごい人なんでしょ」
「すごい…ね。確かにそうだ。彼女のおかげでこの国は潤い、そして今乾き切ろうとしている」
「…?どういうこと?わかんない」
「君、何歳?」
「5歳だけど」
「じゃあ簡単に言うと、彼女がいた時は国が栄えていたけど、彼女がいなくなってその穴を埋めきれなかったってこと。そして、それを埋めるにはどうする?」
「残った僕たちが頑張る?」
「そう。今まではそうしてきた。でももっと手っ取り早い方法がある。それは、聖女を生き返らせること」
「でも、死んだ者は生き返ることはない!母さんが言ってた!」
「そうさ。生き返らない。生き返ったとしても所詮はまがい物だ。でも、お前の母さんはそれをわかっていても、父さんはそれがわかってなかったらしい」
「どういうこと?」
「この世には魔術がある。そのうちの一つに蘇生魔術、というものがあるが、これをこの国は禁止している。蘇生、つまり生き返らせたとき、周りの人間が死ぬそうだ。もしかするとこの国ごと滅びるかもしれない。そんな危ないことをお前の父さんを筆頭として奴らはしようとしている。誰かがそれを止めなきゃならない!」
「奴ら?」
「お前、本当に何にも知らないんだな。革命軍蘇生派だよ」
「そ、そんなわけない!それってつまり父さんが革命軍に味方しているということ!?この国をそんな危険にさらそうとしてるなんて、それに王を裏切っているというのか!」
「お前が何と言おうがこれが現実だ。それで、お前はどうするんだい?」
「え?」
「このままこの国が滅びるのを指をくわえて待っていていいのかい?止めたいなら俺らに協力しろ。ヴェルイシの子供であり、この国の王太子の側近、エルディア!」
「そ、それは…でも…」
「別にこの国に反逆しろって言ってるんじゃない。言ったろ?俺らは革命軍協力派」
「さっきから言ってる協力派とか蘇生派っていうのは?」
「革命軍にもいくつかグループがあってな。その二大巨頭が蘇生派と協力派。蘇生派は聖女の蘇生を目的とし、協力派はそれを止めて今の王を廃し、次の王政と協力してこの国を良くしようっていうやつ。まあはたから見ると同じ革命軍ではあるが」
「じゃ、じゃあ!僕が王に蘇生派のことをお伝えすれば…「甘ったれたことを言うな」
「今の王は確かに聖女がいなくなったこの国をうまく統治しようとしているが、それも時代の聖女が現れるまでの時間稼ぎに過ぎない。俺らは聖女がいなくてもまわる、いやいないことを当たり前とした国を作る。じゃないと今回はどうにかなっても次聖女がいなくなった時にこの国は終わる。というかそもそも、そんなことをしたらすぐにあのヴェルイシが今の計画をすぐに開始し、お前の母さんは死ぬぞ」
「え?」
「お前の母さんはいわばいけにえってやつだ。闇属性じゃないといけないが、そんな人間は希少だからな。…この計画を進めると、お前の母さんは磔にされ、火あぶりされ、灰になる。その灰が魔法陣に降りかかると、蘇生魔術が開始する。つまり、死ぬってことだ。まあ、革命軍であることがばれても処刑されるだろうがな。お前の場合は王太子を裏切ることにもなる」
そんな、じゃあいったいどうすればいいんだ?僕は、僕は…セドを裏切りたくない。あそこまでこの国を考えている人はいない。
『なあ、もしこの国が壊れるとしたらどうする?』
『…はあ?セドは時々よくわかんないことを言うな。この国が壊れるわけがないだろ?…うーん、みんなを連れて逃げる、とか?』
『俺は、そうなる場合、壊れる前に直す』
『おい、ずるだろそれ!』
『はは、そうかもな。でも、俺はこの国とともに生き、ここで死ぬ。そう決めている。だから壊れないようにしなきゃならない。俺は逃げない。エド、君はどうする?』
『しかたないなあ』
それは、僕とセドが初めて交わした約束。まだ僕をエド、あいつをセドと呼び合ってた頃の、ちょっと前の記憶。セドはもう忘れてしまったかもしれないけど、僕にとっては大切な思い出。
「わかった。僕…いや俺がこの国を直す!協力しよう。俺のことは…エドと呼んでくれ」
「その意気だ。歓迎しよう、エド」
こうして、俺はセドを裏切った。エドとして、この国を直すという約束を守るために。




