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ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅱ章 王城と洞窟
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私の騎士様

ふわりと風が巻き起こり、松明の火が消え、足元の木や藁がどこかに飛ばされていく。そのまま渦ができ、ヴェルイシにぶつかった。

「ぐわあああ!!」

そしてヴェルイシは壁に打ち付けられる。


私の目の前に誰かが現れた。少し明るい茶色の髪が見える。後ろ向きでその表情はわからないが、その目は黄色がかったような緑がかったような茶色なのだろう。記憶の姿よりずいぶんと背が高くなって体つきもがっしりとしているが、それでも誰かわかった。


「騎士、様…?」

来るっと振り返っていたずらっぽくその目が笑う。周りを見渡すと風の檻のようなもので囲まれていた。

「久しぶり、私のお姫様。さあ、逃げるよ、あまり時間は稼げそうにないからね」

「わたくしは…いけません」

「なぜ?」

「わたくしは罪を犯しました。絶対してはいけないことを。生きている価値のない。ここでその罪を雪がせてください。お願いします」


うーん、と少し考えた後、騎士様はにこっと笑う。

「だとしても、この儀式に協力することで雪ぐのは違うんじゃない?…知らないかもだけど、この儀式が失敗したら多くの人間を殺すことになる」

その言葉にはっとする。その通りだ。そもそもエルディアの母を助けるためにいけにえになるのに、それは叶わない。

「その罪で被害を受けたのはここにいる人間の誰かなの?」

「…いえ、違います」

「なら、意味はないんじゃない?」

その通りだ。私が償うべき相手は前世のセレーナ。なら、これで犠牲になっても意味はない。

「ほら、ひもが解けた。覚悟は決まった?…うん、いい目だ。俺の好きな、気高くて美しい、生きようとするルビーのような目だ。さあ、行こう!」

「待って、エルディアのお母さんは…」

「いいわ。ひもは解いてもらったし。闇属性は潜伏と殲滅が最も得意な魔法なのよ?あなたはまだ子供なのだからその騎士さんに助けてもらいなさい。私は自力で逃げられるわ」

「さあ俺の腕につかまって、セレーナ」


つかまると騎士様は私を抱き上げて飛び上がった。

「絶対に離すなよ!」

「わかってますわ!」

ふわりと浮き上がり、騎士様は空気の層をまとわせた。

「これで姿も声も聞こえなくなる。名付けて”透明マント”さ!機能的には声も聞こえないのだから”石ころぼうし”だけど…」

「とぅーめー?」

「いや、悪い…その、透明マントってことだ」

「わかりやすくていいですね!」

「…そうだな」


そのまま儀式の部屋から外に出る。部屋の人々はまだ展開されている風の檻に私たちがいると思っているらしく、攻撃を続けている。少しずつ風の威力が弱まっているように感じた。


「ここは陸上だし、外でもないからな。魔力を通さないとそんなに長くはもたない。あいつらの意識があっちに向いている間に逃げるぞ」

「騎士様はなぜここに?」

「実はあれからセレーナのことが気になってな。時折…護衛をしていたんだ。それで君がさらわれるのを見たから、追いかけたんだ。ほんとはパニックになった君に自分がいると伝えたかった。でもそれだとこの儀式を本当に止めることはできない。すまなかった。俺は君よりも影としての仕事を優先させてしまった」

「謝らないでください。騎士様は何も悪くないです。それに、儀式を止めたほうが止めないよりいいに決まってます」

「あ、そういえば口調を戻したほうがいいでしょうか?焦ってて思わず口調が荒くなっていました」

「いいえ、大丈夫です。むしろ…いえ、なんでもないです」

「?わかった。セレーナもため口でもいいからな」

むしろうれしい、だなんて何を言おうとしているの、私!今は緊急事態でにげているところなのに!ありえないわ!


ぐんぐんと上に上がっていくが、終わりが全然見えない。

「どこまで上がればいいのかしら?」

「あと少しのはずだ」

「みんな心配しているわよね」

「一応報告はしている、が、ここで一つ悲報だ。魔力がつきそうだ」

「え、本当?どこか隠れられる場所で休みましょう」

「あと少しだが…万全を期すなら休むべきか。そこの部屋に入ってみよう」


たくさんの書類はあるが特に人がいる気配はない。

「大丈夫そうだ。ここにしよう。念のためドアに施錠の魔法陣を書いて…と。ちなみに、魔法陣は魔力を一度込めるだけでいいので魔力はさほど減らない。この魔法陣は特に消費魔力量が少ないからな」

魔法陣とは、魔法適性以外の魔法を行使できるという優れものだ。魔力さえあればどんな適性を持つ人でも使える。基本的に魔法陣による魔法は魔術と呼んで、魔法と区別をつける。


「この回復薬を飲めば、15分もあれば全回復だ。結構かっ飛ばしてここまで来たから、全力で走ってもここまで来るのに30分はかかるだろう。風属性持ちなら話は違ってくるので、気を付けよう。このドアが開かれそうになったらすぐにでも隠れるぞ」

部屋を見渡すと、どうやらここは誰かの私室らしいことはわかった。


「少し雑談しようぜ。…セレーナは転生って信じるか?」

「え…」

ついさっきのエルディアの言葉を思い出す。

「信じ、ます」

「そうか…。じゃあ、”日本”って知ってるか?」

「なんですか?にっぽー?」

「そうか、知らないのか…。今から信じられないことを言ってもいいか?もちろん信じなくたっていい」

「いいですよ。それに信じます。あなたは私の騎士様ですから」

「ありがとう…」

そう言って騎士様はにかっと笑った。

「俺、前世の記憶があるんだ。それもこことは別の世界。そこで俺は生きて、そして死んだ」

「え…」

私とは別のパターンの転生者、ということ?

「この世界は…なんというか、前世の世界で物語のようなものになっていた」

「物語?」

「ああ。この世界で生きた記憶を持った人間が、その記憶を物語として書き起こしたような、そんなものがあったんだ。そしてその物語は読者の選択によって結末が変化する。だから、俺はこの世界の未来も、この世界の別の世界線も知っている。他の人が知りえないような情報も」

「そんな、ことが…」

「信じられないだろう?」

「…いえ、信じます。私も信じられないようなことを言ってもいいですか?」

「ああ、いいぞ」

「私も転生者です。でも、あなたとは少し違う。あなたは知っているかもしれませんが…私は前世、この世界の未来の聖女であるミライという人間でした。死んで、そして生まれ変わったら逆行して、そしてセレーナになっていました」

「なん、だって…?」


お互い、驚いたような表情で固まり、不意に笑いがこみあげてきた。

「ふふふっ…ふふふふ」

「はは、ははははっ!」


「つまりなんだ、君にとっての悪役令嬢に生まれ変わったということ?」

「ええ、そうね。でも、セレーナになって分かった。仕方ないことだったと」

「そうだな、俺もその気持ちはわかるよ。その物語では最初は主人公はミライなんだが、2周目ではセレーナになるんだ。…さて、なら話は早い。俺は、この事件の真相を知っている。この真相さえ証明できれば、エルディアを救うことができる。だから聞こう。セレーナはエルディアを助けたい?」


「ええ、もちろん」

確かにさらわれた瞬間は、人なんて信じれられないと思った。でも、エルディアにも何か事情がありそうだった。まだ、信じたい。そう思ってしまうのは、エルディアが裏切るなんて絶対おかしいってそう思えるほど、信頼していたからだ。


ねえ、セレーナ。私はまだ生きることにしたよ。そして誰かをまた信じようと思うよ。それが正しいかどうかなんてわからないけど、今は突き進むしかない。

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