儀式
「おい、起きろ」
ふとかけられた声に目を覚ます。久しぶりに硬い床の上で寝たからか、体中が痛かった。
「時間だ」
そういわれて腕にひもを巻き付けられる。これで引っ張られていくらしい。おとなしく従い、牢屋を出る。階段を上がっても上がっても、岩でできた壁が続く。どうやらここは洞窟らしい。
大きな部屋には人がたくさんいる。その真ん中に、大きい魔方陣が書かれていて、太くて長い棒が立っている。古い魔法陣だ。でも王妃教育のおかげで何をやりたいかは理解できた。死者蘇生だ。死者蘇生は禁忌の儀式だ。蘇生させたい人物の属性とは相反する属性を持つ人をいけにえとしてささげる。闇属性と相反するのは光属性。つまり、聖女や聖人だ。
そこまで考えてふと思い出す。そうだ。エルディアという人物は前世の記憶にはほとんどなかった、その理由を。エルディアは私が魔法学園に入学した夏、処刑されたのだ。罪状は国家転覆と肉親の殺害。曰く、革命軍に属していたらしい。そして革命軍の目的は前聖女の蘇生。
前聖女が亡くなってから17年が経過しても新たな聖女は現れなかった。結果、農作物が以前より育ちにくくなった。正確には本来の生育状況に戻った。我が国ペルシナは実に200年もの間聖女がいない期間がなかった。結果、本来よりバフがかかった状態が200年続き、それがいつしか当たり前となっていった。結果の農地は減っていったが、それでも全国民を養うには十二分だった。そして聖女がいなくなったら当然のように状況は一変する。農作物は通常通りに戻ったが、そんな簡単には農地は増やせない。17年も経てば大不況だ。ちなみに、ミライの農村地帯だけは以前と変わらぬ生産量、むしろ大盛況だったらしいので、あまり私自身には不況の実感がない。
とはいえ、ほかの国民には死活問題だ。17年たってやっと光属性の人間が現れたが、あいてはまだ12の少女。一瞬で国を以前通りに戻せるほどの期待はできない。結果、革命軍が活発に活動をしていた。とはいえ、死者蘇生を完璧に行うのは非常に難しく、自我がないゾンビ状態で暴れたり、行った場所の近くにいる人間が大勢死んだりなど、失敗例は歴史に多く残っている。そうして禁忌の術としてこの国では禁止されている。
エルディアも革命軍に所属し、城やセドリックの情報を流すことで協力をしていた。しかし、儀式は失敗に終わる。革命軍は崩壊し、その際になぜか無関係の自分の父を刺し殺す。最後、裁判所でエルディアは何も言い訳をせず、その動機も言わなかった。おそらく父のせいで儀式が失敗したからだろうといわれていた。ちなみにこのとき、セレーナは最後までエルディアをかばい続けていたそうだ。あまりにもかばおうとするのでセレーナにも革命軍に所属していたのではないかという容疑がかけられそうになるほど。
この話に関してはセドリックから聞いただけだったが、セドリックはこの件でエルディアに、そしてセレーナにも裏切られたと感じ絶望をしていた。私しか信じられないとよく言っていた。
そう考えるとどこか違和感がある。エルディアは母を助けようと動いていたのなら儀式が失敗して嬉しいはずだ。なのになぜ父を殺した?
そこまで思い出して、ため息をつく。こんなことを思い出してたって何にもならないのに。私はこれから死ぬのだから。
そのまま魔法陣の真ん中に立つと、私は棒に括り付けられる。ふと前を向くとエルディアが立っていた。そしてその後ろにはエルディアの父であり、王の側近のヴェルイシが立っている。エルディアの父も革命軍に属していたのか。となると王も王太子も側近に裏切られていた、ということか。
「セレーナ、ごめん。死んでくれ。母さんのために」
「いや、母さんも死ぬぞ?」
ヴェルイシが突然そんなことを言い始める。思ってもみなかった言葉に驚くが、エルディアも理解できないといった表情を浮かべる。
「な、なにを言っているんだ?セレーナを連れてきたから母さんは助かるはずだろ!」
「聖女様を蘇生申し上げるんだ。むしろ母さんでは足りないのではないかと心配していた。お前のおかげで聖女様の蘇生の成功確率は上がった!」
「なに、を…」
すると向こうから一人の女性が連れてこられる。おそらくエルディアの母なのだろう。
「母さん!やだ、なんで!」
「ごめんね、エルディア。あなたの成長を見届けたかったけれど無理そう。…ヴェルイシ、あなたのことは絶対に許さない。あの世で呪ってやるわ」
「すまない、だが、これは王のため、この国のためなのだ」
「嘘つき!すべてあなたのためなのでしょう?この狂信者!エルディア、あなたは幸せになりなさい。祈っているわ…あなたがセレーナ様?」
「ええ、そうですわ」
「ごめんだなんて言ったって意味ないわね。あの世でお茶でも楽しみましょう。私は疲れてしまったわ。もう何か月も閉じ込められて。これでやっと終わるのね」
足元に何個も木や藁が置かれる。どうやら燃やされるらしい。くしくもこの国の処刑方法である火あぶりと同じだった。火あぶりは苦しいらしいが、どれくらい苦しいのだろうか。エルディアが何かを叫んでいるが、もうどうでもよかった。
ああ、最悪な人生だったよ。ねえ、セレーナ。あなたも同じような光景を見ていたの?いや、もっと悪いか。世界で最も愛しい人間と、世界で最も憎い人間に見られながらだものね。
松明が近づく。
途中で服はすべて着替えさせられたが、頼み込んであの宝石だけは首にかけてもらった。その重みを感じながら、思う。
子の宝石の石言葉通りの力は、持てなかったなあ。
その瞬間、ふわりと風がして、松明の火が消えた。




