表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅱ章 王城と洞窟
12/17

不穏

それから毎日、今までの日常が嘘のように穏やかでのどかな日々が続いた。様々な分野の勉強や教養を叩き込まれたが、前世が王妃であった私にとってそんなのはお茶の子さいさいだ。そして毎日一度はセドリック殿下とお茶会をする。殿下はいつまでも優しかった。他愛ない話をして、笑いあって、時にまじめな話をして。三年間に凝り固まった価値観を少しずつほどいていくように。でも、セドリックを愛さないように自分から一線は守って。最初は少し大人ぶっている様子だったセドリックも少しずつ子供らしい面も見せてくれるようになっていた。


「そういえば、」

五歳のある日のお茶会でふと思い出したかのようにセドリックは切り出した。

「君と僕が初めて会った時、君に話したことを覚えているかい?」

「ええ、もちろんです殿下…この国を支え、守り、育てる、その覚悟があるか、ですわよね?」

「その答えを聞きたい。君がここに来た時、まだいろいろごたごたしていて聞けなかったからね。改めて聞かせてもらってもいいかな?」

「…ええ、そうですわね。いい機会ですから、ここで宣言をさせていただきますわ。わたくし、セレーナ・イチアナは、この国を愛し、守り、支え、育てることに全力を尽くすことを誓います。そして、」

ぎゅっとネックレスを握り、伏せていた目を開けて、まっすぐとセドリック殿下を見る。

「もしもこの国にとって最善の方が現れたら、わたくしはこの席をいつでも明け渡します」

大きくセドリックの目が開かれるのを感じた。そのまま目を瞬かせて口を開いた。

「それは…婚約を解消をするということ?」

「そうですわ」

「君はっ…君は…俺との婚約がそんなに嫌だったのか?」

「いいえ、そうではございません」

「だったら!…だったら、お願いだからそんな風に言わないでくれ。頼むよ。君は俺の婚約者だ。俺には…もう君しか…」

「殿下?」

はっとしたように私のほうを見てうなだれる。

「…すまない。王妃としての覚悟を聞いたのは僕のほうだったのに。王妃としての覚悟は、別にそういう意味ではないんだ。この国にとって最善を考えることは確かに王妃の役目だが、君はすでに十分な資格を有している。さらに国にとっていいことを求めて、その過程で君を傷つけてしまうのなら、僕はそれを選ぶことはないだろう」

そしてまたまっすぐ私を見て言った。

「なぜなら、君もまた僕が守るべき国民の一人だからだ。たしかに王や王妃は法律上国民ではない。だからといって君が王妃になった後も、君を傷つける気はないけどね。…じゃあ、この件はこれでおしまいにしよう!お菓子を食べよう。今日はシフォンケーキだよ!最近は風邪が流行っているらしいからちゃんと食べて元気に過ごさなきゃね」

その後はいつもと同じように和やかにお茶会をして終わった。


彼を、傷つけてしまったのだろうか。それでも私はこの決意を取りやめる気はない。それに…。

「前世のセレーナはそれでも捨てられたもの。信じることはできないわね」

「お嬢様?」

「…なんでもないわ。あら?」

向こうからエルディアが少し焦ったようにかけてくるのが見える。今日、レドとルウは風邪でおらず、イエレアのみで、護衛に不安があるので足早に部屋へ帰るところだった。とはいえ、城の中なので追加の護衛は断ったが。

「セレーナお嬢様、ご無沙汰しております。…イエレアを少し借りてもいいでしょうか?メイド長から呼ばれているぞ、イエレア。一体今度は何をしたんだ?」

「え~!もしかして裏庭に掘った落とし穴がばれた?すぐに埋めたはずなんだけど…。それとも皿をフリスビーみたいに投げて落としたことかなあ。でも、あの時は傷がついただけだし、安いやつ使ったし…」

「なんでもいい、さっさといけ。目を三角にして怒っているぞ?」

「ちょっとまって、エルディア。今日はレドもルウもいないのよ。さすがに一人はわたくしも不安だわ」

「ご安心ください。わたくしエルディアがお嬢様を部屋まで送り届けます」

「それなら安心ね」

彼は何かあったら頼れとセドリックから言われるほど皆から信頼されている従者だ。おそらく大丈夫だろう。


「先ほどのセドリック殿下との王妃の覚悟についての話、セレーナ様はそんなに不安になる必要はないと思いますけどね」

「そう?人というのは嘘を平然とつくのよ。それに感情の変化というのは誰にも制御ができない、もちろん自分でもね」

「…」

それにしても、と思う。

「ねえ、エルディア。部屋はこっちではないわよね?どこへ向かっているの?そもそもあなたは先ほどのお茶会にはいなかったどころか、まわりには誰も近づけていなかったはずよ。…どうして会話の内容を知っているの?」

「…」

なぜ何も話さない?焦りがこみあげて部屋のほうへ逃げる体制を整えようとする。

「エル、ディア?聞いてい_」

その瞬間、誰もいないはずの後ろから口に何か白い布を当てられ、急速に意識を失った。まずい、と思う暇もなく、私はそのまま崩れ落ちた。最後に見えたのは無表情のエルディアの顔と、黒い服をきてフードをかぶった複数人の姿。


ねえ、セレーナ?やっぱり人というのは噓ばっかりなのね。あなたは裏切られたときどう感じたの?生きてたら考えてみたいわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ