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ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅱ章 王城と洞窟
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平穏

「ようこそ、セレーナ嬢」

「ありがとう存じます、セドリック殿下」

にこっと笑ってセドリックのほうを見る。前世と変わらないその優しげな眼もとを、つい懐かしく思って見つめてしまう。でも今の気持ちに恋情はない。ただ、この国を共に守り育て支えるビジネスパートナーとして彼を見ることができる自分に少しほっとした。


いくら決意はしたとしても、感情というのは制御するのが難しい。もし今まで孤独だったら、あの決意もすぐに揺らいでいたかもしれない。やっと得られるその愛を信じたくなってしまっただろうから。それもこれも騎士様のおかげだ。あの人がいなかったら、私は自分を愛される資格のある人間だと思えた。きゅっと服の中に入れた宝石を握る。それだけで自分は無敵であるようにさえ思えた。


「失礼します」

そういって与えられた部屋に女性が2人、男性が1人、そしてセドリックの従者エルディアが入ってきた。

エルディアは誕生日パーティのときに祝いの言葉を言っていて、セドリックの乳兄弟らしいが、王妃のころの記憶に彼のものはない。確か学生時代に聞いたことがあったような気もするが…。

「今日からセレーナ様に仕えさせていただく従者を紹介いたします。もし足りない、気に入らない、使えない、などがございましたらいつでも交代、追加させますのでいつでもわたくしエルディアにおっしゃってください。…右から、護衛を主に務めますレド。次にメイドと護衛を兼任するイエレア、メイドのルウです」

「レドといいます。お嬢様を危険から絶対にお守りいたします。よろしくおねがいします」

「イエレアでーす!まだ子供ですが戦闘にはじしんがあります!レドが取り逃がした敵は私が絶対に排除いたします!メイドとしての仕事はあまり得意ではないですが、頑張ります!!」

「ルウです。お嬢様の身の回りの世話は主に私にお任せくださいませ。完璧にこなせるようにはげませていただきます」

「セレーナです。みなさん、よろしくね」


…よかった。3人とも王妃時代の側近だ。王妃の時はもう少し人数がいたが、この3人は特に優秀だった。この3人なら人数が少なくても生活に困ることはないだろう。


レドは体が筋肉質の20歳。私でさえも片手で軽々と持てる素晴らしい筋肉の持ち主だ。王妃時代はよく腕につかまってひょいと持ち上げさせてもらっていた。セドリックはそれを見ると目を三角にして怒るのでよく逃げたものだ。

イエレアはいつでも裾の下や靴の中に暗器を忍ばせている武闘派なメイドだ。レドよりも身軽で木登りが得意な元気いっぱいな5歳で、私と年が近いのでよく一緒に遊んでいた。普通の令嬢とは異なり活動的なので気が合った。

ルウは15歳。メイドとしての仕事は完璧だ。一人で何でもできるスーパー超人で、みんなをよくまとめていた。前世、彼女はレドに恋していたが、年齢を気にして何も言い出せそうになかったので、私とイエレア、そのほか王妃付きのメイド全員で背中を押した。結果レドと結婚!3人の子供を授かり、その子たちは私の子供に仕えてくれた。


あれ?そういえば、私の子供たちは…。


「セレーナ様?」

「いえ、なんでもないわ。さて、せっかくだから4人でお茶にしましょう。普通は従者と一緒にお茶はしないと思うけれど、わたくしは定期的にしようと思っているのでよろしくね」

「「「かしこまりました」」」


久しぶりに誰かと飲んだお茶はおいしかった。


「さて、そろそろお風呂にいたしますか?」

「…わたくし、一人で入れるわ」

「そういわずに!イエレアもお手伝いしますから!いきましょうよ~」

「でも、わたくし…その、」

「大丈夫です!お嬢様の家のことは聞いてます。勝手に知ってしまい申し訳ございません。でも、…傷とか怪我があっても気にしません!お嬢様はゆっくりなさってください」

「…わかったわ」


「これは…」

服を脱ぐと、服で隠れていたあざや傷、怪我が露わになる。恥ずかしい。こんなの、きっとメイドたちも引いてしまうに違いな…

「くっそー!イチアナ家のメイド長め!お嬢様、ご安心くださいませ。このイエレア、やつを始末してまいります!」

「えっ」

思ってもなかった言葉に私は目を瞬かせながらイエレアのほうを見る。

「いけません、イエレア。…やつにはこの世で生きるということがいやになるほどぎったぎったに苦しめたほうがいい」

「ルウ!?」

止めてくれると思ったいつも冷静なルウの言葉に思わずルウのほうも見る。

「だ、大丈夫よ、二人とも」

「でもお嬢様!やつを許してはおけません!イエレアがぼっこぼっこにしてパンにでもしてやります!」

「そうです、お嬢様。3歳の幼子にすることではないし、そもそも誰に対してもやってはいけないことなのです!許せません。引き延ばしてピザにしてやりましょう」


「ふふっ」

「お嬢様?」

「あはははっ!もう、なによ、それ!人間はパンにもピザにもできないわよ、誰が食べるの?ふふふっ…ああ、おもしろい」

思わず笑ってしまった。腹を抱えて笑うなんて前世ぶりだ。すると二人は安心したように私のことを見た。

「やっと笑ってくださいましたね」

「え?」

「だってお嬢様、ずーっとかたい顔してましたから。もっとぐにぐに柔らかくしたほうがいいですよ!」

「も~、わたくしもパンになってしまうわよ、そんなの!…でも、ありがとう」


ああ、楽しいなあ。

ねえ、セレーナ。あなたが初めて笑えたのはいつ?私は今日やっと笑えたよ。

こうして新生活は始まった。

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