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ヒロインから悪役へ  作者: ゆき
第Ⅰ章 薄暗い塔
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気高く美しいお姫様 後編(sideアレン)

誕生日パーティが終わって数時間後、一人の幼児と二人のメイドが部屋に入ってきた。

幼児の髪は、そこに吸い込まれるようなほど気品のある宵闇色の黒で、目はルビーのように光り輝いていた。


…なんて美しいんだろう。


本気でそう思った。まだ三歳なのに気高ささえ感じる。思わずその姿に見入ってしまったが、その後の行動に目を見張った。布切れを体にかけて寝始めたのだ。


あれが布団のつもりなのか?


それはあまりにも…いや、もともと知っていたことだ。確かにゲーム画面ではそうだったし、この部屋に入ったときに布団として認識もしていた。でもそれでも、下手な平民でさへ藁で厚みを出しているというのに、公爵令嬢というこの国で王家の次に贅沢が許された存在が、ほぼむき出しの床に寝ていいはずがない。


少し寒そうにしているその姿をじっと見ることしかできない自分に腹が立った。俺はセレーナから視線を外して父さんを見る。父さんは何も言わずに俺とセレーナを見ている。俺のことを審査しているように見えた。


なら、思う存分やらしてもらおう。


暖かい風でセレーナを覆う。セレーナの表情が少し緩んだように見えた。そのまま朝を迎えたが、朝食もひどいものだった。少なすぎる。セレーナも無気力にただぼーっとしているだけで、不満を何一つ言わない。ゲームを知っている身としてはそれが正しい行動だとわかるが、子供がとる行動としてはあまりにも不自然だった。


そして夕方、そいつはやってきた。あっという間にセレーナを蹴り飛ばす。俺はとっさにセレーナを風で覆って衝撃を和らげた。あんなにキラキラと輝いていたはずの瞳は見る影もない。


「おい、呪い子、昨日はおいしいものたんまりたべたらしいじゃない?なあに?私たちが丹精込めてお客様や旦那様と奥様に食べていただくために作った料理をばくばくと食って!はしたないったらない!どうせろくな教育も受けていないような野生児のくせに!私はあんたのためにあちこち走り回ってやったというのに感謝の一つもないの!?」

「あり…が」

「しゃべるんじゃない!」


なんだあいつ。ご飯をいっぱい食べるのは子供なら普通だし、メイドは雇われている家のために働くのが普通だ。それに感謝を要求したくせにしゃべろうとすると踏みつける。あれが人間のすることか?俺としてはあれと同じ種族だと名乗りたくはない。いや、人間じゃないか、ただのゴミか。よし、これからはゴミと呼ぼう。そうしよう。


「お前みたいな闇属性の呪い子は話すだけでのろいをふりまくんだよ!バカなんだから何度言ってもりかいできないんだね!!この愚図!」


何度か足蹴りにしたのち、出ていく。セレーナはうずくまったまま。動かない。今すぐ声をかけたい。大丈夫かと問いたい。でもそれはだめだと自分でもわかっていた。俺にできることは痛みを和らげるために少し冷たい風で蹴られ殴られしたところを冷やすことだけだ。やがてセレーナは顔を上げた。その目はまっすぐだった。今の状況を受け入れていても、それでも生きようとしている目だった。


そもそもなんだ、闇属性?それがなんだというんだ!時代錯誤にもほどがある!呪いなんてそんな非科学的なものが、幼子に暴力をふるう根拠になりえるはずがない。


その後、調査書をもってセドリックのもとへ直談判に行った。俺にセレーナを守らせてほしいと。セレーナの心の支えにさせてほしいと。セドリックも同じ気持ちで、調査書を受け取ってすぐに王と王妃に面会を申し込み、婚約をさせてもらうことに決めたそうだ。曰く、婚約者は王妃教育のために城に引き取ることもできるらしい。


俺はセドリックから直接守っていいとの許可を受けて、それからセレーナの護衛の任務に就いた。もちろんほかの人にはばれないように、だ。セレーナが俺の存在に気づいてからは、セレーナからの質問に俺が魔法で答えるようになった。セレーナの表情はどんどん明るくなり、瞳も明るく輝くことが増えた。俺のことを騎士様なんてよんでくれて。父さんはずっと何も言わずに見守ってくれている。そして、あれから何か月も経ち、とうとうセレーナとセドリックが婚約できることになった。


うれしい、はずだ。ああ、そうだ。やっとセレーナはあの塔から出ることができ、自由に生きられるようになる。そしてセドリックに恋に落ち、聖女を恨み、殺される。背筋がぞわりとする。殺される?なんで?ゲームだから?いや、そんなはずない!だって、セレーナは何も悪くないじゃないか。そもそもゲームでは…ゲームでは?そうだ、確か、セレーナ視点のゲームで最も最善の選択肢を選び続けた時、3歳のうちにセドリックと婚約をするんじゃなかったか?この世界での今現在のルートと同じじゃないか!じゃあなんだ、どこかで選択を間違えたらダイジェストでセレーナは処刑されるのか?まだその可能性が高いというのか?


『セレーナを連れ出して一緒に逃げる?』


ふと頭に浮かんできた考えを振り払う。それは、だめだ。現実的じゃないし、命を預けてもらえるほど親しくなったとは思えない。


『聖女を今のうちに殺せばいいじゃないか?』


いいわけない!じゃあ、どうする?そもそもそこまで考える義理があるのか?いや、ある。ただの罪滅ぼしに過ぎないかもしれないが…。ずっとゲームの世界だと思って軽く考えていた。命を軽く見ていいはずがないのに。まだ三歳の子供に背負わすにはあまりに重い運命。なら、俺にできることは。


ふと、宝石店が目に留まる。少し明るい店の中にいくつかのアクセサリーが並んでいる。アクセサリーに使われている宝石の石言葉がそれぞれの隣に書いてあった。その一つに、目が留まる。まるで俺の目のような宝石だ。何の気なしにその石言葉を読む。

シンハライト:『自分らしく生きる力』『勇気』

ああ、ぴったりだ、と思った。当然渡せるはずがない。それにこの世界では異性に自分の瞳の色の宝石を渡すことは求婚に値する。でも、それでもいいと思った。まだ三歳の彼女には理解できないかもしれないが。いくら蹴られても、叩かれても、それでも彼女はいつだって折れてなかった。泣き言ひとつ言わずに、ただ耐えていた。それを痛ましいとも思ったが、同時に美しいと思った。まだ三歳なのに、芯を持っていると思った。あの生きようとするルビーの目に魅了されたのだ。その淡い気持ちを見ないようにしながら、そのネックレスを箱に入れてもらう。これは記念に持っておこう。


そしてセレーナが城へ行くまであと数時間というとき。ふとセレーナがつぶやいた。

「絶対に、愛さない。好きにならない。わたくしは、この国の王妃として、この国の一番の利益を考える」

驚いてしまった。思わず体にまとった風を揺らしてしまう。はっとしたようにセレーナは顔を上げてあたりを見渡す。

「騎士様?いらっしゃるの?…おいでになって。ここには誰もいません。一度でいいから会いたいの。騎士様、わたくし、婚約します。婚約したらこのように放置されることもなくなるでしょう。王家の方々がわたくしを嫌っていようが守ってくれようが、どちらにしても誰かが監視につくことになるでしょう。この鍵は閉まっていて誰かが入るとき音がします。その瞬間に姿を消すことができるでしょう?」


俺はぱっと父さんを見る。仕方なさそうにため息をつき、俺に行けと合図する。

「ありがとう」

そういってセレーナは振り向く。窓に背を向けて、外の光を浴びている彼女はまるでスポットライトが当たっているようで、本当にきれいだった。


そして愛さないと宣言をしたその理由を聞く。その答えは驚くべきものだった。曰く、聖女が現れる、と。それは正しい。間違いない。でもそれは未来を知る俺だからわかることだ。それをなぜ、セレーナが?疑問に思ったが、セレーナが自分を愛されない存在だといい始めたためその思考をすぐに打ち切って否定をする。


「わたくしは、闇属性です。だから、愛されない。それに、この髪に目。まるで悪魔みたい」


そんなわけがない!あなたは、誰よりも、ほかのどんな人よりも!


「あなたは、私が見てきた令嬢の中で最も美しく、かわいらしいですよ。宵闇のように吸い込まれそうな髪にルビーのようにきらめく瞳。どちらの色も気高くて美しい。そんなあなたに、こちらを」


思わずしまっておいた箱を取り出す。渡すつもりはなかった、その石を渡す。

「シンハライト、といいます。意味は、『自分らしく生きる力』『勇気』。新しい門出に立つあなたに」

「これを、わたくしに?」

「はい。これからあなたはやっと自分らしく生きることができるでしょう。それでも勇気が出ないときは自分を信じて突き進んでください。あなたの未来に祝福を」


どうか、あなたが自分らしく生きられますように。あなたの未来に祝福を。

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