伊予の物語「修築の柵(しゅうちくのしがらみ)」 その3~伊予、修復予定のため池を訪れる~
私の知識では大内裏の『蔵人所』に属す『鷹飼』が、飼い馴らした鷹を野に放って雉や兎を捕らえさせ、帝に貢上する贄のための猟を行う。
私的に鷹を飼う事や、自由に鷹狩することは確か禁じられてたような気がするけど・・・・?
誰かに許可を得れば大丈夫なの??
そんな風にして忠平さまが先導してくれて馬をすすめ、桂川を渡ってさらに南西に進むと、緩やかな上り坂が続き、小さな竹林を抜けると、大きなため池があった。
ため池の周囲には木が取り囲むように植えられてて、そこで馬を降り、土手の斜面をのぼり、上に立ち、ため池の全貌を眺める。
楕円形の池の直径は長いほうで三十間(約54m)ぐらいありそうな、かなり大きいため池!!
忠平さまが腕を上げてウ~~~ン!と背伸びをしながら
「ここが堤修復工事の解(*作者注1)にあった『xx池』のはずだが・・・・・」
え??
忠平さまって公文書を見られる立場なの??!!
それとも上皇→右大臣さま経由でそのへんはガバガバなの??!!
ため池をザッと見渡して、忠平さまが続ける。
「雑徭(*作者注2)の人員もいないし、運び込んだ土や道具などの作業してる形跡すらないな。」
ん?
確かに、土手の上には人っ子一人いない。
ため池に目をやると、色々な種類の鴨がそれぞれの集団を作ってプカプカ浮いてた。
のどかだな~~~~!
と思いつつぼぉっとしてると、冷たい風が吹き始め、あたりが暗くなり、空に黒い雲がムクムクと広がりだした。
忠平さまが眉をひそめ怪訝な表情で
「修復工事がまだ始まっていないのか?
よし!
じゃどこが損壊しているのかを我々で調べてみよう。」
と土手を歩きだし、ため池を一周することになった。
私の知識では、ため池の土手や堤を築く工事は、土を運んできて均一に敷き均して足や道具で踏み固めるのを繰り返し、盛りあげてなだらかな傾斜にするというもの。
土手の外側は草が生えてるけれど、今、雨が少ないせいか、池の水量はかなり少なく、内側は底の方まで土のなだらかな斜面がむき出しになっている。
なだらかだから池に落ちたとしてもすぐに上がってこれそう??!!
と思いながら、忠平さまと竹丸の後ろについて歩いてると、忠平さまが立ち止まり
「ここが池の水をせき止めてる『堤』だ。
そしてあれが木栓だ」
と指さすと、池の底の方に『巾』の形の木の棒が水の中にささってるように見えるものがあった。
忠平さまが続ける
「あの真ん中の棒を上に引き抜くと、栓をしてた穴から木樋(細長い木でできた管)に水が入り堤の外側から水が出て、用水路に流れ出し、田畑を潤すという仕組みだ。」
「へぇ~~~~!」
と感心しながら、堤の外側を見ると、出口は草に埋もれて見えないけど小さい川が続いてるように見える。
忠平さまは足元を見ながら行ったり来たりして歩き回り
「木樋は堤の中を通っているから、漏水すれば周囲の土に染み込み、緩くなってそこから崩れる。
樋が破損すれば堤が陥没し、泥の混じった水が出たり、土で閉塞すれば水が出ない。
堤にひび割れや陥没があれば決壊する可能性がある・・・・が、そんなところは見当たらないが。
どういうことだろう?
このため池は損壊してない・・・ということは、別のため池と間違えたのか?」
腕を組んで顎に指を添え考え込んだ。
その間、私と竹丸は自由時間!を楽しむべく、各々、土手をウロウロしはじめた。
竹丸は両手を後ろで組み、歩きながら、諦観した老人のようにワザと物憂げな様子で
「堤・・・・とは水の流れをせき止めるもの。
これがいわゆる柵ってやつです!
自然な感情の流れをせき止める、と言えば人間関係もいろいろな柵に邪魔されて上手くいかないことが多いですよね~~~~。
例えば廉子さまの弟のために若殿が身銭を切るとか、親戚関係や上司の機嫌取りとか、生きていくうえで、ど~~~~しても!無視できないものって、ありますよねぇ。」
と呟き、目をつぶって大仰に首を横に振る。
はぁっ??!!
何が言いたいのっ??!!
私に聞かせてどうしようって言うの??!!
兄さまにとって私は『足を引っ張る柵だ!』とでも言いたいのっ??!!
被害妄想?で勝手に不機嫌になり、フンッ!と鼻であしらいながら、ひとりで遠くまで歩きだす。
しばらく歩くと、池の中に鴛の夫婦を見つけた私はテンションが上がり
「わっ!鴛っ!!浮気者の夫は派手で綺麗な羽の色っ!!」
雄の鴛のあざやかな緑やさまざまな茶色や白のクッキリとキレイに複雑な形に塗分けられた模様に見とれ、もっと近づいて見たいっ!!と思った。
他の鴨と見分けがつかないほど地味すぎる雌は黙って雄の後ろを泳いでる。
私が池の斜面をしゃがみながら慎重に降り、水面までと近づくと、
『これ以上近づくなっ!!我慢の限界っ!!』
って感じで、鴛の夫婦は慌てて速度を上げて泳ぎ去った。
ぁあ~あ~~~~~。
とガッカリしてると、堤防の上から鋭い叫び声で
「伊予っ!!それ以上動くなっ!!」
ビクッ!
と全身が震え、素早く立ち上がろうとすると、ズルッ!!と足が滑り尻餅をついた。
ヤバッ!
(その4へつづく)
(*作者注1:律令制において下級の官司(被管)より上級の官司(所管)にあてて提出される公文書のこと。)
(*作者注2:地方において国司が徴発・編成し、治水灌漑工事をはじめとする各種インフラ整備や国衙等の修築などをさせた。)




