伊予の物語「修築の柵(しゅうちくのしがらみ)」 その2~伊予、やっと乗馬を習う~
すぐに返事が来て
『ため池の堤防修復工事について知りたいことがあるって?
奇遇だな!
一週間後に京の郊外にあるため池の堤防修復工事を視察に行くから、ついてくるなら教えてやってもいい。
ただし、馬に一人で乗れれば、の話だけど。
忠平』
はぁっ??!!
馬にひとりで乗るのっ??!!
そっか、都近郊といっても馬で移動しなくちゃいけない距離なのね?!
そっか~~~~。
ま、前々からいつかはこんな日が来る気はしたけどっ!?
そうだっ!
乗馬の練習をさせてほしいと頼める人に心当たりは一人しかいないので、また文を書くと
『騎馬?一週間後までにひとりで馬に乗りたい!ですって?
はぁ?!そんなに簡単じゃありませんっ!
あんまり舐めないでくださいっっ!!
といっても何か事情があるんでしょ?
じゃ、ま、しょうがないですね~~~~。
明日から毎日、練習すれば何とかなるかもしれません!
左大臣邸の近くにある左大臣家の厩舎兼馬場で練習しましょう。
あすxx刻に左大臣邸に来てください。
みっちりしごくので覚悟してくださいよっっ!!
竹丸』
というわけで、その日から毎日、内裏から左大臣家の馬場に通った。
竹丸が言葉通りみっちり指導してくれて、練習の最終日には、やっと馬の気持ちが何となくわかるようになり、思い通りに動いてくれるまでになった。
竹丸の
「馬と早く仲良くなるには、心を込めてお世話するといいですよ!」
という助言を受けて、餌やりはもちろん厩舎の掃除や寝藁・飼い葉運びまでしたけど、もしかしてうまく言いくるめられて、こき使われただけ?の可能性もある。
竹丸には最初から『忠平さまと都郊外のため池へ視察に行く』と伝えてあるから、時平さまにも伝わってるはず。
何の音沙汰もないのは『信頼されてるから?』それとも『呆れられてるから?』
ともあれ、ひとりで馬に乗れるという条件を何とかギリギリ及第し、これで明日は忠平さまと出かけるだけ!の状態になった最終日の夕暮れ、内裏への帰り道を竹丸と二人でトボトボ歩いてると、急に不安になって思わず
「ねぇっ!
竹丸も一緒に行ってくれない?
もし忠平さまが従者を連れてなくて、二人きりだったりしたら、兄さまが勘違いするかもしれないっ!」
手を合わせて、必死で頼み込む。
竹丸は細い目をますます細め、端を吊り上げ、ぷっくりとした頬ごしに不機嫌そうに口を尖らせた
「えぇ~~~~~っっ??!!!
嫌ですよぉ~~~~~!
めんどくさいったらありゃしないっっ!!」
私も必死で食い下がる。
「ねっ!お願いっ!!そうだっ!!蜜柑をあげるっ!!
忠平さまから今年も、もらったのを箱ごとあげるからっ!!」
竹丸はパチっ!と細い目を見開き、しばらくジッと固まり胸算用したらしく
「それって二十個以上はありますよね?
四郎さまが見繕った蜜柑はたしか・・・めちゃくちゃ甘かったアレですよね?
う~~~~ん。
そうですねぇ・・・・。
仕方がないっ!!
姫だけではまだ不安ですので、この私がついていってあげましょうっ!」
と胸を叩くけど、どうみても食べ物につられたのに、さも私を心配してるような口ぶり!!
翌日、まだ夜明け前、竹丸と連れだって、左大臣家から借りた愛馬?の『わらび』に乗って待ち合わせ場所に、私はさっそうと現れた。
忠平さまとの待ち合わせ場所は大内裏の朱雀門前。
私は水干・括り袴に、男性従者を装うために髷を結い萎烏帽子を身に着けた。
足元は草履に、一応、脛巾を脛に巻き付け、巾着を背負って旅支度してみた。
竹丸もほぼ同じ恰好。
私や竹丸より背の高い馬にまたがり、軽々と速足で目の前に現れた忠平さまが、私を見て目を丸くして
「すっかり見違えたな!
どうみても立派な少年従者だ!
騎馬姿も様になってるし、短期間によく頑張ったな!」
感心したように目を細めてニッコリと微笑む。
忠平さまは紅梅の単に、丸い結晶のような『六華唐花』の紋様が入った白い狩衣を重ね、指貫に立烏帽子姿で、今にも鷹狩に出かけそうなパリッ!とした上流貴族そのもの!の装い。
知的な雰囲気は時平さまと似てるのに、日に焼けた浅黒い肌はそこに精悍さと野性味を増し、旅や野遊びといった野外活動での頼もしさは、残念ながら兄さまを上回るかも?!
その上、若くして老成してる兄さまと違って、少年らしい溌剌さや冒険心?を残してるので、竹丸と並んで馬を歩かせながら鷹狩について熱弁し、
『鷹が素早く舞い降り、獲物をその鋭い爪にかけたとき、いかに興奮するか』
とか
『空中で鳩を捕まえた時の鷹の飛翔能力のすばらしさ』
とかを力説するたびに、竹丸は
『はぁ。そうですかねぇ?・・・・兎が可愛そうです!』
とか
『鳩は空を飛べても逃げ場が無いなんて絶望的ですよね~~~!』
とか、熱量がかみ合わない会話をしてた。
大内裏の朱雀門から南西に進み、右京を抜け、さらに桂川付近まで来ると、開けたなだらかな丘陵があり、忠平さまが馬を止め、
「このあたりは鷹狩に絶好の狩場なんだ!」
眩しそうに目を細めて枯草の混じる草原を見渡す。
(その3へつづく)




