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セントルローズ公爵夫人の茶話会はいつも紅茶が冷めてしまいます  作者: シロクマシロウ子


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1杯目4口 ロンモルト侯爵夫人ティルマの再婚の悲劇(後編)

〜登場人物紹介〜

◇マリア……セントルローズ公爵夫人。お茶会主催者。

◇ヴィエラ……先々代セントルローズ公爵夫人。


─本日の招待客─

◆ローラ・メイトラント……カステア伯爵夫人。マリアの友人。30歳。結婚8年目で息子が1人。

◆エミリア・ホランド……リンソール子爵夫人。結婚を3ヶ月前にしたばかりの新婚。19歳。

◆ティルマ・ハーパー……ロンモルト侯爵夫人。38歳。お互いに再婚した夫婦。ティルマは1人目の夫との間に息子が2人いて、ロンモルト侯爵には先の夫人との間に娘が1人。今は夫婦の間にできた娘がもう1人いる。

 



 部屋は静まり返り、ティルマの話に全員が聞き入る──


「ロンモルト(侯爵)は……プライドが高くて不器用だけれど、1人娘のシエラをとても大事にしていた。私は優しくて愛情深い方なんだと思えたわ。

 3年前に彼との間にできた娘を産んだ時、とても難産で ……産後に 意識不明になったの。

 目が覚めると、付き添ってくれていた彼は 私に"もう子供を産まなくていい"と言った。妻をまた失うのは嫌だ──と」


 感動的な言葉だが、マリアは確認しなければいけないことを 聞く。


「でも侯爵にはご自分の血筋の後継(あとつぎ)が必要なのではなくて?──男児が」


「彼は私が男児を産めなくても、シエラの産んだ男児に全て相続させるから問題無いと言ったの。だけどこれが………とんでもないことになりだしたの」


 ティルマは右手を こめかみに当てて眉間(みけん)(しわ)を寄せている。


「一体何が起こったんですか?」


 耐え切れずエミリアが聞く。

 意を決したように…………ティルマは話しだした。


「私の連れ子のサイモンと 彼の先妻との娘のシエラが────恋仲になっていたのよ。今2人は19歳だけど、結婚したいと言いだしたの……!

 ロンモルトはもうカンカンよ。兄妹として暮らしていたのに良くないとか、娘をたぶらかしてとか────あげくの果てには、サイモンに"お前は後継者には なれないことを恨んだんだろう"って。"シエラと子供を利用して 爵位を奪おうとしている"なんて言ったの。

 今度はサイモンの方も頭に来て……殴りかかっちゃって、もう 取っ組み合いの大喧嘩よ」


 ティルマは肘をテーブルに乗せ指を組んでいた。そこにおでこをつけて、大きな()め息を()らした。


「サイモンとシエラは出会った時からお互いに一目惚れだったとか、運命を感じたとか言うの。あの子達が初めて会ったのは14歳なのに。

 私は 私達母子に良くしてくれてきたロンモルトに申し訳なくて……。サイモンには 距離を置いて頭を冷やせと言ったけれど、"反対され続けるなら駆け落ちする"って。

 シエラまで "私が息子を産んでも爵位はいりません。それが私達の答えなんです。その代わりサイモンの傍にいさせて下さい"──なんて、言うの」


 エミリアの口は"あぁ……"と小さく 声にならない言葉の形となった。


「ロンモルトは爵位泥棒のような男との結婚は絶対に認めないって。結婚するなら勘当だって。でも、彼も本当はシエラとそんな離れ方は望んでいないはずよ。大切にしてきたんだもの──とても」


「現実的に、サイモンやシエラは駆け落ちしても幸せにもなれないのでは?生活はどうするの?」


 ローラが誰にともなく、口にしていた。


「サイモンは自分の育った────前夫と暮らした家に行こうとしているみたい。だけど二階建てのロッジなの。屋敷で召使いと暮らしてきたシエラは我慢と不便で……幸せだとは感じないかもしれない。10年以上経っているから、まず掃除からでしょうし蜘蛛もネズミも倒さないと」


 厳しい顔をしてティルマが告げる。


「2人は別れなくてはいけませんか…………?」


 エミリアは小声で聞いた。

 ティルマは優しい眼差しでエミリアを見つめる。


「エミリア、あなたの話を聞くまで私は若い人達の恋なんて気の迷いのようなものだと思っていたの。

 でも、あなたとリンソール子爵の恋の話を聞いて……変わったのよ。若くてもちゃんと頑張れるし努力もできる────恋がそれを後押しすることもあるのね」


 エミリアの顔が輝く。


「サイモンとシエラの結婚に賛成してくれるんですね!!」


 彼女はまるで友人の恋を応援するかのように言った。


「ええ、私はそうすることに決めたわ。だけど、ロンモルトは私では説得できなそう。

 以前少し2人を認める方向の話をしてみたこともあるけれど"君も息子を焚きつけたんじゃないのか"とか"結局はシエラの幸せや私のことよりも、君にとってはサイモンとライアンなんだろう"なんて 言われてしまったのよ」


「ではどうやって侯爵に認めてもらったらいいの?」


 悲しげなエミリアの問いには マリアが答えた。


「ねぇ誰か お目付け役(シャペロン)をつけて、ロッジで2人暮らしをさせてみたら?

 使用人は1人で、基本的にお目付け役(シャペロン)の身の回りをするだけに決めるの。2人が協力しながら苦労して自分達だけで生活を営んでみて、それでも幸せを感じられていたら──

それは認めるに値する愛ではない?

 仮にそれを見ても侯爵が認めないとしても、サイモンとシエラは結婚生活をやっていけるという確認ができるわ」


 ローテーブルのみんなが笑顔で うなずいた。が、そこに一声がかかる。


「サイモンとシエラのお試し期間は良いでしょうけれど。もっと根本的な解決方法が、この問題にはありますよ」


 91歳のヴィエラはその眼鏡を外し、膝の上に置いて手を添えていた。どんなに年齢を重ねても、背筋をピンと伸ばすと その姿には気品と威厳がある。

 ヴィエラは部屋中の視線を集めながら告げた。


()()()()()()()()()、あなた後継(あとつぎ)を 産みなさい」


「「「「ええ!?」」」」


 周囲からは驚きの声が上がる。────ティルマ自身は言葉も無く目を見開いていた。

 見かねてか、エミリアがヴィエラに言った。


「あのう公しゃ……ヴィエラ。ティルマはロンモルト侯爵ともう子作りをしないと夫婦で決めたんです。難産で命懸けだったから……」


「名前を呼んでくれてありがとうエミリア。ただ私は目は悪くても耳は聞こえているのよ」


 ヴィエラは手にしている眼鏡を振って、皆にウィンクした。マリアは眉を上げた。


「聞いていたら、先の夫との子供の出産からだいぶ時間があいているのではない?赤子が降りてくる道がすっかり閉じていたのですよ。むしろ、1人目からあまり時間をおかなければきっと前より楽に産める。次男の時、そうだったのではなくて?」


 ティルマは思いだしたように


「確かに……そうだったかも……」


 と言い


「でも私……もう38なんです。できるでしょうか?」


 と か細い声で言った。ほとんど消え入りそうに。

 ヴィエラは力強くうなずき返した。


「問題は男児か、産めるか、つくれるか────では無いと思うわ。

 あなたの姿勢よ。

 あなたの────ハーパー家の、その血筋のために生命(いのち)を懸けると言う意気込みを、努力をする決意を、夫に伝えることが大事なのではない?

 もしも今もその覚悟を失っていないのならね」


 男子長子のみの継承のこの時代に、良家に嫁ぐ女性達が皆した覚悟────


「あります。勿論」


 ティルマは言った。声はまだ小さいが 迷わずに。


「あなたのその姿勢こそが、何よりも ロンモルト侯爵に伝えてくれるのではないかしら…………あなたが爵位が魅力で彼に決めたわけではないこと。そして、息子達も爵位を狙っているわけではないことを」


 言葉の最後には、ヴィエラの皺々(しわしわ)の顔はとても優しく、心から面白そうに微笑んでいるように見えた。


 マリアは、ヴィエラに"はい!"と元気に返事をした ティルマを見ながら 思った。


(お義祖母様(ばあさま)はもう一つ 最後に言いたかった言葉を、ワザと口にしなかったのではないかしら……?)




 " それに 愛している と伝わる "────と







読んで頂きまして誠にありがとうございます。


客人達のお茶会での話披露はここで終わりますが、【第一回茶話会】としての連載はあと2エピソード続きそうです。


次話のタイトルは

『マリアとヴィエラの談話とその夜のロンモルト侯爵夫妻』

です。

応接室(茶話会のお部屋)を飛び出してしまいますー♡

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― 新着の感想 ―
 やはり年の功。伊達に苦労をしていませんね。
ヴィエラさんの一喝がズバっと刺さりましたね。 (・∀・) 次の会場での恋バナが楽しみです。 (*´ω`*)
 「家を乗っ取るつもりか」などと、とんでもない疑いでしたが、ロンモルト侯爵は妻の前夫への嫉妬やら、大切にしていた娘に恋人が現れたことに対する嫉妬と怒りやら、……つまり嫉妬の塊になってしまった自分に尤も…
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