1杯目 紅茶とお菓子とお客様紹介
本日は、セントルローズ公爵夫人によって、3人の貴婦人達が茶話会に招待されている────
1人目はカステア伯爵夫人ローラ・メイトラント。
彼女はセントルローズ公爵夫人──マリアの友人で、茶話会にはもう何回か参加している。結婚して8年目。息子が1人。黒髪でハッキリした目鼻立ちの美人だ。30歳。
2人目はリンソール子爵夫人エミリア・ホランド。
まだ19歳で、結婚も3ヶ月前にしたばかりの新婚。初めてのセントルローズ公爵夫人の茶話会に、とても緊張しているようだ。薄くそばかすの残る白い肌に、つぶらな焦茶の瞳で、周囲の高級家具に感嘆している。明るいブラウンの髪色だ。
3人目はロンモルト侯爵夫人ティルマ・ハーパー。38歳。
背が高く黒髪で、太ってはいないが豊満なスタイルの中年女性。ロンモルト侯爵は2人目の夫でお互いに再婚だ。
ティルマは1人目の夫の間に息子が2人いて、ロンモルト侯爵には先の夫人との間に娘がいた。
そして、2人の間にできた娘が、今はもう1人いる。
最後に、室内にはもう1人────茶話会をするローテーブルとソファからは離れて、1人がけ用のソファに身を置き、レースの刺繍をする白髪の老女の姿がある。
先々代のセントルローズ公爵夫人ヴィエラ──御年91歳。
彼女は高齢だがとても健やかで、今だに音楽会や劇場のような社交の場にも出向くことさえある。まさしく、社交界の重鎮と言える存在だ。
公爵夫人とは言えマリアがここまで好きにできるのも、この夫の祖母のおかげもあった。ヴィエラも この茶話会を気に入り、後押ししてくれている。
応接室には、すでに本日のお菓子であるレモンドリズルケーキがカットされて用意されている。
レモン果汁、レモンの皮を入れた焼きたてのケーキ生地に フォーク等で穴を開け、レモン果汁シロップを全体がしっとりとするほど染み込ませる。それに、レモンのアイシングをかけて、レモンピールで飾った────白と黄色の爽やかな色の甘酸っぱいレモンドリズルケーキ。
マリアは、紅茶の準備を始めた。今日はケーキに合わせてアールグレイを選んだ。
大きめのティーポットには、ポットを温めるために召使いが入れておいてくれたお湯がすでに入っているが、まずこのお湯を器に出す。
殻になったポットに茶葉を量って入れる。カップ一杯分の紅茶は、だいたいティースプーン一杯の茶葉だ。そして、ティーケトルの保温されていた熱いお湯を注ぐ。
それからティーコジーをかぶせて3分程蒸らすのだ。
空き時間が出来たので、マリアは客人達に向き直った。
会の始まりの言葉を述べる。
「皆さん、今日はようこそお越し下さいました。
もう知られているかとは思いますが、私のお茶会は"恋愛や夫婦仲の話"のみ。お茶会の間はファーストネームで呼び合い、敬称や爵位名はなし。──私のこともマリアで結構。
そして ここでした話は他言無用です。どこかで話が漏れて噂になっていたのなら、その時は公爵家の力を持って必ず犯人を突き止め、社交界から追放します」
部屋の空気がピンと張り詰める。
マリアは3人の顔を1人1人見て確認した。
「いいですね?」
声は無かったが エミリア、ティルマは、おずおずと頷く。経験者で友人のローラとは アイコンタクトだ。
ソファから 先々代公爵夫人が刺繍をしたままウィンクしてきた。
マリアはにっこり微笑んで、両手を胸の前で合わせて宣言をする────窓から差し込んできた日差しが彼女のブロンドの髪を輝かせた。
「さあ、素敵なお茶会の始まりよ」




