第35話:『裏の読み合い(ゲス・ヒッティング)』と『渾身の直球(ストレート)』
『王国選抜対抗戦』、準決勝。
王立闘技場は、地方リーグからの因縁を持つ二つのチームの対決に、異様な盛り上がりを見せていた。
「「「ピジョンズ! ピジョンズ!」」」
「「「猛牛! 猛牛!」」」
もはや、俺たちを「田舎者」と侮蔑する声はない。
そこにあるのは、実力で勝ち上がってきた強豪同士の潰し合い(ダービーマッチ)への期待だけだ。
フィールドの中央。
俺たちと対峙するバルガス率いる『アイアン・ブルズ』は、試合開始早々、奇妙な陣形を敷いた。
「(……なんだ、あの守備位置は?)」
バルガスの部下たちが、極端に偏った位置に立っている。
ガルムが斧を振る『軌道』上と、リゼッタが得意とする右サイドの『走路』上。そこだけに盾持ちを密集させ、他を完全にガラ空きにしているのだ。
「無駄だぜ、慎吾」
バルガスが、ニヤリと笑って斧を担ぐ。
「お前らの『癖』は、全部頭に入ってる。ガルムは初手で必ず大振りする。リゼッタは右から切り込む癖がある。……違うか?」
「……ッ!」
図星だ。
試合開始。
ガルムが斧を振れば、そこには既に三重の盾が置かれている。
リゼッタが走れば、その着地地点に正確に拘束魔法が飛んでくる。
「くそっ、動きにくい! なんでそこに居やがる!」
「ああっ! また先回りされました!」
攻め手を完全に封じられ、こちらのスタミナだけが削られていく。
バルガスは、俺の戦術を研究し尽くし、「ここに来る」と確信した場所に完璧な罠を置いている。
「(……参ったな。あいつ、俺以上に俺たちのことを知ってやがる)」
俺は冷や汗を拭った。
バルガスは、単に動きを読んでいるだけじゃない。俺の『思考』を読んでいる。
「どうした策士殿? 次はどんな『変化球』を投げてくるんだ?」
バルガスの瞳には、余裕と、そして鋭い観察の光が宿っていた。
彼は待っている。
俺がこの状況を打破するために、『奇策』や『緩急』を使うことを。
「(慎吾なら、ここで裏をかく)」
「(次はバントか? それとも釣りか?)」
バルガスの思考が手に取るようにわかる。
彼は賢くなった。賢くなりすぎた。
俺を「策士」だと評価しすぎているがゆえに、彼は「単純な攻撃」への警戒を捨て、複雑な「裏」ばかりを読もうとしている。
「(……策に溺れたな、バルガス)」
俺はニヤリと笑い、この試合で初めて、メンバー全員に『念話』を飛ばした。
複雑な指示ではない。
一番シンプルで、一番バカげた命令だ。
『(策はなしだ。全員、最大出力で“ド真ん中”をぶち抜け)』
「えっ!?」
リゼッタが素っ頓狂な声を上げる。
「罠がありますよ!? そのまま突っ込んだら……!」
「へっ、そうこなくちゃな!」
ガルムが獰猛に笑い、斧を構え直す。
ミーナも、俺の意図を察して口元を緩めた。
「(……なるほどな。深読みしすぎた相手には、バカ正直が一番効くわ)」
「行けぇぇっ!!」
俺の号令と共に、ピジョンズが動き出した。
リゼッタは、罠を避けるステップを踏まなかった。
「(避けない……! 罠ごと踏み砕く!)」
魔導スパイクを最大出力で発動させ、落とし穴の上を強引に駆け抜ける直線的な加速。
ルナリアは、変化球の構えを解いた。
「(小細工なしです!)」
魔力を極限まで溜めた、回避不能な極太の『直球』を放つ。
そして、ガルム。
フェイントなし。助走をつけて、真正面からバルガスへ突撃した。
「(来たな!)」
バルガスが身構える。
彼の脳内には、膨大なデータと予測が駆け巡っていた。
(直進してくる……これは『釣り(フェイク)』だ!)
(直前で曲がるか? 急停止してカウンターか? いや、変化球が来るはずだ!)
彼は『変化』を警戒し、迎撃のタイミングを一瞬だけ遅らせて『様子見』をしてしまった。
「(どこだ……どこで曲がる!?)」
そのコンマ一秒の遅れが、命取りになった。
目の前に迫るガルムが、吼える。
「曲がらねえよ! 直球だオラァッ!!」
「なっ――!?」
バルガスの目が驚愕に見開かれる。
ドゴォォォォン!!
「がはぁっ……!?」
様子見で半端に構えていたバルガスの防御の上から、ガルムの渾身の『フルスイング』が叩きつけられた。
変化を待っていた小手先の防御では、純粋な『パワー』を受け止めきれるはずがない。
巨大な斧が弾き飛ばされ、バルガスはそのまま後方へと吹き飛び、大の字に倒れ込んだ。
「…………」
一瞬の静寂の後。
「勝負あり! 勝者、ピジョンズ! 決勝進出!!」
審判の声と共に、ドームが揺れるほどの大歓声が爆発した。
「すげぇえええ! 最後は力押し(パワー)かよ!」
「気持ちいいくらいのド真ん中だ!」
フィールドの中央。
大の字になったまま、バルガスが「ハハッ……」と乾いた笑い声を上げた。
「……完敗だ。まさか最後にお前が『脳筋』になるとはな」
「お前が賢くなりすぎたんだよ」
俺が手を差し出すと、バルガスはその手を掴んで立ち上がった。
「……行けよ、慎吾。俺たちの分まで」
「ああ。任せておけ」
固い握手を交わす俺たちに、会場からは惜しみない拍手が送られた。
「さあ、いよいよです! 次は決勝戦!」
パティの実況が響く中、上空の巨大スクリーンに、最後の対戦カードが映し出された。
【決勝戦】
ピジョンズ VS 金獅子の騎士団
「……来たな」
俺は、貴賓席を見上げた。
そこには、黄金の鎧を纏った『完全無欠の王』ライオネルが、冷たい瞳でこちらを見下ろしていた。
エラー率0.00%の最強軍団。
俺たちの『シーズン』、その最後の戦いが始まる。




