第29話:『王都への招待状(チケット)』と『査定官(スカウター)』
鉱山都市での『遠征』を終え、俺たち『ピジョンズ』はホームタウンの冒険者ギルドへと帰還した。
扉を開けた瞬間。
「「「うおおおおおおおっ!!」」」
「帰ってきたぞ! 俺たちの『スター選手』だ!」
「よくやった! あの『金獅子』をフッたってマジかよ!?」
爆発的な歓声と、紙吹雪が俺たちを出迎えた。
「(な、なんだ……!?)」
リゼッタが目を白黒させていると、興奮した顔の冒険者の一人が、一枚の『新聞(号外)』を俺の目の前に突きつけてきた。
そこには、スポーツ新聞特有の荒々しい筆致で、デカデカとこう踊っていた。
>【号外】ピジョンズ、金獅子の「100倍オファー」蹴った!!
>ガルム&ミーナ、電撃残留! 「俺の背中(守備)はコイツらだけ」
>【アイアン・サイド発】
衝撃の結末だ! Sランクの盟主『金獅子の騎士団』による、Eランク「ピジョンズ」主力への**強奪工作。
>提示されたのは破格の『年俸100倍』&『Sランク武器支給』。
>誰もが「移籍確実」と見たその瞬間、主砲・ガルム選手(大振り)は契約書をビリビリに破り捨てた!
>「金ピカじゃ背中がむず痒い」
>現場の酒場は騒然! 正捕手・ミーナ選手も「三流監督のお守りがある」と一蹴。
>黄金よりも“絆”を選んだ“変わり者”たち!
>これぞプロ! これぞ男気! ピジョンズ、結束は既にSランク級だ!!
>(本紙担当記者:パティ)
>
「あいつ……仕事が早すぎるだろ」
俺は苦笑したが、悪い気はしなかった。
周囲の視線は、以前のような「好奇」や「嫉妬」ではない。尊敬と親愛の情が篭もっていた。
「へっ、悪くねえ気分だ」
ガルムが鼻の下を擦り、リゼッタとルナリアも照れくさそうに手を振っている。
ミーナだけは「騒がしいわ」と耳を塞いでいるが、その口元は緩んでいた。
「――皆さん、こちらへ」
喧騒を縫うように現れたエルミナが、深刻な表情で俺たちを奥の応接室へと招き入れた。
部屋に入ると、彼女は恭しく、一通の封筒をテーブルに置いた。
金色の封蝋がされた、見るからに高価で重厚な封筒だ。
「これは?」
「……『招待状』です」
エルミナは、少し緊張した面持ちで告げた。
「来月、王都で開催される国内最大級の武闘大会――**『王国選抜対抗戦』**への」
「「ええっ!?」」
リゼッタたちが声を上げる。
俺でも名前くらいは知っている。全国のSランク、Aランクの精鋭ギルドが集い、国の『最強』を決める年に一度の『祭典』だ。
優勝チームには、国から『Sランク昇格』の確約と、一生遊んで暮らせるほどの賞金、そして『王室』からの栄誉が与えられる。
「通常は、実績ある古豪ギルドしか招待されません。ですが今回は……」
エルミナは苦笑した。
「『Sランクのオファーを断った話題のルーキー』として、大会運営本部から**『特別推薦枠』**で選出されました」
「すげぇ……! 全国大会だ!」
ガルムが拳を握りしめる。
俺たちの実力が、ついに国レベル(メジャー)で認められたのだ。
だが。
「……浮かれるのは早いぞ、民間人」
冷徹な声が、窓際から響いた。
「え?」
俺たちが振り返ると、いつの間にかそこには、軍服に身を包んだ一人の女性が立っていた。
鋭い眼光。隙のない立ち姿。腰には儀礼用ではない、実戦用のサーベル。
「……少佐」
エルミナが緊張した声で呼ぶ。
女性将校は、コツ、コツ、と軍靴の音を響かせて俺の前に立った。
まるで品定めをするような視線が、俺を頭から爪先まで貫く。
「貴様が、噂の『指揮官』か」
彼女は鼻を鳴らした。
「見たところ、魔力も剣技もない、ただの『無能力者』のようだが」
「あんた、誰だ?」
俺が尋ねると、彼女は胸元の記章を示した。
「王国軍・第三騎士団少佐、レオナだ。……軍上層部の命令で、貴様らの『実力』を**『査定』**しに来た」
「査定……?」
レオナは、テーブルの上の『招待状』を指先で弾いた。
「王都の試合は『遊び』ではない。『戦争』だ。話題作りだけの、まぐれ当たりの田舎チームが恥をかく場所ではないのだ」
彼女の瞳には、冒険者を見下す、軍人特有の傲慢さと、確かな自信が宿っていた。
「私の『部下』と模擬戦を行え。そこで貴様が『指揮官』としての能力を証明できなければ……」
レオナは冷酷に告げた。
「その『招待状』は没収する」
「なんだと!?」
ガルムが激昂して掴みかかろうとするが、俺は片手でそれを制した。
「慎吾さん……」
俺は、レオナの目を真っ直ぐに見返した。
この女は、これまでのモンスターや冒険者とは違う。
『組織』の人間だ。それも、規律と統率を重んじる『軍隊』。
「……いいでしょう」
俺は静かに答えた。
「その『練習試合(オープン戦)』、受けます」
レオナが眉をピクリと動かす。
「ただし、条件があります」
「条件だと?」
「もし俺たちが勝ったら、軍公認の『スポンサー(後ろ盾)』になってもらいますよ。王都での活動をバックアップしてもらう」
レオナは一瞬虚をつかれた顔をしたが、すぐに獰猛な笑みを浮かべた。
「フン……口だけは達者なようだ。いいだろう、契約成立だ」
彼女は踵を返し、出口へと向かう。
「明日の正午、訓練場へ来い。……軍の『規律』の恐ろしさを、骨の髄まで教えてやる」
去り際の背中を見送りながら、俺は武者震いのようなものを感じていた。
「(個の力で押すモンスターとは違う。『規律』と『統率』……)」
俺は、これまでの戦いを脳内で振り返る。
「(……一番、『野球』に近い相手かもしれないな)」
こうして、俺たち『ピジョンズ』の、王都行きを賭けた『最終テスト』が決まった。
相手は、王国軍精鋭小隊。
俺の『采配』が、国の正規軍に通用するか。真価が問われる一戦だ。




