第25話:『契約更改(年俸アップ)』と『新機軸(ニュー・ギア)』
Aランクモンスター『双頭の巨人』の討伐に伴う、ギルドからの『特別報奨金』と、巨人から採取できた皮や骨などの素材の売却益は、俺の予想を遥かに超えていた。
ギルドの個室、そのテーブルの上に積み上げられた金貨の山は、Eランク時代の彼らなら一生かかっても拝めないほどの金額だ。
「(す、すげぇ……)」
「(これが、Aランクの報酬……)」
俺は、彼らの反応を予想していた。
これだけの金だ。パーッと祝勝会でもやるか、欲しかった服や酒を買うか。それも悪くない。プロには息抜きも必要だ。
「分け前だ。好きに使え」
俺はそう言って、報酬を均等に分配(契約更改)しようとした。
だが。
「……慎吾さん」
リゼッタが、金貨の山をじっと見つめたまま、真剣な表情で口を開いた。
「このお金、全部『装備』に突っ込んでいいですか?」
「あん?」
俺は眉をひそめた。
「いい服が買えるぞ? 美味いもんも食える」
「いりません」
リゼッタは即答した。
「あの巨人戦で、私は何度も『エラー(転倒)』しかけました。もっと地面を噛む靴があれば……もっと速く、確実に走れます」
「俺もだ」
ガルムが、金貨を鷲掴みにしてニヤリと笑う。
「今の斧じゃ、Aランクの硬さに耐えられねえ。もっと『芯』を食える、重くて硬ぇ業物が欲しい」
「私も……」
ルナリアも続く。
「魔力の伝導率がもっと良い杖じゃないと、あの『緩急』の精度を安定させられません」
俺は、三人の顔を順番に見た。
そこに、以前のような「ビジター(挑戦者)」の怯えや、日銭を稼ぐだけの冒険者の顔はない。
より高みを目指し、勝利のために自分自身へ投資しようとする、「プロ(強豪)」の顔つきだった。
「(……へっ。いい『目』になりやがって)」
俺は『監督(の視点)』で、彼らの意識が劇的に成長したことを確信し、頷いた。
「いいだろう。金はある。それに――最高の『素材』も手元に残してあるからな」
俺は懐に入れたままにしていた、あの『戦利品』の重みを確かめた。
「最高の『仕事道具』を揃えに行くぞ」
街一番の腕を持つと評判の、ドワーフの鍛冶屋。
頑固そうな親父に、俺は詳細な『オーダーシート(設計図)』を突きつけた。
「なんだこりゃ? 斧の刃を厚くして、防具は薄くしろだぁ?」
鍛冶屋の親父が目を丸くする。
「そうだ」
俺はガルムを指差した。
「コイツは『4番(主砲)』だ。防御は考えなくていい。その代わり、振れば当たる『トップバランス』の斧にしてくれ」
ガルムがニヤリと笑う。「へっ、そういうことだ。当たる前に砕けばいいんだよ」
次にリゼッタ。
「彼女は『1番』だ。どんな悪路でも絶対に『エラー(転倒)』しない足が要る」
注文したのは、足裏に魔導スパイク(爪)を仕込んだ、特殊ブーツ。魔力を流せば摩擦係数をゼロからMAXまで自在に操れる、走塁のスペシャリスト専用品だ。
そして、ミーナ。
「……で、一番の難題はこれやな?」
ミーナが、テーブルの上にゴロリと『巨人の核』を転がした。
売らずに温存しておいた、鈍く光るAランクの結晶体。
鍛冶屋の親父が息を呑む。
「こいつは……Aランクの素材じゃねえか! ギルドに売れば城が建つぞ? これをどうする気だ?」
俺は言った。
「盾じゃない。『ミット』を作ってくれ」
「ミット?」
「ああ。敵の攻撃を『弾く』んじゃない。魔力や衝撃を『吸着』し、拡散させて殺す。あらゆるボール(攻撃)を受け止める、最強の『捕手』のための装備だ」




