第24話:『ウイニングボール(戦利品)』と『首位交代(ランクアップ)』
地響きと共に崩れ落ちた『双頭の巨人』は、光の粒子となって消滅した。
後に残されたのは、静寂と、巨大なドーム状の広場に残る破壊の痕跡だけだった。
「(はぁ……はぁ……)」
リゼッタが、へたり込むようにその場に座り込んだ。
「(か、勝った……? わたしたち、本当に……Aランクに……?)」
「(へっ……見てみろよ)」
ガルムが、足元に落ちていた何かを拾い上げる。
それは、巨人の『芯』だった物体だ。俺たちの攻撃によって砕かれず、奇跡的に球状に残った、鈍く光る結晶体。
「(俺が『芯』で捉えた証だ。……へへっ、まるで『ボール』だな)」
ガルムは、その『戦利品』を俺に放り投げた。
パシッ。
俺はそれを受け取る。ずしりと重い。これが、俺たちの『勝利』の重さだ。
「(見事な『ゲームメイク』やったわ)」
ミーナが、煤けた服を払いながら近づいてくる。
「(あんたの無茶苦茶な『采配』がなかったら、今頃うちらがミンチになってたわ)」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「ふん」
ミーナはそっぽを向いたが、その横顔は、初めて俺を『監督』として認めているように見えた。
ルナリアが、涙ぐみながら駆け寄ってくる。
「慎吾さん……! わたしの『緩急』、通用しました……!」
「ああ。お前の『緩急』が、巨人の『バッテリー』を崩したんだ。最高の『継投』だったぞ」
俺が頭を撫でると、ルナリアは「えへへ……」と照れくさそうに笑った。
「よし」
俺は、手のひらの『戦利品』を握りしめた。
「凱旋だ。ギルドへ戻るぞ」
ギルドの扉を開けた瞬間。
まるで時が止まったかのように、店内の喧騒が消え失せた。
ボロボロの装備。泥だらけの顔。
だが、誰一人として欠けていない『ピジョンズ』の5人。
「(嘘だろ……?)」
「(生きて帰ってきたのか……?)」
冒険者たちの、信じられないという視線が俺たちに突き刺さる。
カウンターの奥から、エルミナが駆け寄ってきた。いつもの冷静な彼女が、少しだけ息を弾ませている。
「慎吾さん……! そ、その姿は……」
俺は、何も言わずにカウンターへ歩み寄ると、懐から『戦利品』を取り出し、ゴトッ、と置いた。
Aランクモンスターの素材特有の、強烈な魔力を放つ球体。
「『双頭の巨人』、討伐完了だ」
エルミナが息を呑み、震える手でその結晶を確認する。
「……魔力波長、照合。間違いありません。Aランク指定個体の『核』です」
彼女は顔を上げ、ギルド全体に響き渡る声で宣言した。
「――クエスト達成! チーム『ピジョンズ』、Aランクダンジョン『巨人の寝床』の攻略を確認しました!」
一瞬の静寂の後。
「う、うおおおおおおおおっ!!??」
「マジかよ!? あのバルガスが失敗した相手だぞ!?」
「『エラーズ』が!? Aランクを!?」
爆発的な歓声とどよめきが、ギルドを揺らした。
パティが「特ダネェェェェ!!」と絶叫しながら、カメラ(写し絵の魔導具)を構えて突撃してくるのが見える。
だが、その歓声の中、一つのテーブルだけが、葬式のように静まり返っていた。
「…………」
バルガスだ。
『アイアン・ブルズ』の取り巻きたちも、青ざめた顔で俺たちを見ている。
バルガスは、震える手でジョッキを握りしめていたが、やがてゆっくりと立ち上がり、俺の前に歩み寄ってきた。
「(……おい)」
地を這うような低い声。
ガルムが警戒して前に出ようとするが、俺はそれを手で制した。
バルガスは、カウンターに置かれた『戦利品』を睨みつけ、次に俺を睨んだ。
「(……小細工だけで……『パワー』を超えたってのか)」
「小細工じゃない」
俺は、バルガスの目を真っ直ぐに見返した。
「それぞれの『役割』を全うした、『チーム』の力だ」
バルガスは、ギリッと奥歯を噛み締めた。
彼のプライド(パワー)が、それを認めることを拒絶している。だが、目の前にある『結果』は覆らない。
「……フン」
バルガスは、吐き捨てるように鼻を鳴らし、俺たちの横を通り過ぎていった。
「(……次は、負けねえ)」
すれ違いざまの、誰にも聞こえないほどの小さな呟き。
それは、初めて俺たちを『格下』ではなく、『対等な敵』として認めた瞬間だった。
「(……ふふっ)」
俺は思わず笑みをこぼした。
「さあ、慎吾監督!」
パティが俺の顔にメモ帳を突きつけてくる。
「今のお気持ちは!? あのバルガス選手を『スコア(実績)』で超え、実質的な『首位』への名乗りを上げました! 勝因は!? 次の目標は!?」
俺は、誇らしげに胸を張るリゼッタ、ガルム、ルナリア、そして呆れながらも微笑んでいるミーナを見渡した。
「勝因か……」
俺は、パティのペン先を見つめて答えた。
「『全員野球』だ」
翌朝のスポーツ新聞(かわら版)の一面には、俺たちが『戦利品』を掲げる姿と共に、デカデカとこう見出しが躍っていた。
> 【大金星】『ピジョンズ』、Aランク制覇! 王者バルガス陥落! 新時代の『戦術』がギルドを変える!
>
こうして、俺たち『万年エラー軍団』の、本当の『シーズン(冒険)』が幕を開けたのだった。




