第22話:『バッテリー(連携)』の『癖(サイン)』
ゴ……ゴ……
『双頭の巨人』が、勝利を確信したように、半壊した俺たちにとどめの一撃を振りかぶる。
リゼッタは腰を抜かし、ガルムは吹き飛ばされた衝撃でまだ動けない。
「(クソ……! これが、『格上(Aランク)』……!)」
ルナリアが絶望に顔を歪める。
「(……『右』が『左』を見た。……『サイン』だ!)」
俺は、巨人の『右の頭』の目が、一瞬だけ『左の頭』の目を見たのを『視点』で捉えた。
「(次の攻撃は、リゼッタだ!)」
「リゼッタ、右に跳べ! 『エラー(転倒)』してもいい、全力でだ!」
「えっ!?」
俺の唐突な『指示』に、リゼッタは恐怖で固まったまま、それでも俺の言葉を信じて、無様に右側へ転がった。
直後。
ズドオオオオオン!!
巨人の『左の頭』が振り下ろした棍棒が、ついさっきまでリゼッタがいた場所を粉砕した。
「(……よし、読み通りだ!)」
「(なんや、今のは……?)」
砂煙の中から、ミーナが俺の隣に着地する。
「ミーナ! 『防御』を! 時間を稼ぐ!」
「(チッ、無茶苦茶言いやがって……!)」
ミーナは文句を言いつつも、俺の『視点』が何かを掴んだことを察し、即座に『千里眼』と防御結界を展開。巨人の注意を自身に集め、一時的に距離を取ることに成功した。
瓦礫の陰。俺たちは束の間の『タイム』を得た。
「(ゲホッ……ゲホッ……な、なんだ、今のは……?)」
ガルムが、ミーナの防御結界に守られながら、痛む脇腹を押さえて立ち上がる。
俺は、荒い息を整えながら、全員に『分析』結果を叩きつけた。
「あの巨人は『バッテリー』だ」
「「「は?」」」
「『右の頭』が『捕手』で、『左の頭』が『投手』だ」
俺は、巨人の二つの頭を指差す。
「さっきの攻撃で確信した。『右の頭』が『見た(サインを送った)』標的を、『左の頭』が忠実に『攻撃(実行)』している」
「(……なるほどな)」
ミーナが、結界を維持しながら頷いた。
「(『右』が『指示』を出し、『左』が『攻撃(実行)』する。厄介なのは、『右』が『防御』も兼ねとることや。こっちの攻撃は、全部あの『右の頭』の腕に『防御』される)」
「ああ」と俺は続けた。
「バルガスの『データ(スコアブック)』通りだ。奴の『パワー(剛速球)』は、あの完璧な『防御』に阻まれ、がら空きになったところを『左』に『攻撃』された」
「じゃあ、どうするんですか!?」
ルナリアが悲鳴に近い声を上げる。
「『サイン』が読めても、『防御』を抜けなきゃ……!」
「『サイン』を盗む(読む)んじゃない」
俺は、瓦礫の陰から巨人を睨みつけた。
「――『サイン』を、『偽装』する」
俺は、震えるリゼッタを見た。
「リゼッタ。お前が『走者』だ」
「わたしが……?」
「お前の『エラー(予測不能な動き)』で、巨人の『右の頭』の『視線』を誘導しろ。お前が動けば、『右の頭』は必ずお前を『見る(マークする)』」
次に、ルナリアに向き直る。
「ルナリア。『右の頭』がリゼッタに『サイン』を送った瞬間――つまり、『左の頭』が攻撃に入る瞬間に、お前の『緩急』を『左の頭』に叩き込め」
「(『左』に……!?)」
「ああ。リゼッタ(速いランナー)の動きに合わせていた『左』の『タイミング(リリース)』を、お前の『緩急』で狂わせるんだ」
そして、ガルムに尋ねた。
「ガルム、耐えられるか?」
「……ったりめえだ。誰に言ってやがる」
ガルムは斧を肩に担ぎ、獰猛に笑った。
「よし」
俺は、最後の『指示』を出す。
「巨人の『左』が、ルナリアの『緩急』で体勢を崩す。その一瞬だけ、『右』の『防御』が、『左』を庇うために甘くなるはずだ」
「――お前は、その『右の頭』の『防御』ごと、その奥にある『左の頭』の『腕(利き腕)』を、『芯』で粉砕せ!」
三人の顔に、絶望ではない、『覚悟』の色が戻った。
「巨人の『バッテリー(連携)』を、俺たちの『連携』で壊す!」
俺は叫んだ。
「『プレイボール』だ!」
「(もう限界や!)
ミーナの防御結界が砕け散る。
「リゼッタ、行け!」
「はいっ!」
リゼッタが、今度は恐怖ではなく、『役割』を胸に巨人の懐へ飛び込む。
「(わたしは『囮』! 『エラー(予測不能)』に動いて、『視線』を盗む!)」
リゼッタの予測不能な動きに、巨人の『右の頭』が完全に釣られた。
「(見た!)」
『右の頭』が、『左の頭』に「リゼッタを狙え」と『サイン』を送る。
巨人の『左の頭』が、リゼッタ(速いランナー)に合わせて棍棒を振りかぶった。
「ルナリア!」
「(いきます!)」
ルナリアが、完璧な詠唱で「3割(遅い球)」の魔力弾を『左の頭』の顔面に放った。
「(グ!?)」
『左の頭』は、リゼッタの速さに合わせていたため、ルナリアの『緩急』に対応できず、その一撃をまともに浴び、体勢がわずかに崩れた。
「(よし、崩れた!)」
体勢を崩した『左』を庇うため、『右』の『防御』が一瞬、雑になる。
俺は、その瞬間を待っていた。
「ガルム、今だ!」
「(待ってたぜ……!)」
俺のバフが、ガルムの『ミート』と『パワー伝達率』に極振りされる。
「『右』の『ミット(腕)』ごと、『左』の『肩』を叩けェ!!」
「オオオオオオッ!!」
ガルムが、コボルドのリーダー(宿題)を粉砕した、あの完璧な『型』で、力を凝縮させた斧を振り抜いた。




