第19話:『評価(データ)』の上昇と『格上(ネクストゲーム)』
「よし。『宿題』完了だ。ギルドに帰るぞ」
俺の言葉に、メンバーたちはまだ興奮冷めやらぬといった様子で頷いた。
ギルドへの帰り道、パーティの雰囲気は、以前の撤退時とは比べ物にならないほど明るかった。
「(わたし、エラーしなかった……本当に、転ばなかった……!)」
リゼッタは、まだ自分の『足』で敵陣を突破したことが信じられない様子で、自分の短剣を握りしめている。
「(……『芯』で当てるのも、悪くねえな)」
ガルムは、余計な力を抜いた『ミート』の感触を確かめるように、斧の柄を軽く叩いている。あの大振りが、新しい『型』の効率の良さに気づき始めたようだ。
「(『緩急』、できました……!)」
ルナリアは、自分の魔力で初めて敵の『読み(タイミング)』を外せたことに、静かな自信をつけ始めている。
「ふん」
と、前を歩くミーナが鼻を鳴らした。
「三流どもが、ようやく『二流』の入口に立っただけや」
俺の『視点』には、彼女の『機嫌』が、ほんの少しだけ上昇しているのが見えていた。
ギルドの重い扉を開けた瞬間、俺たちは甲高い声に包まれた。
「特ダネ(スクープ)です! 慎吾監督!」
インクの匂いをさせた少女――パティが、待ってましたとばかりにカウンターから飛び出してきた。
「信じられません! あの『機動力』と『守備力』が売りの『高速疾走コボルド』部隊を、『エラー』なく撃破!? しかも、『エラー娘』が先陣を切り、『大振り(ガルム)』が確実に仕留めた……!?」
パティのペンが、凄まじい速度でメモ帳の上を走る。
「一体どんな『魔法』を使ったんですか!?」
「(魔法じゃない、『戦術』だ)」
俺は心の中でツッコミを入れる。
ミーナは「(……また来たか、あのやかましい『ヤジ屋』)」と、露骨に嫌な顔を壁に向けた。
「――報告、受理します」
パティの興奮を遮るように、冷静な声が響いた。
カウンターの奥から、ギルド職員のエルミナがファイル(スコアブック)を片手に現れる。
「コボルド部隊の討伐、確認しました。……それに伴い、あなたたちの『データ(数値)』を更新します」
エルミナは、淡々と(しかし、わずかに驚きを隠せない様子で)手元のファイルをめくり、データを読み上げた。
「リゼッタ:任務失敗率、前回比30%減少。パーティ内での『先行』成功率、40%上昇」
「ガルム:攻撃命中率(打率)、前回比25%上昇。特に『大振り(空振り)』率の劇的な低下を観測」
「ルナリア:魔力効率(リソース効率)、20%改善。『全力(10割)』と『制御(3割)』の『エラー(暴投)』率がゼロを記録」
「「「…………」」」
パティのペンが止まる。
静まり返ったギルド内が、次第にざわつき始めた。
「……あの『エラーチーム』が?」
「データ(数値)が化け物だぞ……」
「リゼッタが、エラーをしていない……?」
その、ざわつきを切り裂くように、地響きのような声がギルドの奥から響いた。
「……フン、まぐれ当たり(ラッキーヒット)が続いただけのビジター(よそ者)が、調子に乗ってやがる」
「「!」」
声の主は、酒場のテーブルで巨大なジョッキを傾けていたバルガスだった。
『アイアン・ブルズ』の取り巻きを連れた彼は、俺たちの『データ(評価)』が上がったことが、心底面白くないという表情だ。
「(おっと! 宿命のライバル、バルガス選手の登場です!)」
パティが、目を輝かせてペンを走らせる。
バルガスは、ガルムを挑発するようにニヤリと笑った。
「小細工を覚えたところで、所詮は『エラー』の寄せ集めだ。本物の『パワー(戦力)』の前では無意味だと教えてやるよ」
「てめえ……!」
ガルムが斧の柄に手をかける。リゼッタも怯えながらも俺の後ろに隠れる。
俺は、ガルムの肩に手を置き、制止した。
「(今はまだ……)」
「(……二流が。相変わらず『分析』が甘いわ)」
ミーナが、バルガスを冷たく見ている。
バルガスの挑発を、エルミナは完全に無視して続けた。
「……『データ(数値)』が跳ね上がった結果、あなたたち『ピジョンズ』のギルドランク(評価)は『C』に昇格しました」
「「え!?」」
リゼッタたちが息を呑む。
「そこで、ギルドマスター(GM)からの『特命』です」
エルミナは、ギルドでも最高難易度とされる『Aランク』のクエストボードを、無表情で指差した。
そこには、こう書かれていた。
『“双頭の巨人”サイクロプス』の討伐
エルミナは、バルガスを一瞥してから、まっすぐに俺に向き直った。
「……先日、バルガス選手のチーム(アイアン・ブルズ)が『失敗』し、撤退したクエスト(試合)です」
「なっ……!?」
バルガスの顔色が変わる。
「(エルミナ……てめえ……!)」
ジョッキを握りつぶさんばかりの力が入っている。
俺たちも息を呑んだ。
「(バルガスが……失敗した相手?)」
エルミナは、俺の『視点』を真っ直ぐに見据える。
「あなたの『戦術』が、バルガス選手の『パワー(戦力)』を超えるか」
彼女は、冷徹な審判のように宣告した。
「――『データ(数値)』で証明してもらいます」




